15 はじめての抱っこ(前編)
旅を再開した俺たちは、ふたたび荒野を走り出す。
御者席のティフォンは、さっきの快感を思い出すように身をくねらせている。
「ああっ、ユニバスくんとの合体攻撃、最高だったなぁ~~~!」
ティフォンは、しまりのない表情でイズミに言った。
「実をいうと、ユニバスくんとイズミちゃんの合体攻撃を見て、ずっと憧れてたんだよねぇ~!」
かつて俺とイズミが、悪魔シニストラを倒すために放った合体攻撃のことを言っているのだろう。
「ああっ、わたくしもその時のことを思い出してしまいました。あの時の快感が……!」
もじもじと身をよじるイズミ。ふたりは抱きあって、キャーキャー言っている。
かたやガミメスは、興味なさそうにそっぽを向いて、ふぁ~あ、と大あくびをしていた。
「あ……そういえばユニバス様、タンブルクイーンから口移しでなにか貰ってたよね?」
「ああ」
俺は作業着の内ポケットに入れておいたものを取りだし、ガミメスの手のひらに移した。
「これは……?」
ガミメスの不思議そうな瞳が、大きく見開かれる。
「まっ、マジっ!? これって……ににに『虹のタネ』っ……!?」
ワナワナと震えだすガミメス。
「あはは、そんなわけないよ。虹のタネって伝説のアイテムでしょ?」
これにはティフォンどころか、イズミまで「あらあら」と笑っていた。
「うふふ、虹のタネがこのような場所にあるはずがございません。わたくしは、コンコントワレの博物館でしか見たことがありません」
「そうそう。そんな博物館に飾られるようなもの、会ったばっかの人間にホイホイあげるわけないでしょ?」
「たしか撒いただけで、10キロ四方が一瞬でお花畑になるという、とんでもないタネだとか……」
「そうそう。いくらユニバスくんが『精霊たらし』だからって……」
半笑いでガミメスの手の中を覗き込んだふたりの精霊姫から、すうっと笑顔が消し飛んだ。
そこにあったのは、小指の先ほどの大きさの、七色に輝くタネだった。
「えっ……? これってホントに……!?」
息を飲むティフォン。
「はわわっ、ど、どうやら、そのようです……!」
戸惑いのあまり、口をアワアワさせるイズミ。
「ざぁこ!? ざあこ!? ざあこっ!? そんなのありえないよね!? で、でも、この輝きは……!」
うろたえるガミメス。
精霊姫たちは宝クジの一等が当たり券を手にしたかのように、あわてふためいている。
まるで当選番号を確かめるみたいに、何度も目をこすって凝視していた。
「それは本物だよ」
俺がそう言った瞬間、とうとう三人は爆発した。
「「「えっ……ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」」」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
馬車はひたすらに、西へ西へと向かっている。イズミが興奮冷めやらぬ様子で言った。
「タンブルクイーン様は、長い生涯のなかで一粒だけ虹のタネを得るといいます。それは大いなる力を持つものなので、本来は秘められたままにされるもの。でも、己の命を捧げても惜しくないと思えるほどのお方と出会った場合に限り、そのタネを託すといいます」
「そうなんだ……なら、大切にしなくちゃね!」
ティフォンはそう言うと、ガミメスの手からそっとタネを受け取り、俺の作業着の胸ポケットにしまった。
そしてポケットに手を添えたまま、ウットリとため息をつく。
「はぁ……一生に一度だけのものかぁ。わたしの『はじめて』は、ぜんぶユニバスくんにあげるつもりだけど……」
ティフォンは俺を見つめてニコッと微笑んだ。
「一生に一度だけのものも、ぜんぶユニバスくんにあげたいな!」
本人は何気ないひと言のつもりだったんだろう。
でも俺は、不意を突かれてドキッとしてしまった。
一瞬、ふたりだけの世界に入りかける。
けれど、そうはさせるかと言わんばかりに、ガミメスが「ざぁこ!」と割り込んできた。
「あたしはあげるだけじゃなくて、もらいたい! ユニバス様の初めての抱っこ、もーらい!」
はしゃぎながら俺に向かってぴょんと飛びはねるガミメス。
ティフォンの手を押しのけるようにしてヒザに飛び乗ってきた。
「ユニバス様のヒザは、これからずーっとあたしの席ね! きーまり!」
それは思わぬ特等席だったようで、両脇から不満が噴出した。
「あーっ、抱っこなんてずるーいっ! わたしもしてもらったことないのに!」
「と、殿方に跨がるなんて、はしたない……! う、うらやまはしたないです!」
わぁわぁと抗議するティフォンとイズミに、ガミメスはあっかんべーをする。
ますます大騒ぎになってしまい、俺はやれやれと肩をすくめた。
「しょうがないなぁ。なら、この席は時間で交代ってことにしよう」
















