28 ユニバス様エピソード対決2
街角で、ユニバス・シックスたちはドラハンに首縄をつけられ、無造作に足蹴にされていた。
と、そこへ一陣の風とともに、色とりどりの花びらが舞い込んだ。花吹雪は、ドラハンの顔を覆い尽くす。
「うわっぷ!? な、なんだこれは!? は、花びらだと!?」
「美しき花は、誰のものでもない。なぜならばそれは、神が決めたことだからだ」
「だ、誰だっ!?」
ドラハンとユニバス・シックスが声のしたほうを見やると、そこには魔導馬トランスにまたがった、ひとりの男がいた。
少女漫画から抜け出してきたような、線の細い美貌のユニバスだった。
トランスの両脇には、目を伏せてうつむき加減のティフォンとイズミが、従者のように寄り添っていた。
「そして美しき精霊は、すべて俺のもの。なぜならばそれは、俺が決めたことだからだ」
ユニバスは、ただひたすらにりりしかった。
「俺の精霊から離れろ、ゲス野郎」
「な、なんだと!?」
ユニバスは四つん這いになったイズミを踏み台がわりにしてトランスから降り立つと、悠然とドラハンに対峙した。
「どうやら貴様は見た目だけでなく、心まで醜い人間のようだな。ならばせめて、花のように散るがいい」
「ふ……ふざけるなぁぁぁーーーっ!!」
逆上したドラハンが殴りかかっていった。だがユニバスは、たったのワンパンでその身体を、まさに花びらのごとく天高く吹き飛ばしてしまった。
振り終えたユニバスの拳を、寄り添うイズミがそっと拭った。すかさずティフォンが、鉢植えのバラを一輪、うやうやしく差し出した。
ユニバスはそのバラを摘み取り、香りをひと嗅ぎすると、ユニバス・シックスへ流し目を向ける。
「花がなぜこんなにも馥郁に、美しく咲くか知っているかい?」
問いかけておきながら、ユニバスは答えを待たなかった。摘んだバラを、無造作に上着のポケットへ差した。そして、ウインクをひとつ。
「この僕に、こうしてほしいからさ」
ユニバスは、ユニバス・シックスに向かって両手を翼のごとく広げた。
「おいで。花束のように抱いてやろう」
その瞬間、あたりの景色が一変した。ユニバスはいつしか艶やかなシルクのガウンをまとい、その背には満開の花々。ユニバス・シックスもまた、可憐なネグリジェ姿になっていた。
「ゆ……ユニバスさまぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
感極まったユニバス・シックスは、いっせいに駆け寄って、ユニバスと熱い抱擁を交わしたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
金の精霊の回想は、ユニバス紅蓮隊の面々の絶叫によって、無理やり中断させられる。
「う、うそだろ!? それってまさか……!」
ブレイズが、ごくりと喉を鳴らす。いっぽうの金の精霊は、上気した頬に手を当て、火照った身体をくねくねとさせている。
「夢のような一夜のあとは、朝日の海が見えるテラスで、朝食を……。ユニバス様に、あーんして召し上がっていただいたわ……」
ベッドでの甘い朝の目覚めに、仲睦まじい朝食の情景。
金の精霊の語るユニバスとの思い出は、もはや誇大妄想の域にまで達している。
と、そこへ不意に、冷や水を浴びせるような声が投げかけられた。
「はんっ、そういうことか!」
ユニバス・シックスとユニバス紅蓮隊がいっせいに視線を移すと、そこには後ろ手に縛られたドラハンがいた。
身体じゅうアザだらけ、身ぐるみを剥がされて、いまやパンツ一枚という無様な姿である。
「なぜこんな所でくだらん話をしているのかと思えば、なにもかも読めたぞ! これまでの数々の暴挙、その理由もな! 貴様ら、この僕に抱いてほしかったのだろう!?」
「はぁ?」
金の精霊が、極寒の視線を返す。
「そんなわけないでしょう。この期に及んで、どこまでおめでたい頭をしているんですか。あなたみたいなド変態と関わったこと自体、人生の汚点だと思っているのに」
「はんっ、照れ隠しが下手だな! ならばなぜ、この僕の服だけを奪った!? 僕に抱いてほしくて、たまらないからだろう!?」
ドラハンは人を、いや精霊を見下しきったような、傲慢不遜の笑みを浮かべている。
「いい加減、素直になってこの縄をほどけ! これは飼い主からの命令だ! そうすれば、あの無能との忌々しい思い出など、きれいさっぱり忘れさせてやるぞ!」
「準備できました」
ふと、精霊たちの手によって、一台の台車が運ばれてくる。その上に乗っているのは、あの拷問部屋にあった炉だ。
炉の中には熱々に焼けた石がぎっしりと詰まり、いくつもの焼印が挿し込まれている。
「ご苦労様」
運んできた精霊たちを、金の精霊がやわらかく労う。それから炉の焼印を取ろうとドラハンへ背を向ける。
彼女はその姿勢のまま、ぽつりとつぶやいた。
「やはり、あなたには反省の色というものが無い……。もはや、透明といっていいほどに……。だから、こうして準備してもらって正解でした……」
「いっ、いったい、なにをするつもりだっ!?」
金の精霊は、くるりと振り向きざまに、焼印を大きく振りかぶった。
「……こうするのよっ!」
……ジュゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ドラハンの胸に、焼印が押し当てられる。白煙があがり、悲鳴が響き、肌の焦げる匂いがあたり一帯に立ちこめる。
それがゆっくりと離されると、その胸には……『この世でもっとも愚かな人間』の文字が、くっきりと刻まれている。
それを合図に、ユニバス・シックスの面々がめいめい焼印を手に取り、ドラハンをぐるりと取り囲む。そして、容赦なくその肌へ焼き付けていく。
「ぎゃあっ!? ぎゃあっ!? ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ドラハンは七転八倒の絶叫をあげ、必死に暴れて逃れようとする。だがユニバス・シックスの面々は、その身体を足で踏みつけて逃さず、憎悪もあらわに、あちこちへ烙印を押しつけていく。
「あなたのような人間がいるから、精霊が不幸になるのよ!」
「なにが奴隷よ! なにが家畜よっ!」
「わたしたちのご主人様も、飼い主も、ユニバス様ただおひとりよっ!」
「もう何度もそう言っているのに、しつこくつきまとって!」
「このド変態! ド畜生! ド外道っ!」
「言葉でわからないなら、その肌に直接、焼きつけてやるわ!」
「陸の上だと人間に止められるから、わざわざここで準備したんだからね!」
「邪魔は入らないから、たっぷり思い知りなさい! いいえ、思い知れぇぇぇぇーーーーーっ!!」
まるで棒で袋叩きにされているかのようなドラハン。踏みつける美脚の間から白煙がもうもうと立ちのぼる光景は、いっそう凄惨で、数珠繋ぎに縛られた船員たちは、すっかり震えあがっている。
「ぎゃああっ! ゆ、許して! 許して許して許して! ひぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!」
生きたまま火あぶりにされているかのような悲鳴は、打ち寄せる波の音すらもかき消していた。
















