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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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18 粋眠(中編)

 ドキッ……!


 俺の言葉に、ティフォンとガミメスは心臓を急襲されたような顔になった。

 そして同時に、粋眠に入ったイズミが羨ましくてたまらなくなったようだ。


「わ……わたしも粋眠したい!」


 その言葉に、俺は当たり前のように答える。


「粋眠なら、よくしてるだろ」


「えっ?」


「初めては、イドオンの村だったかな」


 俺の脳裏に、あの夜の光景がよみがえる。

 ティフォンはその日が楽しかったりすると、夜に眠るときに粋眠へ入る。遊園地で一日じゅう遊んだ子供が、まっしぐらに眠るように。

 そしてそのときの彼女は、暴風を伴ったすさまじい寝相になるのだ。


 イドオンの村で一夜を明かしたとき、俺はすさまじい寝相で廊下に転がるティフォンを抱き起こした。

 その寝顔を見ていた俺はきっと、さっきイズミに向けたのと同じ表情だったに違いない。


『粋眠するなんて……よっぽど楽しかったんだな……』


 そんな昔話を聞かされたティフォンは、またも青天の霹靂といった顔になった。


「え……ええっ!? そういえばたまに、メチャクチャ気持ちいい夢を見ることがあったけど……!」


「それってどんなの?」


 ガミメスが横から口を挟む。


「それはもちろん、ユニバスくんと……」


 言いかけて、その夢を思い出したのか。ティフォンの顔がカッと赤くなり、とっさに誤魔化す。


「そ……そんなことより! 幸せな夢を見た朝は起きた時、まわりがメチャクチャになってた……! ユニバスくんって寝相が悪いんだなぁ、って思ってたけど……!」


 俺はちょっとあきれてしまう。


「俺のせいだと思ってたのかよ」


「だって、お城にいた頃はそんなことなかったもん! ま……まさかあれが、粋眠だったなんて……!」


 俺が「そうだよ」と、いまさらなにを言っているんだという顔で頷くと、ティフォンは「くぅ~っ!」と拳を握りしめた。


「知らなかったぁ……! でも……それでもわたしは粋眠したいの! できればいますぐに!」


 ティフォンは寝室を飛び出していく。

 俺とガミメスが後を追って廊下に出てみると、彼女の服が点々と落ちている。


 廊下の奥にあるウォークインクローゼットのほうから、「うぉーっ!」と着替えに奮闘する声が聞こえてきた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ティフォンは得意の早着替えでパジャマ姿になり、部屋を出ようとする。

 だが、その出入り口には、ガミメスが立ちはだかっていた。


 ガミメスは腕を組んで扉のへりに寄りかかり、ティフォンの格好を舐め回すように眺めると、せせら笑った。


「ざぁこ、そんな格好で大丈夫そ?」


「えっ」


「夢の中とはいえ、ユニバス様と超気持ちいいことをするんでしょ? それなのにそんな、いつもしてそうな格好をするなんて……。ティフォンにとってユニバス様って、その程度の存在だったんだ」


 ティフォンに、三度目の青天の霹靂が襲いかかった。


「そ……それもそうだね! もっとおめかししなきゃ! ありがとうガミメスちゃん!」


 この馬車はもともとは勇者ブレイバンのものなので、ウォークインクローゼットには高級ブティックばりの品揃えがある。

 ティフォンは、あれでもないこれでもないと服を探し回りはじめた。


 その後ろ姿を、ガミメスは「ざぁこぉ……!」と嫌らしい笑みで見送り、部屋をあとにする。


 それから小一時間ほどして、ティフォンがクローゼットから出てきた。

 飛び出したときの勢いはどこへやら、しずしずとした貞淑な歩みで寝室へと戻っていく。


 その装いは、なんとウエディングドレス。めいっぱいのおめかしをして、緊張と恥じらいをたたえた面持ち。

 まるで結婚式当日、新婦の晴れ姿を新郎にお披露目するかのような雰囲気だった。


「お……お待たせ、ユニバスくん……」


 だが、そこには新婦が想像だにしなかった光景が広がっていた。


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