20 精霊のお裾分け1(前編)
ところかわって、フーリッシュ王国とキングバイツ王国との間に横たわる海峡。
かつてホーリードゥームの海割りの奇跡が行なわれたこの海の沖合を、一隻の奴隷船が航行していた。
船倉にはいくつもの牢屋が並び、『精霊狩り』によって捕らわれた精霊たちが閉じ込められている。
その奥の薄暗い拷問部屋では、美しき精霊女が六人、磔にされていた。
彼女たちは、かつてユニバスに窮地を救われたことのある、精霊美女軍団だ。
海賊のような身なりをした、むくつけき人間の男たちが彼女たちを取り囲み、下卑た笑いを浮かべている。
「ぐへへへへ! 旦那の言うとおりだったぜ! まさかこんなべっぴんの野良精霊が手に入るなんてな!」
すかさず精霊美女たちが言い返す。
「私たちは野良精霊じゃない!」
「そう、私たちはユニバス様の精霊よ!」
「ユニバスだぁ? もしかして、あの無能のユニバスのことかぁ?」
「ぎゃははは! ウソをつくなら、もっとマシなウソをつけよ!」
「そうそう! アイツは人間どころか精霊からもバカにされてるほどの無能なんだぞ!」
「アイツはなぁ、精霊にすら相手にされないからって、精霊姫をさらっちまうような最低のヤツなんだ!」
「それはすべてデタラメよ! ユニバス様は……!」
「そんなこたぁどうでもいいんだよ! 飼い主が誰であれ、お前らはもう売り飛ばされる運命なんだ!」
「どいつもたまんねぇなぁ! こりゃ高く売れるぜぇ!」
「でもその前に、俺たちでちょっと味見してやろうぜぇ!」
「そうだな! いっちょ、かわいがってやるとするか!」
「げへへへへ……!」
舌なめずりしながら、男たちが精霊美女たちに迫る。
「い……いやっ! やめてっ!」
「た……助けて!」
「だ……誰かっ!? 誰かぁーーーっ!」
精霊美女たちは全身で暴れて抵抗しようとする。しかし拘束された状態では肢体をくねらせることしかできず、彼らの目を楽しませる扇情的なダンスにしかならなかった。
「ぎゃはははは! 踊れ、踊れ! その色っぽいケツをもっと振りやがれ!」
「うひょおっ、もう我慢できねぇ! 俺ぁもうヤッちまうぜ!」
「い……嫌っ……! ユニバスさまぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
だが、ユニバスはいま、トコナッツ王国とリングラッド王国の間にある荒野にいる。この船からは、フーリッシュ王国とサンドーラ王国、ふたつの国をまたいだ先だ。
いくら叫んだところで、そんな遠方まで声が届くはずもなかった。
しかし……!
「汚い手で触るな」
「だ……誰だっ!?」
男たちがいっせいに振り返る。
拷問部屋の入口には、廊下から差し込む光を後光のようにまとって立つ、ひとつの人影があった。
精霊美女たちは、ひとすじの光を見たような表情になる。
「う……うそ……!?」
「まさか本当に、あのお方が……!?」
人影が歩み出ると、その全貌が明らかになる。金髪のロングヘアに仮面をつけた、貴族風の身なりの男だった。
明らかにユニバスではないその風貌に、精霊美女たちは「だ、誰……?」と戸惑う。
むくつけき男たちは、急に慌てだした。
「あっ!? だ、旦那! こ、これは誤解でさぁ!」
「奴隷が退屈してないかなと思って、いっしょにダンスしてたんでさぁ!」
「そうそう、こんな風に、ねっ!」
その場でタコ踊りを踊り始める男たちを横目に、旦那と呼ばれた男は冷たく言い放った。
「それ以上、僕の目を汚すな。それよりも、例のモノを準備するんだ」
その一言で、男たちは「へ、へいっ!」と拷問部屋を出ていった。
部屋には、仮面の男と精霊美女軍団だけが残される。
精霊美女軍団のひとりが、おそるおそる尋ねた。
「あ……あなたは、いったい……?」
すると仮面の男は、ピクリと肩を震わせた。
「はんっ……! あなたは、だと……!?」
「そ……その声は……!」
やがて男たちが、ひとつの炉を運んで戻ってくる。煌々と燃える石が詰め込まれたそれが据えられると、拷問部屋にオレンジ色の光が溢れた。
「犬ですら、飼われた恩は一生忘れないというのに……! やはりお前たちは、畜生以下だったか……!」
仮面の男が、おもむろに仮面へ手を掛け、それを外した。下からのオレンジの光を受けて不気味に照り返すその顔に、精霊美女たちは叫んだ。
「ど……ドラハンっ!?」
「様をつけろ、メスブブタっ!!」
精霊美女たちはビクリとする。怒鳴られたからではない。仮面の下から現れたその顔が、あまりにも不気味だったからだ。
ドラハンの額には『ド』の文字、右頬には『変』の文字、左頬には『態』の文字が、デカデカと彫り込まれていた。
正面から見ると、『ド変態』……!
















