22 精霊のお裾分け2(前編)
焼印が精霊美女の柔肌に触れるまで、あと数ミリ。そのとき、船が激しく揺れた。
「はぁぁんっ!?」
情けない声をあげて、ドラハンがひっくり返る。
「な……なんだ!?」
拷問部屋の外から、慌てた様子の船員が飛び込んできた。
「た……大変です! 水の精霊が、船を攻撃しています!」
「はんっ!?」
いっぽう船の外の海では、人魚たちがしぶきを散らしながら次々と高く宙へ舞い上がっていた。
船員たちは大砲で対抗していたが、的が小さいうえに素早すぎて当たらない。
甲板でクロスボウを構えた船員たちも、飛来した人魚の尾ヒレによる横薙ぎ攻撃で、次々と海へ叩き込まれていく。
「な、なんだ、なんだコイツらは!?」
「なんで人魚が人間を襲うんだ!? 普通の人魚じゃねぇ!」
「しかも空飛ぶサメみてぇな、とんでもねぇ強さだ!」
この人魚たちの正体は、かつてこの海でホーリードゥームの命令により、海割りの奇跡をさせられていた者たちだった。
「精霊を奴隷にするなんて、許せない!」
「精霊を怒らせたらどうなるか、思い知りなさい!」
普段は大人しい人魚たちが荒ぶり、船員たちは押され気味だ。それでも船員たちは、精霊などに負けるわけにはいかないと奮い立った。
「あ……相手は魚みたいなもんだ! 網で一網打尽にしろ!」
……バッ! と、蜘蛛の巣のように網が大きく広がり、飛んできた人魚たちを包み込んだ。
人魚たちは墜落し、打ち上げられた魚のように甲板へ転がる。
「きゃっ!?」
「げへへへ、上玉の獲物だ! 煮ても焼いても旨そうだぜ!」
「暴れても無駄だ! コイツはクジラですらも捕まえられる、密漁用の網なんだからな!」
「思い知ったか! これが人間の力だ!」
形勢逆転かと思いきや、船員たちの余裕は一瞬にして霧散する。
起き上がった人魚たちが、鋭い眼光とともに、網をブチブチとひきちぎりはじめたのだ。
「これが……ユニバス様の愛の力よっ!」
「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
愛の力で人魚たちはさらにパワーアップ。
飛翔の一撃は砲弾のような破壊力となり、船の側面や帆に、次々と大穴を開けていく。
「や……やべぇ!? ば、バケモンだ!」
「に、逃げろ! 逃げろぉぉぉーーーーっ!!」
船員たちは船内に逃げ込もうとするが、人魚たちは体当たりで船を傾け、彼らを片端から転倒させた。
とうとうマストまでへし折られ、船は大嵐のまっただ中にいるかのように大きく傾く。
「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!?!?」
甲板にいた船員たちが、まとめて海へと落とされる。
「なにをしても無駄よ! いまの私たちは『精霊のお裾分け』で力が漲ってるんだからっ!」
「幸せいっぱい、胸いっぱい、元気百倍なのよっ!」
「精霊に仇なす者よ! ユニバス様の愛を思い知りなさいっ!」
なんと、イズミの粋眠はふたつの国をも超え、遥か異国のこの海にまで届いていたのだ。
そしてその幸せは、少し遅れて船内にも波及しつつあった。
揺れる船内で、ドラハンは声を荒らげている。
「慌てるな! 相手はたかが精霊だ! 一流の精霊使いの僕にかかれば、まな板の上の鯉にすぎん!」
「さすがドラハン様! なにか、お考えがあるんですね!」
すがりつく船員たちに、ドラハンは鼻を鳴らす。
「はんっ、当然だ! ここにいるメスブタを人質に……いや、精霊質にして脅せばいいだけだ!」
ドラハンは顎をさすりながら、目の前の精霊美女たちを品定めする。
「そうだなぁ、魚の出来損ないが相手なら、お前がいいだろう」
ドラハンが手を伸ばした先にいたのは、水の精霊美女だった。うなだれる彼女の前髪をガッと掴んで、上を向かせる。
ドラハンは涙に濡れる顔を想像していたのだが、そこにはなんと……!
















