表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
139/142

35 鼻毛の錬金術師1(前編)

 夜も更け、いっそう闇を深めていく森。

 ヤブに隠された獣道を切り開くようにして、男たちの集団が歩いていく。


 総勢十一名。先頭に立つのは、地元の猟師めいたいでたちの、野性味あふれる男だ。

 高出力の魔導ランタンをかざし、あたりを煌々と照らしている。


「本当に、こんな森の奥にあるんですかい?」


 男が振り返ると、後ろには似たような猟師風の男たち。

 その集団の中央に、ひとりだけ明らかに毛色の異なる者がいる。夜狩りに出た貴族のような、立派なコートに身を包んだ男だ。


 割れた顎と、鼻下にたくわえられたフサフサの毛が、その顔をやけに印象づけている。

 コートの胸には、ヴォエラニアンと同じ紋章が縫いつけられていた。


 男はたしなむような面持ちで、猟師たちのランタンを頼りに広げた地図を眺めている。


「うむ。必ずやここに、『精霊の隠れ里』がある。私の錬金術師としてのカンが、そうささやいているのだ」


 隣のノッポ猟師が、揉み手をしながら相槌を打つ。


「なら、間違いありやせん! なにせプロフェッサー・ワッサーフォックス様は、泣く子もひれ伏す国家錬金術師様なのですから!」


「ふむ。私のことは親しみを込めて、ワッサーと呼びたまえ」


 と、満更でもなさそうなワッサーフォックス。

 負けじと、反対隣のデブ猟師もおべっかを使う。


「そうそう! 肩書きだけじゃなく、見た目までご立派とは! ワッサー様のその口ヒゲ、惚れ惚れしまさぁ!」


 さっそくワッサーと呼ばれた男が、ピタリと足を止める。

 取り巻きの猟師たちも足を止め、不思議そうにワッサーを見た。


 ワッサーは、バッ! とコートをめくる。

 その下からあらわになったのは、きわどい革帯で肌を締めあげた、あられもない半裸の身体。


 衝撃的な姿だが、猟師たちはもう見慣れているので、誰も驚かない。

 コートの裏には試験管がびっしりと並び、ワッサーはそのうちの、緑色の液体が入った一本を抜き取る。


 そして上を向き、大きく口を開けて舌を出すと、これ見よがしに液体を舌へ垂らして飲み込んだ。

 次の瞬間、その両腕がぐぐっと膨れ上がり、コートの袖がバンッ! と破れ、袖なしへと変わる。


「ひいっ!?」


 弾け飛んだ生地に、猟師たちが後ずさる。

 気づけば、口ヒゲを誉めたデブ猟師が、宙高くに吊り上げられていた。


 デブ猟師はワッサーの三倍はあろうかという大男だが、そのワッサーの両腕には人ならざる筋肉が盛り上がり、片手で猟師の喉仏を掴んだまま、軽々と宙へ持ち上げている。

 デブ猟師は、いきなりの暴挙にわけもわからず、苦悶の表情で足をジタバタさせる。


「な……なぜっ……!? く……苦し……! お、お許し……をっ……!」


「アルケミスト・バスターっ!」


 ワッサーは技名のようなものを叫び、デブ猟師を投げ飛ばす。大男は背中から、「ぐはっ!?」と木にぶつかる。

 夜の闇へ、鳥たちが一斉にはばたいていく。その巨体は木の幹に沿ってズルズルと落ち、地面に尻もちをついた。


「ば……バカ野郎っ!」


 仲間の猟師たちがデブ猟師に駆け寄る。助け起こしながら、小声で鋭くささやいた。


「ワッサー様のアレ(・・)は口ヒゲじゃねぇ、鼻毛だ!」


「それを間違えるなんて、テメェは命知らずかよ!」


「し……知らなかったんだ……!」


 と、しゃがれ声をあげるデブ猟師。


「でも、あそこまで怒らなくても……!」


「バカ、知らねぇのかよ!」


 別の猟師が、声をひそめて続ける。


「ワッサー様はかつて勇者パーティにポーションを提供して、陰ながら英雄たちを支えたんだぞ!」


「それだけじゃねぇ、精霊の力による『精霊金術』っていう、新しい錬金術を作り出されたんだ!」


「その偉大なる功績から『次世代錬金術の父』と呼ばれ、フーリッシュの国王からも二つ名を授けられたんだ! その名も……!」


 ボソボソとささやかれたその名を、デブ猟師は思わず叫んでいた。


「はっ……『鼻毛の錬金術師』っ……!?」


 月を背に、岩の上へ立つワッサーを、猟師たちが見上げる。

 ワッサーは、夜風に揺れる鼻毛を指で撫でながら言う。


「水、三十五……!」


 そこまでは堂々としていたのに、急に言い淀む。


「水、三十五……キロ……? あとは、炭……いや、水素……?」


 コホンと咳払いをして、言い直す。


「水、半分……! 人間は、半分が水でできている……! だが私の半分は、偉大さだ……! この鼻毛は、我が内にあるものが、しとどに漏れ出したもの……! 偉大さの具現化であると、肝に銘じよ……!」


「はっ……ははぁぁぁーーーーっ!!」


 ひれ伏す猟師たち。


 と、不意にガサリと茂みが揺れる。

 ワッサーは、まるで得物を抜き打つような鋭い手つきで、コートの中から、赤い液体の入った試験管をすばやく取り出す。


「ベノメノン・クラッシュ!」


 試験管は、抜き放った勢いのまま茂みへ投げつけられ、ドンッ! と爆発する。

 茂みの中から、「きゃあっ!?」と、ふたりの少女が倒れ出てくる。


 その耳を見て、ワッサーが目を細める。三日月の形に吊り上がった唇から、「おやおや」と、ねっとりした声が漏れる。


「幼き精霊たちであったか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みくださりありがとうございます!
↑の評価欄の☆☆☆☆☆をタッチして
★★★★★応援していただけると嬉しいです★★★★★

▼コミックス8巻、発売中です!
jzdd8ckk7fea69814ryt33k63xbn_1bko_ak_f0_72ar.jpg

▼コミカライズ連載中! コミックス発売中です!
ix0s40e57qxt33v43hvp6sa1b4tq_d3j_7n_53_a06.jpg liv1nc3gnnsjqxl9i33inre6rpy_nnp_3j_53_10vx.jpg 7torhnt1466d5k1v1a0yhxkg3yud_dnb_3k_53_15d4.jpg 3780l3ki5oa0e7a3cwgaa107gtbm_104l_3l_53_1547.jpg c2km7fnbuyxf9i1h9909diq55m1_313_3l_53_14fd.jpg d0t94jt64sntm8ydcomjfloiebe2_krf_3l_53_14k8.jpg bn203zyneufhihaxh3rm6a6whu7b_arg_3j_50_14h0.jpg pxge9z573sif3otl0s0ivqy5m9q_wtz_3j_50_12ek.jpg kg6xm9a17367i7n22p3heo5ckx4n_gla_3j_50_13j1.jpg
▼小説2巻、発売中です!
4qal7ucn4ecv3bmwhixjlinz1h24_1aru_3l_53_12uj.jpg ah438036f57n9yf3bm6i65zrj1za_pfu_3l_53_13p3.jpg
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ