24 精霊のお裾分け2(後編)
「くらえ、『ユニバス・ラブ・チョーップ』!」
「こっちも負けてられるか! 『ユニバス・ラブ・ファイヤー』!」
水の人魚と炎の精霊が、息の合った連携で船員たちを次々と薙ぎ倒していく。
その光景を、ドラハンは信じがたい思いで見つめていた。
――この精霊どもは、ユニバスの名の元に団結している。なぜだ。自分のほうが、ルックスも性格も良く、何倍も優秀だというのに。
いくら望んでも手に入らなかった、いや、すべての精霊使いが憧れながら、いまだかつて誰ひとり手にできなかった、真の精霊軍団が。
――当のユニバス本人は、ここにいないというのに。それがもう、できあがっているというのか……!
「うっ……うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
嫉妬のあまり全身が爆発したかのような絶叫をあげるドラハン。その背後で、本物の爆発が起こった。
……ドゴォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
火薬庫が大爆発を起こしたのだ。船が真っ二つになり、Vの字に折れる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?」
沈みゆく船の甲板は、大混乱に陥った。
精霊たちが落ちまいと助け合う一方で、人間たちは自分だけが助かろうとして、たがいを蹴落としあっている。
ドラハンは欄干にしがみついていた。
その視線の先には、いまにも折れそうな、剥がれかけの床板にすがるブレイズの姿がある。ドラハンは嘲笑を浴びせた。
「ひゃはははははは! 僕たち人間は、たとえ海に落ちても泳いで陸まで渡れる! しかし炎の精霊は、水に落ちたら長くは持たないよなぁ!」
「う……うるせぇ、ゲス野郎っ! 目障りだ、テメェはさっさと海に落ちやがれ!」
「いいや、ここでじっくり見させてもらうよ! ユニバスなどという無能を崇めた、愚かな精霊の哀れな末路をなぁ!」
ドラハンは、ユニバスのことを見くびっていた。
『ギルド一の精霊使い』と呼ばれていた頃は、それでよかった。だがユニバスと関わってからというもの、歯車が狂いはじめた。
ギルド内での立場だけでなく、彼自身の内側にも揺らぎが生じていたのだ。
カラストラでの精霊バトル、そしてシニストラ山での一連の出来事。
ずっと無能だと侮っていたユニバスに、いいように活躍されてしまった。しかもそれは、ドラハンが理想としてやまない『精霊使い』の姿そのものだった。
それでもドラハンは、決してユニバスを認めようとはしなかった。
認めることは、これまでの自分の人生すべてを否定することだと思っていたからだ。
そしてユニバスを侮り続ける以上に、ドラハンは精霊を侮っていた。
精霊とは、家畜と同じ。牛のように黙々と畑を耕して人間に尽くし、最後は屠殺されることも知らぬまま、笑顔で売られていく。
それこそが精霊の存在意義であり、彼らにとっての幸せなのだと、信じて疑わなかった。
だが、目の前の彼らはどうだ。鋼の意思を持ち、理想のために属性の違いすら越えてひとつになり、自由のために命を懸けて戦っている。
家畜とはほど遠い、いや、人間すらも超えた高潔な存在が、そこにあった。
彼らに比べれば、生まれや肌の色の違いでいがみ合う人間のほうが、よほど滑稽に見えてしまう。
そして、精霊たちをそこまで昇華させたユニバスのことが、たまらなく羨ましくなった。
だからこそ、ドラハンはすがった。せめて最期くらい、醜くあってくれ、と。
炎の精霊が醜態をさらして死んでいってくれれば、心に重くのしかかりつづけたユニバスという存在も、消えてなくなる。
ドラハンはまなじりを決すると、ことさら挑発するような憎々しい顔を作り、ブレイズに言い放った。
「いくらイキがっていても、死ぬのは怖いか! 本心では、あの魚のできそこないを恨んでいるのだろう!? あいつが助けになど来なければ、お前は死なずにすんだ! この僕の奴隷として、一生幸せに生きられたのに! そう思っているのだろう!?」
ここで少しでも、ブレイズが人魚に恨み節のひとつでも……いや、恨みがましい視線のひとつでも向けてくれればいい。
それだけでいい。それだけで、自分の生きてきた道は間違っていなかったと思える。
もはやドラハンは、祈りにも似た感情を抱いていた。
しかしブレイズは、むしろその言葉で迷いが吹っ切れたような顔になった。
「いいや……人魚たちには、感謝してるくらいだぜ! ほんの一時でも、ゲス野郎の手から解放してくれた……! そしてユニバス様のために、自由になるために戦えたんだ! それで死ねるなら、本望だぜ!」
掴まっていた床板が、重みでずるりと垂れ落ちる。ブレイズは、ついに最期のときを覚悟した。
「くそ……! せめてゲス野郎が落ちるところを見たかったが、こっちが先かよ。……あばよ、ゲス野郎。あの世で会おうぜ」
床板がついに折れ、ブレイズは虚空へと投げ出される。
「地獄の釜を熱々にして、待ってるぜ……!」
「ば……バカめ! お前はただ、海の藻屑となって消えるのだ! なぜならば……精霊に、神はいないっ!」
その声は、空から響いていた。
「愚かなり、人間よ……!」
















