07 タンブルクイーン5
「まずぅ、このあたり一帯の雑草をすべて枯らしてぇ、荒野にしまぁす。それからぁ、雑草を生やすためにお金を集めまぁす」
ヴォエラニアンがホワイトボードをまたひっくり返すと、そこには一枚の募金ポスターが貼りつけてあった。
『お前らの募金待ってるぜ!』
キャッチコピーの上に写っているのは、彼女の手下らしいモヒカン連中。募金のポスターにしては、ずいぶん上から目線のデザインだった。
俺は勇者たちの椅子の後ろに立ったまま、荷物袋を抱えて、その説明を聞いていた。荷物持ちは、こういう席では石ころみたいに黙っているのが決まりだ。
だから俺は、口をつぐんでいた。
「それとぉ、このあたりの地下水はぁ、とっても美容にいいんですよお~! 髪もこんな風にぃ、わたがしみたいにふわっふぁ~! きゃんきゃーんっ!」
ヴォエラニアンは、モコモコの髪をふわりとかきあげてみせる。
「集めたお金で井戸を掘るんですけどぉ、緑化には使いませぇ~ん! 地下水はぜんぶぅ、オンザビーチさんやホーリードゥーム様のようなぁ、美女たちをより美しくするために使いまぁ~す!」
緑化なんて、はなからするつもりがないのだ。
俺はようやく、この話のからくりに気づいた。募金は口実で、集めた金も水も、ぜんぶ自分たちのために使うつもりなのだ。
ずっと目を閉じていたホーリードゥームの瞼が、うっすらと開いた。
「地下水はお肌にもとっても良いのでぇ、マッスルック様の完璧な肉体美にもぉ、さらに磨きがかかると思いまぁ~す!」
「「ほう……!」」
ホーリードゥームとマッスルックが、そろって身を乗り出す。俺のよく知っている、あの目だ。自分の得になる話にだけ、この人たちの目は光る。
「それで、俺様にはなんのメリットがあるんだ?」
ブレイバンが、値踏みするように尋ねた。勇者の口から出るのは、いつだって自分の取り分の話ばかりだった。
ヴォエラニアンは、ズバリと言ってのける。
「きゃんっ! 募金のポスターにぃ、勇者様の推薦文を頂けるのであればぁ、募金額の10パーセントをあげちゃいまぁ~す!」
「なに? たった10パーだと? 俺様のグッズの使用料はどれも50パーだぞ! それに、このあたりはどこもかしこもジャングルだ! マジで除草なんてできるのかよ?」
ヴォエラニアンは答えるかわりに、バッ! とコートをめくってみせた。
その下から現れたのは、ぶりっ子めいたコートとは正反対の、赤いエナメルのボンテージ。あらわになった豊満な肉体に、ブレイバンが「おおっ!?」と歓声をあげる。
そしてコートの裏地には、試験管に入った液体が、ビッシリと並んでいた。
俺の目は、その試験管の列に釘づけになった。まさか、あれは……!
「ヴォエちゃんの家系はぁ、錬金術を得意としてるんですぅ。新しく開発したこの除草剤を撒けばぇ、あっという間に更地になりまぁ~す! この地にいるタネをまく精霊を、虫ケラのように殺す効果もありますからぁ、永遠の荒野のできあがりでぇ~っす! きゃんきゃーんっ!」
精霊を、殺す……!?
その一言だけが、俺の頭の中で反響した。
タネをまく精霊。この土地に木を茂らせ、どこかで笑い声を響かせていた、あの小さな者たち。あいつらを、虫ケラみたいに。
背すじが、すうっと冷たくなっていく。まるで、自分が死刑宣告を受けたかのように。
ヴォエラニアンは妖艶な笑みを浮かべると、ブレイバンのヒザにするりと腰かけ、その耳もとにささやきかけた。
「どうですかぁ……! ずーっと募金を受け続けられるぅ、このビジネスはぁ……? これであなた様は、金も女も思いのままになりまぁす……!」
ブレイバンの目は、もう金貨の輝きしか映していなかった。
「め……名案だっ! すぐに取りかかれ! この俺様が全面的に協力するぞっ!」
「きゃんきゃーっ!」
だめだ、と思うより先に、身体のほうが動いていた。
「だ……ダメだっ!!」
気づいたときには、俺は叫んでいた。
その場にいた全員の視線が、いっせいに俺へ集まる。
荷物持ちが口を出していい場面でないことは、わかっていた。逆らえば、あとで何をされるかもわからない。それでも、どうしても止められなかった。精霊が殺されるのを黙って見ているくらいなら、殴られたほうがずっとましだった。
俺は、いじめっ子に必死で歯向かういじめられっ子みたいに、膝を震わせながら言った。
「かっ……かかか……! 金のために、精霊を殺すなんて……! そんなの、ぜっ、絶対に……!」
すると、ヴォエラニアンのぶりっ子ぶりが、ふっと消えた。
興を削がれたような顔で立ちあがると、俺に向かってこれでもかと舌を突き出し、「ヴォエッ!」と、吐く真似をしてみせる。
「なにコイツ? 草枯れんだけど」
「ユニバスっていう荷物持ち。ガチで頭おかしいから、相手にしなくていし」
オンザビーチが、ネイルから目も上げずに言った。
「へぇ……あんたがあの『無能のユニバス』なんだ。なにビクビクしてんの……ヴォエッ、キモっ」
ヴォエラニアンが、俺のほうへ歩み寄ってくる。
あの、サメみたいに光のない瞳が、俺を見下ろす。
そしてなんのためらいもなく、厚底ブーツを振り上げ、俺の股間を蹴り上げた。
まるで雑草でも踏み潰すかのように。
















