13 タンブルクイーン11
その後、瓦礫の下から助け出されたヴォエラニアンは、俺たちの前で土下座していた。
「くすんくすん、ごめんなさぁい……。ヴォエちゃんが悪かったですぅぅ……。もうしませんから、許してぇぇ……!」
地面に伏せた顔。その近くには彼女が落としたのであろう手鏡があって、そこには反省とは裏腹の顔が映っていた。
ボコボコに腫れあがった顔に、腹黒い笑みが浮かんでいる。当人は本性が丸見えになっているのにづいていない。
ヴォエラニアンは土下座から顔をあげる。
足を折りたたんだ色っぽいポーズをとり、コートを開いて、露出狂のように真紅のボンテージに包まれた肌を見せつけてきた。
「これからはユニバス様に、忠誠を誓いまぁす……! この身体も、ユニバス様のものでぇす……! きてぇ、ユニバス様ぁ……!」
けれど俺は、思いきりドン引きしていた。
最凶モンスターでも前にしたような気分で後ずさり、タンブルクイーンの後ろに隠れる始末だった。
「あ……あとは……ふたりで……話……を……」
タンブルクイーンは、ゴミを見るような目でヴォエラニアンを見下ろしていた。
やがて、ヴォエラニアンに向かってツタの触手を伸ばす。
けれど触れたのは彼女の身体ではなく、コートの内側にしまわれた試験管だった。
魔導象の下敷きになったせいで、そのほとんどは割れていたが、中から無事だった一本をそっと抜き取る。
タンブルクイーンは、歯を使ってコルクを抜いた。
その仕草に見覚えがあったのだろう。ヴォエラニアンの顔が、血の凍りついたように強張っていく。
「あ……あんたまさか、あの時のっ……!? いつの間にかいなくなってたと思ったら、生きてやがったのかっ……!」
俺の脳裏にも、あの日のことがよみがえる。
募金詐欺のテントで、俺が連中にいじめ抜かれていたときのことだ。
隅っこで、一匹のタンブルウインドが縮こまって震えていた。
俺がいたぶられる様子を、泣きながら、じっと見ていたのだ。
やがてテントから人がいなくなると、隠れていたその子がそろそろと出てきた。
ボロボロになった俺に寄り添うその小さな顔に、俺は「よかった……無事だったか」と笑いかけたのだった。
あのときのタンブルウインドが、いまのタンブルクイーンだ。
同じ記憶をたどっているのだろう。タンブルクイーンの全身から、ブリザードのごとき怒りが吹き荒れていた。
ゾクッ、とヴォエラニアンが震えあがる。
「きゃ、きゃんっ……? ま……まさか、あの時の仕返しを……!? そ、その除草剤は改良されたやつで、以前のものとは比べものにならないくらい強力なんですぅ! かっ、髪にかけたりなんかしたら、永久に……! ま、マジ、マジやめて! っていうか、草枯れるんだけど!」
ヴォエラニアンは「きゃんきゃーんっ!」と鳴きながら、四つ足でタンブルクイーンの横をすり抜け、犬のように俺の足元へ飛びついてきた。
そのまま顔を伏せて、俺の靴をベロベロと舐めはじめる。
「お……お願い! お願いします! ユニバスさまぁ! そんな残酷なことはやめてって言ってくださいぃ! あなた様がお願いすれば、きっと……! ねっ、ねっねっ!? そんなのかけたら、かわいいかわいい女の子が、台無しになっちゃいますぅ! 世界の損失でしょ!? だからねっ、やめてっ! とめてっ!」
けれど俺が答えるより早く、タンブルクイーンがヴォエラニアンの髪を掴み、俺の靴から彼女の顔を引き剥がしていた。
冷徹なタンブルクイーンの顔を見て、ヴォエラニアンはとうとうマジ泣きをはじめる。
「ぎゃっ、ぎゃんぎゃーんっ!? や、やめて、やめてぇぇぇ……! お願い、お願いだからぁぁぁ……!」
涙をボロボロこぼしながら、彼女は俺に向かって哀願してくる。
「こ……この髪は、ガチのマジで命より大切なものなんですぅぅぅ……! ユニバス様にも、命より大切なものがあるでしょう……!? それを奪われたらどんな気持ちになるか、考えてみてぇぇぇ……!」
必死の泣き落とし。けれど俺は、目をそらしたまま言った。
「森林伐採……その罪は……ちゃんと……償うべき……だ……」
「は……ハァ!? な……なに言ってんの……? そのくらい、誰でもやってることだろ!? あ……アンタだって、木を切り倒して作った家に住むっしょ? 木を削って作ったスプーンやフォークを使うっしょ?」
「それとは違うよ!」
ティフォンが、ぷんすかと割って入る。
「切り倒された木の精霊さんたちは、加工されて人間さんたちのそばでいっしょに暮らすことを望んでるの! だから痛いのもガマンできるんだよ!」
イズミも、めがねの奥の目をつり上げていた。
「はい! でもあなた様は、お金儲けのためだけに、いたずらに木を倒し、遊び半分で芽を摘み、花を散らしているではありませんか!」
「い……いいじゃん、別にっ……! ヴォエちゃんの髪や肌がキレイキレイになることに比べたら、そのくらい……!」
ヴォエラニアンはタンブルクイーンを見つめ、チワワのようにつぶらな瞳で言った。
「この気持ち、わかるでしょ……? ヴォエちゃんと同じくらい、美人のあなたなら……!」
タンブルクイーンは返事のかわりに、試験管の中身をヴォエラニアンの髪へぶちまけた。
……ジュゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーッ!!
「ヴォエェェェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?」
濃硫酸でも浴びたような白煙があがり、ヴォエラニアンは髪を押さえてのたうち回る。
髪が、逃げ出すように頭皮から離れていった。
「そ……そんな、そんなっ……!?」
ヴォエラニアンは落ちていた手鏡を拾い、自分の頭を映し……。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
ほとばしる涙。
ヴォエラニアンの髪はすべて抜け落ち、見事なつるっぱげになっていた。
















