14 タンブルクイーン12
それから小一時間後、俺たちはタンブルウインドの家造りに精を出していた。
大破したタンブルクイーンの家も、みんなで直していく。
手を貸してくれたのは、精霊姫やタンブルウインド、タンブルクイーンたちだけじゃない。その輪の中には、ヴォエラニアンと手下たちの姿もあった。
彼らは人が変わったようなニコニコ笑顔で、せっせと枯れ草を集めている。
大勢で汗を流したおかげで、修理はつつがなく終わった。
やがて夕暮れ時。
俺と精霊姫たちは、出発のために馬車の御者席へ着いた。まわりには、大勢の見送りが集まっている。
タンブルクイーンとヴォエラニアン、その後ろにはタンブルウインドと手下たちがずらりと並んでいた。
ヴォエラニアンが、憑きものの落ちたような笑顔で言う。
「きゃんっ! ユニバス様、ありがとうございましたぁ。ユニバス様がなければ、ヴォエちゃんは間違った道を進んでいたと思いますぅ。これからは罪滅ぼしとして、タンブルクイーン様に仕え、この地に種を撒きたいと思いまーす!」
俺は内心、ホッと胸をなでおろしていた。
一時はどうなることかと思ったけど、心を入れ替えてくれて本当に良かった。
俺はタンブルクイーンに向き直る。
「もう大丈夫そうだから、俺たちは行くよ。緑あふれるこの地で、また会おう」
見送りの者たちが、いっせいにぺこりと頭を下げた。
「またねー!」「おたっしゃでー!」
ティフォンとイズミが大きく手を振る。ガミメスはそっぽを向いたままだった。
走り出した馬車を、タンブルウインドたちは荒野の向こうで点になるまで、いつまでも手を振って見送ってくれていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
片手をひらひらと振るヴォエラニアン。けれどその背中では、もう一方の手が草刈り鎌をきつく握りしめていた。
ユニバスたちの馬車が、地平の向こうでとうとう点になる。その瞬間、彼女は豹変した。
「待ってたしぃ! この瞬間をぉ!」
本性をむき出しにした悪鬼の形相で、タンブルクイーンめがけて飛びかかり、そのまま押し倒す。
タンブルウインドたちが「!?!?」と凍りついた。
ヴォエラニアンは牽制するように、タンブルクイーンの頬へ草刈り鎌の刃を押し当てる。
「おおっと、動くんじゃねーし! 動いたら、この雑草の顔がズタズタになるよ!」
手下たちも、唖然と立ちすくむばかり。
「あ……姐さんっ!? 心を入れ替えたんじゃ!?」
「ヴォエェェ! んなわけねーし!」
ヴォエラニアンはタンブルクイーンに馬乗りになったまま、片手でその細い首を掴んだ。
「ヴォエちゃんが命よりも大切にしていたものを、奪いやがって……! こんのゲロ雑草がぁ……!」
怒りに震えるヴォエラニアン。首を絞められ、タンブルクイーンは端正な顔を苦しそうに歪めている。
ゆっくりと振り上げられる草刈り鎌。三日月のような刃に夕日が滑り、切っ先がギラリと輝いた。
「ヴォエェェェェェーーーーーーーーーーーーーッ! 死ねやぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」
凶刃が、雄叫びとともに振り下ろされた。だが、
……ズドンッ!
一瞬早く、タンブルクイーンが口からマグナム弾のようなタネを撃ち出していた。
それはヴォエラニアンの眉間に命中する。
ヴォエラニアンは「ヴォエッ!?」とアッパーカットでも食らったように吹き飛び、もんどり打って倒れた。
そして、のろのろと身を起こす。その額には、黒い穴がぽっかりと開いていた。
穴の奥からミミズでも入りこんだように、肌が額へ向かってボコボコと盛り上がっていく。
「な……なに!? なにしたし!?」
顔を押さえるヴォエラニアン。ミミズの跡はツムジまで達すると、ポンッ、とちいさな芽を吹いた。
コートから取り出した手鏡でそれを見た彼女は、おぞましい絶叫をあげる。
「な、なにこれぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
手下のひとりが、震えながら口を開いた。
「あ……あれは……! 寄生植物『ペインシェアシード』……! 別名『痛み分けの草』……!」
「い……痛み分けっ!?」
ヴォエラニアンが、掠れた声で聞き返す。
「は、はい……! 植物を傷つけたり、植物が傷つくところを目にしたりすると……その痛みが、寄生された生き物にも伝わるんです……!」
「そ……そんなバカなっ!? そんな草、あるわけねーしっ!」
ヴォエラニアンは、視界の隅にあった枯れ草を掴み、荒野からひっこ抜いた。その直後、
「ヴォエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」
その口から、まるでマンドラゴラのような絶叫がほとばしる。
「い……いだいいだい! いだぃぃぃぃーーーーーーーーっ!?!?」
「ペインシェアシードは、いちど寄生されると取り除けないんです……! 無理に取り除けば、宿主も死んでしまう……!」
「そんな……!」
視線を感じて、ハッと顔をあげるヴォエラニアン。そこには、女閻魔のような表情で見下ろすタンブルクイーンが立っていた。
ヴォエラニアンの頭の中に、声が響く。
『お前はこれから残りの人生すべてを、木の精霊たちへの贖罪に捧げるのだ……!』
「やっ……やだ……! そんなの、やだよぉ……!」
頭を抱えて震えるヴォエラニアン。その顔は、もう気が触れたようになっている。
「やっ……やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
断末魔のような絶叫が、乾いた荒野に響き渡った。
















