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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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12 タンブルクイーン10

 トランスがいななき、走り出す。

 丘を駆け下り、ヴォエラニアンめがけてまっすぐ突き進んでいく。


 向こうも一騎打ちを受け入れるように、俺たちの馬車へ向かって走り出した。


「ゲロ野郎が、枯れ草どもの王になって戻ってくるなんて、マジで草枯れるんだけどぉ! あの時の約束どおり……ツルピカの裸の王様にしてやんよぉーーーーっ!」


 けれど俺は、ヴォエラニアンを見ていなかった。

 ペアダンスのポーズで、ティフォンを抱きしめることに集中していた。


 いま見るべきは、敵じゃない。パートナーの呼吸だ。


「ゆ……ユニバス、くん……?」


 いつになく積極的な俺に、ティフォンが戸惑っている。


「大丈夫、俺がリードする。俺を信じて身を任せてくれ」


 ドキッ!


 ティフォンの耳の翼が、みるみるうちに赤く染まっていく。


「わ、忘れてた……! ユニバスくんって、人間の女の子にはめっぽう弱いのに……精霊の女の子には、メチャクチャ強いんだった……!」


 なにか小声でつぶやいていたけれど、風の音にまぎれて聞き取れなかった。


「は……はいっ!」


「よし、いくぞっ!」


 俺はティフォンをリードし、馬車の上でクルクルと回りはじめる。

 ふたりの軸をひとつに重ねて、独楽のように回る。


 回転が、まわりの空気を巻きこんでいく。

 風が、俺たちを中心にうずを巻きはじめた。


「ヴォエッ! 戦いの最中に踊るなんて、マジいかれてる! ガチで……草枯れるんだけどぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 魔導象の鼻ギロチンが、俺とティフォンめがけて振り下ろされる。

 俺たちは回転を止め、ダンスのフィニッシュのようなポーズを決めて叫んだ。


「枯れるのは、お前だっ……! 風の(こぶし)っ……!」


 広げたふたりの全身から、拳の形をした風のオーラが無数に放たれた。


(ふう)()(ひゃく)(れつ)()ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」


 ……シュバァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!


 迫りくる拳たちに、ヴォエラニアンが目を見開く。


「ヴォエッ!? かっ、風の精霊王だけが使えると言われている『風の拳』を……!? なんで、コイツがっ……!? まっ、まさかコイツ、本物の……!?」


 最後まで言わせるつもりはなかった。


 ……ゴシャッ!


 拳がヴォエラニアンの頬にヒットする。

 続いて肩、胸、腹。


「ぐはあっ!?」


 血を吐いてうつむいたところに、顎へアッパーカットが当たった。

 首がもげんばかりに、ガクンとのけぞる。


「降参! 降参ですぅっ! ヴォ、ヴォエちゃんが悪かったですぅぅぅっ! だ、だから、やめてっ……!」


 ヴォエラニアンは泣きながら、ぶたれるのを怖がる子供のように顔を覆った。

 けれど拳の嵐は、よりいっそう強く彼女に吹き荒れる。


 ……ゴツ! ドカッ! バキッ! グシャッ!


「がはっ!? ぎゃっ!? ぐわっ!? があっ!?」


 首があちこちに飛んで顔が歪む。身体がへこんでねじれる。


「も、もう……ゆる……ぎゃあっ!?」


 口から歯がこぼれ、宙を舞った。

 噴き出した血は血風(けっぷう)となって、衣服を染めていく。


 無数の拳に四方八方から袋叩きにされているような光景だった。


 巻き込まれた魔導象も、少しずつプレス機に掛けられているようにひしゃげていく。

 最後はアッパーカットをくらい、いななくように前足を高く上げたが、勢いを殺しきれずそのまま後ろに倒れた。


 ……どっ……しぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーん!!


 大地が揺れる。


 砂けむりが晴れたとき、荒野に立っているのは俺たちだけだった。


 魔導象の下敷きになったヴォエラニアンは、「ヴォエッ!?」と潰されたカエルのように鳴いたあと、泡を吹いてピクピクと痙攣していた。


 かたやティフォンは、いまにも昇天しそうな表情でプルプルと震えている。


「きっ……きもちぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーっ!」


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