16 はじめての抱っこ(後編)
「ざぁこ、そんなのヤダ! だってあたしがいちばん最初に座ったんだよ? だから、ここはずっとあたしの専用席! ねぇねぇ、いいでしょぉ~?」
甘え声で頬ずりしてくるガミメス。
ふたりっきりだったらそれでもいいんだけどな、と俺は胸の内で思う。
「ダメだよガミメス。いっしょに旅する以上は、みんな仲良くだ。それが守れないなら抱っこはナシだ」
するとガミメスは表情を一変させ、ふてくされた子供のように無言になった。
俺が「返事は?」と強く促すと、ムーッと口を尖らせる。
「ざぁこ……わかったよぉ。じゃああたしが発案者だから50分で、ティフォンとイズミは5秒ずつってことで……」
「ダメだ。みんな同じ時間にするんだ」
ふてくされ作戦が通用しないとわかったのか、ガミメスは急に声を荒げた。
「ざぁこ! もう、わかったよ! じゃあ5分ずつでいいよ! ティフォン、あたし、イズミの順番! んでイズミまで行ったら、あたしに戻ってティフォンってことでいいでしょ!?」
「それだとガミメスの番が多くなるだろう。イズミの次はティフォンじゃないと」
「もう、ざぁこーっ!!」
やれやれ、ガミメスはズルをしたがるというか、おやつを1個でも多くもらおうとする子供みたいなところがあるな……。
ガミメスはそれからも、何かにつけて自分に有利な条件をこっそり忍ばせてきたが、俺はぜんぶ却下した。
結局、次の目的地であるリングラッドに着くまでは、5分交代で精霊姫たちをヒザに抱っこすることになった。
抱っこをするとちょっと馬車を操りにくくなるけど、いまのトランスなら大丈夫だろう。
こうして、抱っこローテーションが始まった。
ティフォンは俺のヒザに座るなり、「ふ、ふぉぉ……!」と目を見開いて大興奮。
「ゆ、ユニバスくんに抱っこされてる……! しっ、信じられないっ……! す、すごいドキドキするぅ……!」
ティフォンは旅をするようになってから、馬車に乗っているときは俺の腕に抱きついてくるようになった。
振り落とされないようにするためだと思っていたのだが、ヒザの上に乗っている彼女は、初めての家に来た飼い猫のようにソワソワしている。
脚をピッタリたたんで肩をすくめ、遠慮がちに俺へ寄り添っていた。
イズミは、ティフォン以上に大変なことになってしまった。
「ゆ、ゆゆゆ、ユニバス様に跨がるなど、おおお、恐れ多すぎますっ! わたくしのような者は、馬乗りにされてお尻をぶたれるべきで……!」
イズミはかなりの恥ずかしがり屋で、俺に抱っこされるどころか、腕すらも取ろうとしない。
馬車に乗っているときも、俺の服の袖を遠慮がちにつまんでいる程度だ。
いまも赤くなったり青くなったりを繰り返し、すっかりパニックになっていた。
「そ、そうです! 抱っこのかわりに、ユニバス様がわたくしの腕をねじりあげるというのはいかがでしょうか!?」
「ざぁこ! わけわかんないこと言ってないで、さっさと座りなよ! でないと、あたしの番にならないじゃん!」
「よぉし、ガミメスちゃん、こうなったらふたりで力を合わせて、イズミちゃんをユニバスくんの上に座らせてあげよう!」
ティフォンとガミメスは精霊としての相性は良くないが、こういうときは一致団結するらしい。
ガミメスがイズミの腕を引っ張り、反対側に回り込んだティフォンがその背中を押す。ふたりがかりで、イズミを無理やり俺の上へ座らせようとしていた。
「そ、そそそ、そんな!? お許しくださいっ! ユニバス様のおヒザは、わたくしの腹部を蹴り上げるためにあるのです! そんな神の恵みに等しいものを、お尻に敷くなんて……!」
「おいおい、あまりムチャするなよ。嫌がってるじゃないか」
だが、イズミは俺の片膝に乗せられただけで、「ひぃ~っ!?」と悲鳴をあげてのけぞった。
背筋を弓なりに反らしたまま、しばらくビクビクと痙攣していたかと思うと、くったりと俺にしなだれかかる。
潤みきった瞳で、ハァハァと肩で息をしながら、彼女は残った力を振り絞るようにして言葉を紡ぎ出した。
「はっ……はふぅぅぅ……! その膝下にこそ憧れし、よもや膝上に乗りにけり……! 我が身、三日月のごとく天に昇りゆく……!」
「うわぁ、イズミってば、感激しすぎて辞世の句を詠んじゃってるよ……」
「へ? じせーのくってなに?」
















