18 粋眠(中編)
ドキッ……!
俺の言葉に、ティフォンとガミメスは心臓を急襲されたような顔になった。
そして同時に、粋眠に入ったイズミが羨ましくてたまらなくなったようだ。
「わ……わたしも粋眠したい!」
その言葉に、俺は当たり前のように答える。
「粋眠なら、よくしてるだろ」
「えっ?」
「初めては、イドオンの村だったかな」
俺の脳裏に、あの夜の光景がよみがえる。
ティフォンはその日が楽しかったりすると、夜に眠るときに粋眠へ入る。遊園地で一日じゅう遊んだ子供が、まっしぐらに眠るように。
そしてそのときの彼女は、暴風を伴ったすさまじい寝相になるのだ。
イドオンの村で一夜を明かしたとき、俺はすさまじい寝相で廊下に転がるティフォンを抱き起こした。
その寝顔を見ていた俺はきっと、さっきイズミに向けたのと同じ表情だったに違いない。
『粋眠するなんて……よっぽど楽しかったんだな……』
そんな昔話を聞かされたティフォンは、またも青天の霹靂といった顔になった。
「え……ええっ!? そういえばたまに、メチャクチャ気持ちいい夢を見ることがあったけど……!」
「それってどんなの?」
ガミメスが横から口を挟む。
「それはもちろん、ユニバスくんと……」
言いかけて、その夢を思い出したのか。ティフォンの顔がカッと赤くなり、とっさに誤魔化す。
「そ……そんなことより! 幸せな夢を見た朝は起きた時、まわりがメチャクチャになってた……! ユニバスくんって寝相が悪いんだなぁ、って思ってたけど……!」
俺はちょっとあきれてしまう。
「俺のせいだと思ってたのかよ」
「だって、お城にいた頃はそんなことなかったもん! ま……まさかあれが、粋眠だったなんて……!」
俺が「そうだよ」と、いまさらなにを言っているんだという顔で頷くと、ティフォンは「くぅ~っ!」と拳を握りしめた。
「知らなかったぁ……! でも……それでもわたしは粋眠したいの! できればいますぐに!」
ティフォンは寝室を飛び出していく。
俺とガミメスが後を追って廊下に出てみると、彼女の服が点々と落ちている。
廊下の奥にあるウォークインクローゼットのほうから、「うぉーっ!」と着替えに奮闘する声が聞こえてきた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ティフォンは得意の早着替えでパジャマ姿になり、部屋を出ようとする。
だが、その出入り口には、ガミメスが立ちはだかっていた。
ガミメスは腕を組んで扉のへりに寄りかかり、ティフォンの格好を舐め回すように眺めると、せせら笑った。
「ざぁこ、そんな格好で大丈夫そ?」
「えっ」
「夢の中とはいえ、ユニバス様と超気持ちいいことをするんでしょ? それなのにそんな、いつもしてそうな格好をするなんて……。ティフォンにとってユニバス様って、その程度の存在だったんだ」
ティフォンに、三度目の青天の霹靂が襲いかかった。
「そ……それもそうだね! もっとおめかししなきゃ! ありがとうガミメスちゃん!」
この馬車はもともとは勇者ブレイバンのものなので、ウォークインクローゼットには高級ブティックばりの品揃えがある。
ティフォンは、あれでもないこれでもないと服を探し回りはじめた。
その後ろ姿を、ガミメスは「ざぁこぉ……!」と嫌らしい笑みで見送り、部屋をあとにする。
それから小一時間ほどして、ティフォンがクローゼットから出てきた。
飛び出したときの勢いはどこへやら、しずしずとした貞淑な歩みで寝室へと戻っていく。
その装いは、なんとウエディングドレス。めいっぱいのおめかしをして、緊張と恥じらいをたたえた面持ち。
まるで結婚式当日、新婦の晴れ姿を新郎にお披露目するかのような雰囲気だった。
「お……お待たせ、ユニバスくん……」
だが、そこには新婦が想像だにしなかった光景が広がっていた。
















