12 タンブルクイーン10
トランスがいななき、走り出す。
丘を駆け下り、ヴォエラニアンめがけてまっすぐ突き進んでいく。
向こうも一騎打ちを受け入れるように、俺たちの馬車へ向かって走り出した。
「ゲロ野郎が、枯れ草どもの王になって戻ってくるなんて、マジで草枯れるんだけどぉ! あの時の約束どおり……ツルピカの裸の王様にしてやんよぉーーーーっ!」
けれど俺は、ヴォエラニアンを見ていなかった。
ペアダンスのポーズで、ティフォンを抱きしめることに集中していた。
いま見るべきは、敵じゃない。パートナーの呼吸だ。
「ゆ……ユニバス、くん……?」
いつになく積極的な俺に、ティフォンが戸惑っている。
「大丈夫、俺がリードする。俺を信じて身を任せてくれ」
ドキッ!
ティフォンの耳の翼が、みるみるうちに赤く染まっていく。
「わ、忘れてた……! ユニバスくんって、人間の女の子にはめっぽう弱いのに……精霊の女の子には、メチャクチャ強いんだった……!」
なにか小声でつぶやいていたけれど、風の音にまぎれて聞き取れなかった。
「は……はいっ!」
「よし、いくぞっ!」
俺はティフォンをリードし、馬車の上でクルクルと回りはじめる。
ふたりの軸をひとつに重ねて、独楽のように回る。
回転が、まわりの空気を巻きこんでいく。
風が、俺たちを中心にうずを巻きはじめた。
「ヴォエッ! 戦いの最中に踊るなんて、マジいかれてる! ガチで……草枯れるんだけどぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
魔導象の鼻ギロチンが、俺とティフォンめがけて振り下ろされる。
俺たちは回転を止め、ダンスのフィニッシュのようなポーズを決めて叫んだ。
「枯れるのは、お前だっ……! 風の拳っ……!」
広げたふたりの全身から、拳の形をした風のオーラが無数に放たれた。
「風・破・百・烈・拳ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!」
……シュバァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
迫りくる拳たちに、ヴォエラニアンが目を見開く。
「ヴォエッ!? かっ、風の精霊王だけが使えると言われている『風の拳』を……!? なんで、コイツがっ……!? まっ、まさかコイツ、本物の……!?」
最後まで言わせるつもりはなかった。
……ゴシャッ!
拳がヴォエラニアンの頬にヒットする。
続いて肩、胸、腹。
「ぐはあっ!?」
血を吐いてうつむいたところに、顎へアッパーカットが当たった。
首がもげんばかりに、ガクンとのけぞる。
「降参! 降参ですぅっ! ヴォ、ヴォエちゃんが悪かったですぅぅぅっ! だ、だから、やめてっ……!」
ヴォエラニアンは泣きながら、ぶたれるのを怖がる子供のように顔を覆った。
けれど拳の嵐は、よりいっそう強く彼女に吹き荒れる。
……ゴツ! ドカッ! バキッ! グシャッ!
「がはっ!? ぎゃっ!? ぐわっ!? があっ!?」
首があちこちに飛んで顔が歪む。身体がへこんでねじれる。
「も、もう……ゆる……ぎゃあっ!?」
口から歯がこぼれ、宙を舞った。
噴き出した血は血風となって、衣服を染めていく。
無数の拳に四方八方から袋叩きにされているような光景だった。
巻き込まれた魔導象も、少しずつプレス機に掛けられているようにひしゃげていく。
最後はアッパーカットをくらい、いななくように前足を高く上げたが、勢いを殺しきれずそのまま後ろに倒れた。
……どっ……しぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーん!!
大地が揺れる。
砂けむりが晴れたとき、荒野に立っているのは俺たちだけだった。
魔導象の下敷きになったヴォエラニアンは、「ヴォエッ!?」と潰されたカエルのように鳴いたあと、泡を吹いてピクピクと痙攣していた。
かたやティフォンは、いまにも昇天しそうな表情でプルプルと震えている。
「きっ……きもちぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーっ!」
















