09 タンブルクイーン7
あの恐ろしい顔が、砦の上ではためく肖像画にゆっくりと重なっていく。
語り終えた俺は、ようやく荒野の風の中に引き戻された。
思い出すだけで、頭皮がひりつくような気がする。
自分を責めるような声になっているのが、自分でもわかった。
「それからヴォエラニアンは偽りの環境保護団体『ドッグシットワン』を結成して、このあたりの除草を始めたんだ。俺はなにもできず、この場を去ることしかできなかった。魔王討伐と同時に募金ビジネスは終わったものだと思っていたけど、まだ続けていたなんて……。おかげで、この有様だ……」
耳を傾けていた精霊姫たちの反応は、三者三様だった。
「ひどい、許せない! ユニバスくんをそんな目に遭わせるなんて!」
ティフォンは自分のことのように頬をふくらませて怒っている。
「ゆ、ユニバス様……なんとおいたわしい……!」
イズミにいたっては、メガネの奥の瞳をうるうるとうるませていた。
そんななか、ガミメスだけはひとり冷静だった。
「そんでユニバス様は、ヴォエラニアンとかいう犬クソ女に復讐しようとしてるわけだ」
俺はガミメスを見た。
「そうじゃない。俺は、ヴォエラニアンたちの間違った行動を正したい。金もうけのために精霊を迫害することを止めさせたいんだ。その第一歩として、話をしたかったんだが……」
ちょうどそのとき、砦ではためいていた旗が、するするとひっこんでいった。
俺は祈るような気持ちで、それを見つめる。
けれど次にあがってきたのは、アッカンベーをするヴォエラニアンの旗だった。
肩の力が、すとんと抜けていく。
結局、俺の言葉は、あの砦の壁ひとつ越えられなかったらしい。
「やっぱ、向こうは話し合いをする気なんてさらさら無いみたいだね」とガミメス。
砦の見張り台には、さっきまで見張りのチンピラがひとりいるだけだった。
それがいまでは、クロスボウで武装したチンピラたちが大勢あがってきている。
それだけじゃない。砦の中では魔導猪の軍勢が集結し、いまにも門を破って飛び出してきそうだった。
「ってか、やる気マンマンじゃん。あれじゃ、いまさら逃げても追いかけてくるっしょ。あーあ、どうすんの?」
「じゃあ、やろうっ! ヴォエラニアンちゃんをボッコボコにしよう!」とティフォン。
「ケンカはよくないと思うのですが……。すべては、ユニバス様の御心のままに」とイズミ。
ガミメスは「ざぁこ」と半笑いを浮かべた。
「ってか、大丈夫そ? 逃げるにしてもボコボコにするにしても、あの砦の規模からすると相手は200人はいると思うよ? こっちはたった4人なのに……」
「4人じゃないさ」
俺は後ろを振り返る。
そこには、99体のタンブルウインドと、1体のタンブルクイーンが整列していた。
先頭に立つタンブルクイーンと、目が合う。
あの日、蹴り飛ばされたカバンから転がり出てきた、小さな風の精霊。
ふるえながら、それでも懸命に息をしていたあの子が、いまは誰よりも気高い姿で、この荒野の女王として俺の前に立っている。
「ええっ!?」
ティフォンとイズミが、そろって目を丸くする。
ふたりの気持ちを代弁するように、ガミメスが言った。
「きゃはっ! こんな枯草の玉、クソザコじゃん。ぜんぜん戦力になんないっしょ」
「そんなことはないさ、こう見えて彼らは頼りになる。それにタンブルクイーンから頼まれたんだ、『この地を守る術を教えて欲しい』って」
俺はまっすぐ前を向いた。
腹をくくった武将のような気持ちで、敵陣を見据える。
「だから俺は、これから彼らに戦い方を教える。もちろん、人間を殺さずに済む戦い方を」
ガミメスの口元に、挑戦的な笑みが浮かんだ。
どうやらこういう人間を見ると、応援するより意地悪したくなるタイプらしい。
「ふぅん。じゃ、そこまで言うならあたしにも見せてよ、ユニバス様の戦い方ってやつを」
彼女はさらにハードルを上げてきた。
「いや……『精霊たらし』だからこそできる、戦い方ってやつを……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから俺は、馬車の屋根の上に移動した。
精霊姫たちを傍らに、ただじっと立ちつくす。
視線は、砦の上にあるヴォエラニアンの旗に向けたまま。
ティフォンとイズミは心配そうにこちらを見ていたが、ガミメスはここぞとばかりにからかってきた。
「ざぁこ、あんだけ大きなこと言っておきながら、なにボーッと突っ立ってんの? ねぇねぇ、早くやんなよ」
その声には、どこか妙な熱がこもっていた。
彼女の本心は、俺をからかいたいわけじゃなくて、俺に助けを求めてほしいのかもしれない。
「あ~あ、しょーがないなぁ。んじゃ、手伝ってあげるよ。あたしがちょっと行って火を吹けば、あんなクソザコ砦なんか一発だもんね。そのかわり、今夜あたしとも一発……」
その言葉の途中だった。
ヴォエラニアンの旗が、ひときわ大きくはためく。
旗がポールの向こうに隠れるように、風向きが変わった。
頬をなでていった風が、いまだ、と俺に教えてくれる。
その瞬間、俺はカッと目を見開いて叫んでいた。
「時はきた! タンブルウインドたちよ、前進してくれ!」
















