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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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14 タンブルクイーン12

 それから小一時間後、俺たちはタンブルウインドの家造りに精を出していた。

 大破したタンブルクイーンの家も、みんなで直していく。


 手を貸してくれたのは、精霊姫やタンブルウインド、タンブルクイーンたちだけじゃない。その輪の中には、ヴォエラニアンと手下たちの姿もあった。

 彼らは人が変わったようなニコニコ笑顔で、せっせと枯れ草を集めている。


 大勢で汗を流したおかげで、修理はつつがなく終わった。


 やがて夕暮れ時。

 俺と精霊姫たちは、出発のために馬車の御者席へ着いた。まわりには、大勢の見送りが集まっている。


 タンブルクイーンとヴォエラニアン、その後ろにはタンブルウインドと手下たちがずらりと並んでいた。

 ヴォエラニアンが、憑きものの落ちたような笑顔で言う。


「きゃんっ! ユニバス様、ありがとうございましたぁ。ユニバス様がなければ、ヴォエちゃんは間違った道を進んでいたと思いますぅ。これからは罪滅ぼしとして、タンブルクイーン様に仕え、この地に種を撒きたいと思いまーす!」


 俺は内心、ホッと胸をなでおろしていた。

 一時はどうなることかと思ったけど、心を入れ替えてくれて本当に良かった。


 俺はタンブルクイーンに向き直る。


「もう大丈夫そうだから、俺たちは行くよ。緑あふれるこの地で、また会おう」


 見送りの者たちが、いっせいにぺこりと頭を下げた。


「またねー!」「おたっしゃでー!」


 ティフォンとイズミが大きく手を振る。ガミメスはそっぽを向いたままだった。


 走り出した馬車を、タンブルウインドたちは荒野の向こうで点になるまで、いつまでも手を振って見送ってくれていた。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 片手をひらひらと振るヴォエラニアン。けれどその背中では、もう一方の手が草刈り鎌をきつく握りしめていた。

 ユニバスたちの馬車が、地平の向こうでとうとう点になる。その瞬間、彼女は豹変した。


「待ってたしぃ! この瞬間(とき)をぉ!」


 本性をむき出しにした悪鬼の形相で、タンブルクイーンめがけて飛びかかり、そのまま押し倒す。


 タンブルウインドたちが「!?!?」と凍りついた。

 ヴォエラニアンは牽制するように、タンブルクイーンの頬へ草刈り鎌の刃を押し当てる。


「おおっと、動くんじゃねーし! 動いたら、この雑草の顔がズタズタになるよ!」


 手下たちも、唖然と立ちすくむばかり。


「あ……姐さんっ!? 心を入れ替えたんじゃ!?」


「ヴォエェェ! んなわけねーし!」


 ヴォエラニアンはタンブルクイーンに馬乗りになったまま、片手でその細い首を掴んだ。


「ヴォエちゃんが命よりも大切にしていたものを、奪いやがって……! こんのゲロ雑草がぁ……!」


 怒りに震えるヴォエラニアン。首を絞められ、タンブルクイーンは端正な顔を苦しそうに歪めている。

 ゆっくりと振り上げられる草刈り鎌。三日月のような刃に夕日が滑り、切っ先がギラリと輝いた。


「ヴォエェェェェェーーーーーーーーーーーーーッ! 死ねやぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 凶刃が、雄叫びとともに振り下ろされた。だが、


 ……ズドンッ!


 一瞬早く、タンブルクイーンが口からマグナム弾のようなタネを撃ち出していた。

 それはヴォエラニアンの眉間に命中する。


 ヴォエラニアンは「ヴォエッ!?」とアッパーカットでも食らったように吹き飛び、もんどり打って倒れた。


 そして、のろのろと身を起こす。その額には、黒い穴がぽっかりと開いていた。

 穴の奥からミミズでも入りこんだように、肌が額へ向かってボコボコと盛り上がっていく。


「な……なに!? なにしたし!?」


 顔を押さえるヴォエラニアン。ミミズの跡はツムジまで達すると、ポンッ、とちいさな芽を吹いた。

 コートから取り出した手鏡でそれを見た彼女は、おぞましい絶叫をあげる。


「な、なにこれぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 手下のひとりが、震えながら口を開いた。


「あ……あれは……! 寄生植物『ペインシェアシード』……! 別名『痛み分けの草』……!」


「い……痛み分けっ!?」


 ヴォエラニアンが、掠れた声で聞き返す。


「は、はい……! 植物を傷つけたり、植物が傷つくところを目にしたりすると……その痛みが、寄生された生き物にも伝わるんです……!」


「そ……そんなバカなっ!? そんな草、あるわけねーしっ!」


 ヴォエラニアンは、視界の隅にあった枯れ草を掴み、荒野からひっこ抜いた。その直後、


「ヴォエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」


 その口から、まるでマンドラゴラのような絶叫がほとばしる。


「い……いだいいだい! いだぃぃぃぃーーーーーーーーっ!?!?」


「ペインシェアシードは、いちど寄生されると取り除けないんです……! 無理に取り除けば、宿主も死んでしまう……!」


「そんな……!」


 視線を感じて、ハッと顔をあげるヴォエラニアン。そこには、女閻魔のような表情で見下ろすタンブルクイーンが立っていた。


 ヴォエラニアンの頭の中に、声が響く。


『お前はこれから残りの人生すべてを、木の精霊たちへの贖罪に捧げるのだ……!』


「やっ……やだ……! そんなの、やだよぉ……!」


 頭を抱えて震えるヴォエラニアン。その顔は、もう気が触れたようになっている。


「やっ……やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 断末魔のような絶叫が、乾いた荒野に響き渡った。


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