21 精霊のお裾分け1(後編)
ドン引きする精霊美女たちを前に、ドラハンはワナワナと震えだした。
「はんっ! 無能のユニバスが、この僕を卑怯な罠にかけて、シニストラ山の洞窟に置き去りにした……! おかげで、この有様だ……! これまで僕を慕っていたレディたちには、みんな逃げられてしまったよ……!」
怒りに震えるその顔が、クワッと歪んだ。
「だから僕は誓った! 残りの生涯をかけてユニバスに復讐すると! その片棒を担いだお前たちメスブタも、決して許さないと!」
「そんな!? 私たちはなにも……!」
「言っただろう? 僕を裏切る精霊など、いてはならないと……! お前たちはすでに、償えぬほどの罪を犯しているのだ……!」
傍らの炉では、赤々と燃える石の中に、いくつもの鉄棒が突き立っている。ドラハンはそのひとつの柄を掴んで引き出した。
焼けた石の中からガラリと現れたのは、焼印だった。赤熱した反転文字で、『ドラハン所有』と刻まれている。
精霊美女たちが「ヒッ」と声をあげる。
「ま、まさか、それを私たちに……!?」
「これは、『奴隷の烙印』……! 首輪よりも強力な拘束能力がある……! 押されたら最後、お前たちは真の家畜となるのだ……!」
ドラハンはサディスティックな笑みを浮かべ、恐怖を煽るように、焼印を精霊美女たちの鼻先で往復させる。
精霊美女たちは恐怖のあまりガクガクと震えていた。開ききった瞳孔からは、いまにも涙の粒があふれ出しそうだ。
「や……やめて……!」
「お……お願いします……それだけは……!」
「ゆ……許して……許してください……!」
想像以上のリアクションに、ドラハンは愉悦の表情を浮かべる。
「はんっ。ならば誓うのだ。『私たちは無能のユニバスに騙されていました。ドラハン様への忠誠の証に、ユニバスを殺してごらんにいれます』と……!」
ドラハンは、これだけ怯えているのだから、彼女たちは尻尾を振るようにユニバスへの反旗を翻すだろう、と踏んでいた。
そのタイミングで焼印を押してやれば、心は完全に堕ちる。無能のユニバスを八つ裂きにする、精霊美女暗殺軍団の完成だ。
ドラハンの脳裏に、闇堕ちした精霊美女たちにズタボロにされたユニバスの姿が浮かぶ。
そこにはさらに、「素敵!」と瞳にハートを浮かべて自分に抱きついてくる、ティフォンとイズミの姿まであった。
「さぁ家畜たちよ、口を揃えて鳴くのだ! このドラハン様への忠誠の嬌声を! 無能のユニバスへの反旗の雄叫びを!」
しかし、精霊美女たちから返ってきたのは、まさかの返答だった。しかも、六人が同時にハモっている。
「「「「「「それはイヤですっ!」」」」」」
「はんっ!?」
精霊美女たちは恐怖に立ち向かうように、気丈に訴える。こらえていた涙を、はらはらとこぼしながら。
「それだけは……! それだけは、絶対にできませんっ……!」
「あのお方に助けていただいた、あの日……! 私たちは誓ったのです……!」
「この髪、この肌、この肉、この骨……! 五臓六腑のすべてを、あのお方に捧げることを……!」
「私たちがかく汗、流れる血、あふれる涙……それらは一滴残らず、あのお方のために流そうと……!」
「あのお方のために生きてこそ、私たちは輝く……! 私たちがこの世に生まれてきた、証でもあるのです……!」
もはや彼女たちの顔に、恐怖はない。
精霊美女たちのリーダー的存在である金の精霊が、堂々と告げる。
「我ら、天に誓う! 生まれた日は違えど、死す時は、同じ理由を願わん!」
それだけで、精霊美女たちの心はひとつになっていた。
「「「「「「すべては、ユニバス様のためにっ!!」」」」」」
「うっ……うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ドラハンはまるで、手にした焼印が自分の額に押されてしまったかのように悶絶した。
「なっ……なぜだっ!? なぜだなぜだなぜだっ!? なぜだっ!? なぜそこまで、あの無能に心酔するっ!? この僕のほうが、ルックスも、地位も、名誉も、財産も、ファッションセンスも……! なにもかも、上なのにっ!? あの無能は、なにひとつだって……! パジャマの柄ですら、この僕に劣るというのにっ!?」
「あなたのように、力で精霊を支配しようとする愚か者には、永遠にわからないでしょう! あのお方の素晴らしさは!」
「黙れ黙れ黙れっ! 黙れっ! こうなったら全身焼印だ! そうすればどこから見ても、僕の精霊だとわかる!」
「い……いやっ!?」
「いまさら後悔しても遅い! 全身焼印をしたら、廃人……いや、廃精霊になるのは確実だが、構うものか!」
「や……やめてっ!? やめてーっ!」
「その恐怖に引きつった顔のまま、剥製にして飾ってやる! タイトルは……!」
焼印をがばあと振りかざすドラハン。その瞳は、完全に正気を失っていた。
「『この世でもっとも愚かな精霊』だぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「「「「「「ゆ……ユニバスさまぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」」」
……ズドォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
















