04 タンブルクイーン2
……ドドドド……!
と、そのときだった。
遠方から地響きが伝わってきて、土煙が迫ってくるのが見えた。
タンブルウインドの巣を足元に残したまま、俺はゆっくりと立ち上がる。肩の上のタンブルウインドとともに、土煙のほうへ目を細めた。
ティフォンも両手で双眼鏡の形を作り、覗くようにして土煙を眺めていたが、すぐに素っ頓狂な声をあげた。
「なにあれ!? 鋼鉄のイノシシさん!?」
「あれは『魔導猪』といって、魔導馬のイノシシ版みたいなやつさ」
土煙の中から現れた鉄の獣たちは、お世辞にも手入れが行き届いているとは言えなかった。表面のペンキはあちこち剥げ、剥げた下からは錆が浮いている。
しかも違法改造が施されていて、牙や足首のところに、芝刈機を思わせる丸ノコが取り付けられていた。考えなしに付けたのだろう、足首の丸ノコどうしが走るたびにぶつかりあって、耳障りな音とともに火花を散らしている。
乗っている者たちは、みな人間だった。モヒカン頭に鋲の付いた革ジャン、手には釘バットにモーニングスター。
それだけなら絵に描いたような世紀末スタイルのチンピラだが、彼らはそれに加えて、モヒカンの両脇に犬耳をくっつけ、鋲のついた革の首輪を巻いていた。
彼らは俺を、いや、正確には俺が抱いているタンブルウインドを見るなり、俺たちのまわりをグルグルと回りはじめる。
「見つけたぜぇぇぇぇーーーーっ!」
「ひゃっはーっ! 草木は一掃だぁーーーっ!」
風にあおられて転がってきたタンブルウインドの巣を、チンピラのひとりが空き缶でも蹴り飛ばすような感覚で、無造作に踏み潰した。
「なんてことを!?」
ティフォンの抗議など耳にも入らないという様子で、チンピラたちは俺に向かって口々に言い放つ。
「旅の兄ちゃん! その虫けらをよこしな!」
「それに、そのイカした精霊の姉ちゃんたちもな!」
「そうそう、あとその馬車もだ!」
「そしたら悪いようにはしねぇぜぇ、ひゃははははは!」
精霊姫たちは怯えて身を寄せ合っていたが、俺のほうは、この手の連中は嫌というほど見てきている。怖くはない。
怖くはない。だが、人間と口をきくというそれだけのことに、喉の奥が引きつってしまう。
なんとか声を絞り出す。
「こ……断る……!」
「そうかい! そりゃ、残念だなぁっ!」
俺の背後を通過しようとしていたチンピラが、釘バットを大きく振りかざした。
「あ、危ないっ!」
ティフォンの悲鳴。後頭部めがけて振り下ろされる釘バット。
だが俺は、振り返りもしなかった。ノールックのまま身を翻し、ひらりとその一撃をかわす。
まるで踊っているようだったろうか。その鮮やかすぎる回避に、精霊姫たちだけでなくチンピラたちまでもが仰天していた。
「か、かわしやがった!?」
「ぐ、偶然だ! かまわねぇ、ブッ殺しちまぇぇぇぇぇーーーーっ!」
突っ込んでくる魔導猪の群れ。俺はまず精霊姫たちを離れたところへ避難させた。
そして次から次へと襲い来る攻撃を、肩にタンブルウインドを乗せたまま、闘牛士のような足さばきでかわしていく。
体さばきはまだ衰えていないと思う。だが、それとは真逆に、俺の内心にはまるで余裕がなかった。
――勇者パーティにいた頃は、日常的にドラゴンの巣に放り込まれたり、何百といるモンスターの注意を引くためのオトリにさせられてた……。
だからこのくらいの攻撃なら、目を閉じていてもかわせるけど……。
チラッ、とチンピラの顔を見る。目が合った瞬間、身体がすくんだ。ほんの一瞬だけ逃げ遅れて、釘バットが頬をかすめていく。
――近づいてくる人間には、やっぱり慣れない……!
攻撃を受けたことよりも、苦手な人間が自分めがけて殺到してくるという状況のほうが、よほど堪えられなかった。俺はたまらず叫んだ。
「む……ムダだからっ! い……いくらやっても……おっ、俺には当たらない!」
「なんだとぉ、生意気なこと抜かしやがって! ヒョロガリのクセしてよぉ!」
「そうだそうだ! ひょろいナリしてるから、草木と間違えちまうんだよ!」
「ひどい!」とティフォン。
「おやめになってください!」とイズミ。
しかし、ガミメスだけはなにも言わなかった。
無言のまま背筋を大きく反らし、これでもかと息を吸い込んでいる。
直後、
「ざぁこぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
ガミメスの口から、火炎放射のごとく炎が吐き出された。
その炎は、俺が攻撃をかわしたせいで隙だらけになっていた、魔導猪のチンピラたちに直撃する。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
チンピラたちは火だるまになって次々と落猪し、荒野をのたうち回った。
「あっつぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
ちょっとした地獄絵図である。ティフォンは口をあんぐりさせて驚き、イズミはあんぐりした口を両手で押さえて、上品に驚いていた。
当のガミメスは、イタズラっぽいウインクとともに、ペロリと舌を出す。
「ああっ、熱かったぁ? へんな髪型してるから、草木と間違えちった!」
「イズミ、消火を……!」
俺のその声は、
……ドドドド……!
遠雷のような地響きに、かき消された。
見ると、地平の向こうから、またも土煙が迫ってきている。
チンピラたちの仲間が来たのか、俺たちは思わず身構えた。
ところが肩の上のタンブルウインドは、「仲間だ! おーい!」とばかりに、ぴょんぴょん飛び跳ねて両手を振っているではないか。
そう。その正体は、タンブルウインドの群れだった。
しかも100はあろうかという大群。さらにその最後尾には、二階建ての家ほどもある巨大なタンブルウインドが……!
「なにあれ、すっごくでっかい!」
ティフォンが目を見張る。
「あれは……! タンブルウインドたちの女王、タンブルクイーンだ!」
「ひいいっ!? ま、まさか女王が出てくるなんて!?」
チリチリパーマになった黒コゲの身体を必死によじらせて、チンピラたちが逃げ出そうとする。
タンブルウインドの群れは左右に割れ、巨大なタンブルウインドが通れるように道を作った。
巨大なタンブルウインドは俺たちの目の前まで転がってきて停止。一部が入口のようにパカッと開き、ランウェイのような台ができあがる。
そして中から、ひとりの女性が現れた。
















