10 タンブルクイーン8
俺の合図と同時に、タンブルウインドたちが一斉に転がりだした。
99のちいさな枯草の玉と、ひとつの巨大な枯れ草の玉が、砂けむりを引きながら丘を駆け下りていく。
獣たちの群れが動きだしたかのようだった。
俺の肩の上にいるタンブルウインドも、「がおーっ!」と大きな口を開けている。
砦の見張り台から「来やがった!?」と声があがった。
「逃げるかと思ってたのに、突っ込んできやがったぞ!」
「馬鹿め! 完全防備の砦に突っ込んでくるなんて、しょせんは精霊だな!」
「よぉし、蜂の巣にしてやるぜ!」
見張り台のチンピラたちが、一斉にクロスボウを構えた。
俺は息を吸いこんで、叫ぶ。
「タンブルクイーン、止まってくれ! 他の者たちは横回転で前進するんだ!」
タンブルクイーンだけが、クロスボウの射程外でぴたりと停止する。
残りのタンブルウインドたちは前進しながら、コマのような横回転をはじめた。
移動速度は落ちる。けれどそのかわりに、もうもうとした砂煙がたちのぼりはじめた。
しかも風向きは追い風。
たちのぼった砂煙はまっすぐ砦へ向かっていき、見張り台をまるごと覆い尽くした。
「うわあっ!?」
「な、なんにも見えねぇ!?」
「目がっ、目がぁぁぁーーーーっ!?」
となりで、ガミメスが目を驚きに見開いていた。
「えっ……!? なかなか動かなかったのは、これを狙うために……!? 追い風になるまで待ってたっていうの……!?」
俺は戦況から目を離さずに頷いた。
「ああ。あとは砦の塀のそばまで近づけば、クロスボウでの狙撃はできなくなる」
そう言っている間に砂煙は晴れた。
けれどタンブルウインドたちは、すでに砦の塀のまわりに到達していた。
「よし! 連続発射の得意な者は、一斉攻撃っ!」
俺が命じると、一部のタンブルウインドたちが砦の壁めがけて藁の中からタネを射出しはじめる。
……ババババババ!
それはティフォンたちの顔めがけて撃っていたタネと同じものだ。
なのに、威力が段違いだった。
実弾のような破壊力で、木造の壁がウエハースのように砕けて穴が開いていく。
貫通したタネに当たったのだろう、壁の向こうからチンピラたちの悲鳴が聞こえてきた。
ティフォンが目を丸くする。
「うそっ!? タンブルウインドさんのタネって、あんなすごいの!?」
「ああ。タンブルウインドは外敵に対してタネを射出するけど、普段は相手を傷つけない程度の威力に抑えている。しかしその気になれば、護身用の武器くらいの威力を出せるんだ。しかしいまのタネは、それ以上の破壊力……どうやら、タンブルウインドたちは相当腹に据えかねていたんだろう」
クソザコと馬鹿にしていたガミメスも、口をあんぐりさせていた。
「す、すご……! あれじゃ、まるで魔導マシンガンじゃん……!」
しかし敵も黙ってはいない。
ボロボロになった外壁を突き破って、魔導猪が飛び出してきた。
「クソがっ! 枯草ボールがよぉ!」
「人間様をナメやがってぇ、ブッ潰してやんよぉ!」
こうなることはわかっていた。
だいじょうぶ、あの子たちにはちゃんと教えてある。
「連続発射が得意な者たちは離脱してくれ! かわりに拡散発射が得意な者が魔導猪を攻撃! 教えたとおりにやれば、怖くないぞ!」
マシンガンのタンブルウインドたちが下がるのと入れ替わりに、ショットガンのタンブルウインドたちがオトリになるように魔導猪の前へ出る。
「死ねぇぇぇぇぇぇーーーーっ!」
チンピラたちが、目の前のタンブルウインドを魔導猪の蹄で踏み潰そうと突進した。
その、瞬間。
……サッ!
タンブルウインドたちは、魔導猪の横幅ひとつ分くらいの短い距離を転がって、敵の突進を余裕でかわしていた。
「あれは……!?」とティフォン。
「あの、舞う蝶のような華麗なる動きは……!」とイズミ。
「ユニバス様みたい!」とガミメス。
言われてみれば、たしかに似ているのかもしれない。
俺がチンピラたちと戦ったときの体さばきを、タンブルウインドたちにも教えたのだ。
「いいぞ。魔導猪は直進性能にはすぐれているけど、旋回性能は低いんだ。だから横によけるだけで、簡単にかわせる。それに避けたあとは、無防備な横っ腹がすぐそばにあるから……」
タンブルウインドからタネが発射される。
しかもそれは連射タイプではなく、ショットガンのような散弾タイプであった。
……ズドンッ!
至近距離でそれをまともにくらっては、ひとたまりもない。
蜂の巣になったチンピラが、魔導猪ごと横転する。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!
あちこちで発砲音があがり、直後に落猪したチンピラたちの絶叫が轟いた。
「た、助けてくれぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
気がつけば砦の前は、横倒しになった魔導猪と、うめき声をあげるチンピラたちで埋まっていた。
それでも、命を落とした者はひとりもいなかった。
















