17 粋眠(前編)
俺の抱っこで感極まったイズミは、とうとう失神してしまった。
ぐったりした彼女をお姫様抱っこで抱えあげ、馬車の中の寝室へ運んでベッドに寝かせる。
「なんだかイズミちゃん、すっごく気持ち良さそう……」
ティフォンは微笑ましそうに見ていたが、その寝顔の異変にすぐ気づいた。
「あれ? イズミちゃんの顔、虹が架かってるよ?」
たしかに、イズミの顔の上には大きなシャンプーハットのような虹が架かっていた。
「ああ、これはイズミがいま、粋眠に入っている証さ」
「スイミン?」
「ざぁこ。ティフォンってばそんなことも知らないの? 精霊は幸せの絶頂に達すると眠っちゃうんだよ。その幸せをずっと感じられるように眠り続けるんだって」
ガミメスの言うとおり、イズミは天に昇ったまま降りてこないような表情をしている。
「し、知らなかった……!」
青天の霹靂とばかりに目を丸くするティフォン。
俺がイズミの寝顔に見入っていると、彼女はすかさず尋ねてきた。
「ユニバスくん、嬉しそうだね」
「そりゃそうさ、イズミが幸せを感じてくれたんだから。それに粋眠には、精霊にも人間にもメリットがいっぱいあるんだ」
「そうなの?」
俺はベッドサイドの水差しを取ると、コップに水を注ぎ、「飲んでみて」とティフォンに渡す。
ティフォンは不思議そうにコップを受け取り、水をひとくち飲んだ。そして目をパチクリさせる。
「う……うまっ!? こ……この水、すっごく美味しい!? こんな水、初めて飲んだよ! ガミメスちゃんも飲んでみて!」
「ざぁこ、あたしは炎の精霊だよ? 水なんて飲んでも……うんまぁーっ!?」
あまりの美味しさに、ふたりはとうとう水差しごとラッパ飲みする始末だ。俺は言った。
「精霊が粋眠に入ると、周辺にある同属性のものも幸せを感じてパワーアップするんだ。水は美味しくなるし、風はやさしくなり、炎は暖かくなる。これを『精霊のお裾分け』っていうんだ」
「こんな美味しいお水が飲めるなら、大歓迎だよ!」
感激するティフォンに、俺は頷いた。
「精霊たちの幸せは、人間の幸せでもあるんだ。もし逆に水の精霊たちを本気で怒らせてしまったら、人間なんてあっという間に滅んでしまうだろうな」
「洪水が起きて、なにもかも飲み込まれちゃうってこと?」
「いや、そんな大きな力を使わなくても、人間を滅ぼすのは簡単だ。すべての水を腐らせてしまうだけでいいんだ。水が飲めなくなったら、人間は一週間も生きられないからな」
俺は表情を引き締め、言葉を続ける。
「かつての魔王の登場は、精霊たちが人間に対して我慢の限界になったからなんだ。精霊たちが最終手段に出る前にその怒りを鎮めたくて、俺は勇者パーティの荷物持ちに志願したんだ」
「じゃあユニバスくんのおかげで、世界は救われたってことだよね!」
「ざぁこ、そんなの常識じゃん! ユニバス様はあたしたち精霊のヒーローなんだから!」
俺は苦笑した。
「そんなことはないと思うけど、でも……」
俺はイズミの頬をそっと撫でた。イズミは「ユニバスしゃまぁ……」と、その手に頬ずりを返してくる。
「大好きな精霊の幸せそうな寝顔を見ると、疲れも嫌なこともすべてふっとぶ。この寝顔のためなら、なんでもできるって思えるんだ」
















