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【コミックス8巻、発売中!】無能と呼ばれた『精霊たらし』 実は異能で、精霊界では伝説的ヒーローでした  作者: 佐藤謙羊
第3章

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04 タンブルクイーン2

 ……ドドドド……!


 と、そのときだった。

 遠方から地響きが伝わってきて、土煙が迫ってくるのが見えた。


 タンブルウインドの巣を足元に残したまま、俺はゆっくりと立ち上がる。肩の上のタンブルウインドとともに、土煙のほうへ目を細めた。

 ティフォンも両手で双眼鏡の形を作り、覗くようにして土煙を眺めていたが、すぐに素っ頓狂な声をあげた。


「なにあれ!? 鋼鉄のイノシシさん!?」


「あれは『魔導猪(まどうい)』といって、魔導馬のイノシシ版みたいなやつさ」


 土煙の中から現れた鉄の獣たちは、お世辞にも手入れが行き届いているとは言えなかった。表面のペンキはあちこち剥げ、剥げた下からは錆が浮いている。

 しかも違法改造が施されていて、牙や足首のところに、芝刈機を思わせる丸ノコが取り付けられていた。考えなしに付けたのだろう、足首の丸ノコどうしが走るたびにぶつかりあって、耳障りな音とともに火花を散らしている。


 乗っている者たちは、みな人間だった。モヒカン頭に鋲の付いた革ジャン、手には釘バットにモーニングスター。

 それだけなら絵に描いたような世紀末スタイルのチンピラだが、彼らはそれに加えて、モヒカンの両脇に犬耳をくっつけ、鋲のついた革の首輪を巻いていた。


 彼らは俺を、いや、正確には俺が抱いているタンブルウインドを見るなり、俺たちのまわりをグルグルと回りはじめる。


「見つけたぜぇぇぇぇーーーーっ!」


「ひゃっはーっ! 草木は一掃だぁーーーっ!」


 風にあおられて転がってきたタンブルウインドの巣を、チンピラのひとりが空き缶でも蹴り飛ばすような感覚で、無造作に踏み潰した。


「なんてことを!?」


 ティフォンの抗議など耳にも入らないという様子で、チンピラたちは俺に向かって口々に言い放つ。


「旅の兄ちゃん! その虫けらをよこしな!」


「それに、そのイカした精霊の姉ちゃんたちもな!」


「そうそう、あとその馬車もだ!」


「そしたら悪いようにはしねぇぜぇ、ひゃははははは!」


 精霊姫たちは怯えて身を寄せ合っていたが、俺のほうは、この手の連中は嫌というほど見てきている。怖くはない。

 怖くはない。だが、人間と口をきくというそれだけのことに、喉の奥が引きつってしまう。


 なんとか声を絞り出す。


「こ……断る……!」


「そうかい! そりゃ、残念だなぁっ!」


 俺の背後を通過しようとしていたチンピラが、釘バットを大きく振りかざした。


「あ、危ないっ!」


 ティフォンの悲鳴。後頭部めがけて振り下ろされる釘バット。

 だが俺は、振り返りもしなかった。ノールックのまま身を翻し、ひらりとその一撃をかわす。


 まるで踊っているようだったろうか。その鮮やかすぎる回避に、精霊姫たちだけでなくチンピラたちまでもが仰天していた。


「か、かわしやがった!?」


「ぐ、偶然だ! かまわねぇ、ブッ殺しちまぇぇぇぇぇーーーーっ!」


 突っ込んでくる魔導猪の群れ。俺はまず精霊姫たちを離れたところへ避難させた。

 そして次から次へと襲い来る攻撃を、肩にタンブルウインドを乗せたまま、闘牛士のような足さばきでかわしていく。


 体さばきはまだ衰えていないと思う。だが、それとは真逆に、俺の内心にはまるで余裕がなかった。

 ――勇者パーティにいた頃は、日常的にドラゴンの巣に放り込まれたり、何百といるモンスターの注意を引くためのオトリにさせられてた……。


 だからこのくらいの攻撃なら、目を閉じていてもかわせるけど……。

 チラッ、とチンピラの顔を見る。目が合った瞬間、身体がすくんだ。ほんの一瞬だけ逃げ遅れて、釘バットが頬をかすめていく。


 ――近づいてくる人間には、やっぱり慣れない……!

 攻撃を受けたことよりも、苦手な人間が自分めがけて殺到してくるという状況のほうが、よほど堪えられなかった。俺はたまらず叫んだ。


「む……ムダだからっ! い……いくらやっても……おっ、俺には当たらない!」


「なんだとぉ、生意気なこと抜かしやがって! ヒョロガリのクセしてよぉ!」


「そうだそうだ! ひょろいナリしてるから、草木と間違えちまうんだよ!」


「ひどい!」とティフォン。


「おやめになってください!」とイズミ。


 しかし、ガミメスだけはなにも言わなかった。

 無言のまま背筋を大きく反らし、これでもかと息を吸い込んでいる。


 直後、


「ざぁこぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 ガミメスの口から、火炎放射のごとく炎が吐き出された。

 その炎は、俺が攻撃をかわしたせいで隙だらけになっていた、魔導猪のチンピラたちに直撃する。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 チンピラたちは火だるまになって次々と落猪(らくちょ)し、荒野をのたうち回った。


「あっつぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ちょっとした地獄絵図である。ティフォンは口をあんぐりさせて驚き、イズミはあんぐりした口を両手で押さえて、上品に驚いていた。

 当のガミメスは、イタズラっぽいウインクとともに、ペロリと舌を出す。


「ああっ、熱かったぁ? へんな髪型してるから、草木と間違えちった!」


「イズミ、消火を……!」


 俺のその声は、


 ……ドドドド……!


 遠雷のような地響きに、かき消された。

 見ると、地平の向こうから、またも土煙が迫ってきている。


 チンピラたちの仲間が来たのか、俺たちは思わず身構えた。

 ところが肩の上のタンブルウインドは、「仲間だ! おーい!」とばかりに、ぴょんぴょん飛び跳ねて両手を振っているではないか。


 そう。その正体は、タンブルウインドの群れだった。

 しかも100はあろうかという大群。さらにその最後尾には、二階建ての家ほどもある巨大なタンブルウインドが……!


「なにあれ、すっごくでっかい!」


 ティフォンが目を見張る。


「あれは……! タンブルウインドたちの女王、タンブルクイーンだ!」


「ひいいっ!? ま、まさか女王が出てくるなんて!?」


 チリチリパーマになった黒コゲの身体を必死によじらせて、チンピラたちが逃げ出そうとする。

 タンブルウインドの群れは左右に割れ、巨大なタンブルウインドが通れるように道を作った。


 巨大なタンブルウインドは俺たちの目の前まで転がってきて停止。一部が入口のようにパカッと開き、ランウェイのような台ができあがる。

 そして中から、ひとりの女性が現れた。


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