26 ユニバス様エピソード対決1(前編)
精霊美女軍団と紅蓮隊、そしてユニバス・マーメイズ。三者の活躍によって、囚われていた精霊たちは全員が無傷で救い出され、船員たちはひとり残らず捕縛された。
割れたままの海の底。数珠繋ぎに縛られ、跪かされた船員たちを横目に、精霊美女軍団のリーダーである金の精霊と、紅蓮隊のリーダーのブレイズが、固い握手を交わしている。
「まさかユニバス様のために戦うチームが、俺たち以外にもいるとはな! せっかくだ、改めて自己紹介させてもらうぜ!」
紅蓮隊の面々が、ビシッとポーズを決めて叫ぶ。それは扇状に広がる、燃え盛る炎を思わせるポーズだ。
「「「「「我ら、『ユニバス紅蓮隊』っ! ユニバス様のためなら、たとえ火のなか水のなかっ!」」」」」
「か、かっこいい……!」
精霊美女軍団が、思わずといった調子でつぶやく。負けてなるものかと、金の精霊も言い返す。
「わ……私たちは、えーっと……『ユニバス・シックス』よ!」
これには、後ろにいた精霊美女軍団のほうが「えっ」となる。
「ちょっと、いつの間にそんな……!」
問いかけてくる仲間たちに、金の精霊は気まずそうに言い返す。
「い、いま決めたの!」
「なんで!?」
「……ちょっと、羨ましかったから」
小声でやりとりする彼女たちを、ブレイズは「ハッ」と鼻で笑い飛ばす。
「なんだ、揃って気合いの入った身なりのわりに、決めポーズも決めゼリフも無ぇのかよ! どうやらチームとしちゃ、まだお子ちゃまみてぇだな!」
これには金の精霊だけでなく、後ろの精霊美女軍団もムッとなる。
「そんなことない! ユニバス様への忠誠心なら、誰にも負けないわ!」
「どうだか。どうせ、ユニバス様にお会いしたこともねぇんだろう?」
「「「「「「会ったことあるわよ!」」」」」」
六人そろって言い返され、ブレイズは一瞬、面食らう。だがすぐに、挑戦的な笑みを返す。
「そうかい。なら……アレをやるか?」
「「「「「「望むところよ!」」」」」」
ユニバス紅蓮隊とユニバス・シックス、両者の目からビームが放たれ、真っ向からぶつかりあって火花を散らす。
いまにもバトルが始まりそうな剣呑さに、隣で縛られた船員たちが「アレってなんだ……?」とつぶやく。
その疑問に答えるように、ブレイズが手をかざした。
「いくぜ、『ユニバス様エピソード対決』! 先行は、この俺だ!」
『ユニバス様エピソード対決』。それはおのおのが経験した、ユニバスとの出来事を披露し、相手をより羨ましがらせたほうが勝ちという競技だ。
精霊界では『アレ』の一言で通じるほど、ポピュラーなものである。
「ユニバス様との出会いはそう……こんなカンジの、静かな海から始まったのさ」
ブレイズは臨場感たっぷりに、語りはじめた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
当時、中坊だった俺たちは、手の付けられねぇワルガキだった。
人間嫌いで、人間にはしょっちゅう悪さをしてたもんだ。
その日も、人間から盗んだ馬車を走らせ、追われてチェイスの真っ最中。だが、とうとう追い詰められて、崖っぷちから馬車ごと海にダイブしちまった。
炎の精霊にとって、水は大敵だ。それでも人間たちは、誰ひとり助けちゃくれなかった。
溺れる俺たちに向かって、「ざまぁみろ!」「天罰だ!」「そのまま死ね!」と、さんざん罵声を浴びせて帰っていったんだ。
懸命に叫んで助けを呼んでも、誰も来ちゃくれねぇ。少しずつ、意識が遠のいていく……。
死を感じた途端、俺は生まれて初めて、神ってヤツに頼った。
死にたくねぇ! 助けてくれ、神様! 助けてくれたら、真面目に生きる。アンタのためなら、なんでもするから!
俺は必死に、そう祈っていた。
だが、神様は見向きもしちゃくれなかった……。
いや、ちゃんと願いを聞き届けてくれたのかもしれねぇ。
だって……俺にとっての神ともいえるお方が、そこに現れたんだからな……!
「待ってろ、いま助けてやるぞ!」
そんな声が、岩場のほうから聞こえてきた。
見れば人影がひとつ、上着を脱ぎ捨てたかと思うと、ためらいもなく海に飛び込んできた。
それから俺たち五人は、その人間の手で、次々と岩場まで引き上げられたんだ。
「こんなに身体が冷たくなって、水も大量に飲んでるみたいだな。まずは温めないと」
人間が溺れた場合は、まず水を吐かせ、それから体温を確保する。しかし炎の精霊の場合は逆で、真っ先に身体を温めてやる必要がある。
どうやらこの人間は、炎の精霊のことに詳しいらしかった。
だが、このとき俺は悟っていた。もう手遅れだ、と。
なにせここは岩場で、雑草の一本も生えちゃいない。燃やすものもなけりゃ、火を付ける道具すらねぇ。
俺たち炎の精霊は口から炎を吐けるが、いまは濡れたマッチも同然だった。ロウソクの火ひとつ、灯せやしねぇ。
でも、それで構わなかった。
人間なんてみんなロクでもなくて、俺たち炎の精霊を使い捨てのマッチくらいにしか思っちゃいねぇヤツらばかりだった。
だが最後の最後で、こんな人間が……俺たちのために本気になってくれる人間がいるんだと、わかったんだからな。
「も……もう、いい……。俺たちゃもう、助からねぇ……。アンタのその気持ちだけで、じゅうぶんだ……。最後に、いいもん見せてもらったぜ……。あ……ありがとよ……」
そう言えば、あきらめてくれると思った。なのに、
「あきらめるな! あきらめたら、そこで不完全燃焼だ! 絶対に助けてやるからな!」
俺は、頬をひっぱたかれたみたいなショックを受けた。
しかも、その衝撃すら消し飛んじまうことを、ソイツは次にやってのけた。
なんとソイツは、そばにある岩に語りかけたんだ。
「俺の大切な精霊が危ないんだ。どうか、助けてほしい」
すると岩の一部が棒状にせり出してきて、ソイツがそれを掴むと、まるで石の麺棒みてぇなものができあがった。
ソイツは麺棒の先にハンカチを巻き付けると、なにを思ったか、空いたばかりの穴めがけて、その麺棒を突き立てた。
その瞬間、
……パンッ!
と、弾けるような音がした。
石の麺棒を引き抜いてみりゃ、その先には……松明みてぇに、巻き付けたハンカチが赤々と燃え上がっていた……!
信じられるか? ただの人間が、石とハンカチだけで、あっという間に火を起こしてみせやがったんだ。
人間の火起こしなんざ、木と木を延々こすり合わせてチンタラやるもんだと思ってた。だが、コイツは違った。
まるで俺たちが息を吸って炎を吐くみてぇに、ほんの一瞬でやってのけやがった。
これには俺だけじゃねぇ、他のヤツらも唖然としてたよ。死にかけだったもんで、全員が走馬灯でも見てるようなツラだった。
だけど、そこまでだ。
炎があったところで、肝心の燃やすものがなけりゃ意味はねぇ。どのみち、俺たちはもう助からねぇんだ。
俺は、死ぬ前にいいもんを見せてもらった、なんて思いながら……そっと目を閉じたんだ。
















