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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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17 粋眠(前編)

 俺の抱っこで感極まったイズミは、とうとう失神してしまった。

 ぐったりした彼女をお姫様抱っこで抱えあげ、馬車の中の寝室へ運んでベッドに寝かせる。


「なんだかイズミちゃん、すっごく気持ち良さそう……」


 ティフォンは微笑ましそうに見ていたが、その寝顔の異変にすぐ気づいた。


「あれ? イズミちゃんの顔、虹が架かってるよ?」


 たしかに、イズミの顔の上には大きなシャンプーハットのような虹が架かっていた。


「ああ、これはイズミがいま、粋眠(すいみん)に入っている証さ」


「スイミン?」


「ざぁこ。ティフォンってばそんなことも知らないの? 精霊は幸せの絶頂に達すると眠っちゃうんだよ。その幸せをずっと感じられるように眠り続けるんだって」


 ガミメスの言うとおり、イズミは天に昇ったまま降りてこないような表情をしている。


「し、知らなかった……!」


 青天の霹靂とばかりに目を丸くするティフォン。

 俺がイズミの寝顔に見入っていると、彼女はすかさず尋ねてきた。


「ユニバスくん、嬉しそうだね」


「そりゃそうさ、イズミが幸せを感じてくれたんだから。それに粋眠には、精霊にも人間にもメリットがいっぱいあるんだ」


「そうなの?」


 俺はベッドサイドの水差しを取ると、コップに水を注ぎ、「飲んでみて」とティフォンに渡す。

 ティフォンは不思議そうにコップを受け取り、水をひとくち飲んだ。そして目をパチクリさせる。


「う……うまっ!? こ……この水、すっごく美味しい!? こんな水、初めて飲んだよ! ガミメスちゃんも飲んでみて!」


「ざぁこ、あたしは炎の精霊だよ? 水なんて飲んでも……うんまぁーっ!?」


 あまりの美味しさに、ふたりはとうとう水差しごとラッパ飲みする始末だ。俺は言った。


「精霊が粋眠に入ると、周辺にある同属性のものも幸せを感じてパワーアップするんだ。水は美味しくなるし、風はやさしくなり、炎は暖かくなる。これを『精霊のお裾分け』っていうんだ」


「こんな美味しいお水が飲めるなら、大歓迎だよ!」


 感激するティフォンに、俺は頷いた。


「精霊たちの幸せは、人間の幸せでもあるんだ。もし逆に水の精霊たちを本気で怒らせてしまったら、人間なんてあっという間に滅んでしまうだろうな」


「洪水が起きて、なにもかも飲み込まれちゃうってこと?」


「いや、そんな大きな力を使わなくても、人間を滅ぼすのは簡単だ。すべての水を腐らせてしまうだけでいいんだ。水が飲めなくなったら、人間は一週間も生きられないからな」


 俺は表情を引き締め、言葉を続ける。


「かつての魔王の登場は、精霊たちが人間に対して我慢の限界になったからなんだ。精霊たちが最終手段に出る前にその怒りを鎮めたくて、俺は勇者パーティの荷物持ちに志願したんだ」


「じゃあユニバスくんのおかげで、世界は救われたってことだよね!」


「ざぁこ、そんなの常識じゃん! ユニバス様はあたしたち精霊のヒーローなんだから!」


 俺は苦笑した。


「そんなことはないと思うけど、でも……」


 俺はイズミの頬をそっと撫でた。イズミは「ユニバスしゃまぁ……」と、その手に頬ずりを返してくる。


「大好きな精霊の幸せそうな寝顔を見ると、疲れも嫌なこともすべてふっとぶ。この寝顔のためなら、なんでもできるって思えるんだ」


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