02 ユニバスを追って
それから時は流れ、トコナッツ王国の王城。
ユニバスが王城から逃げ出した朝、それより少し遅い時間。
姫君ポーキュパインは裸エプロンという格好、手にはブランチが乗ったトレイを持ち、ユニバスのいる客室の寝室の前にいた。
「昨日の夜はあんなこと言っちゃったけど……ウチはやっぱり、ユニバスしかいない……!」
乙女な気持ちで視線を落とすと、トレイの上にある消し炭のような料理が目に入る。
「初めての手料理……喜んでくれるかな……?」
「ままよ」とばかりに、ポーキュパインは寝室の扉を開ける。
「あ……『あなた』、もうお昼よ! もう、『あなた』ったらお寝坊さんなんだから……!」
しかしベッドはもぬけのカラ。そこから先は大騒ぎだった。
「ユニバス!? どこにいるの、ユニバスっ!?」
大声で城内を探し回るポーキュパイン。裸エプロンの姫を見て、城のメイドたちはギョッとなっていた。
「ぽ……ポーキュパイン様! なんという格好を!? は、早くお召し物を……!」
「あっ、あなた! ユニバスはどこに行ったの!? 隠すとためにならないわよっ!」
「え……ええっ!? そ、それよりも、フーリッシュ王国より使者の方がお見えになっております! 贈り物があるとかで……!」
「贈り物?」
他国からの使者とあっては応対しないわけにはいかず、ポーキュパインはいつもの格好に着替え、謁見室で使者と話す。
「こちらをどうぞ、ポーキュパイン様」
使者が布に乗せてうやうやしく差し出してきたのは、黄金のチョーカーであった。
「なんで?」といぶかしがるポーキュパイン。
「我が国の魔導装置大臣からの、友好の証でございます」
「魔導装置大臣……?」
ポーキュパインは汚物のようにチョーカーをつまむ。
――うっわ、ダサっ。こんな金ピカなの喜ぶの、成金オバサンくらいっしょ……!
さらに背面にある『アパーレ製』という文字が目に入ると、ガラクタに這うゴキブリを見たような表情になった。
アパーレの嫌らしい顔が、ポーキュパインの脳裏に浮かぶ。
――就任の挨拶に来たとき、ウチのこと嫌らしい目でジロジロ見てたんだよね……。アイツ、ぜったいド変態よ……!
ポーキュパインは嫌悪感丸出しだったが、そうとも知らない使者は促す。
「ささ、ポーキュパイン様、どうぞ身に付けてみてください。記者も呼んでありますので、両国の友好な関係を新聞でアピール……」
記者から魔導真写装置のレンズを向けられ、パシャッと一枚。焚かれたフラッシュにハッとなるポーキュパイン。
「友好? なんで? フーリッシュといえば、あのクサレ勇者を持ち上げてる国でしょ?」
ポーキュパインはデストラの洞窟での勇者の振るまいを思い出したのか、ヒートアップして声を荒げた。
「しかも、ユニバスを指名手配してる国でしょう!? そんな国と友好なんてありえないし! それにアパーレなんていうキモいオッサンが作ったアクセなんて着けたら、一生不幸になるわっ!」
ポーキュパインは怒りに任せてチョーカーを床に叩きつける。その瞬間もパシャリと記者は押さえる。
他国からの贈り物を床に叩きつけるという、宣戦布告も同然の行為が明日の新聞を賑わせることが確定した。
「それよりもユニバスよ! ユニバスを探さなきゃ! ユニバスが行きそうなところといえば……!」
それから数時間後、ポーキュパインは荒野のまっただ中、そびえる山のような巨大な炎の間近にまで来ていた。
これから城攻めでもしそうな大軍、国じゅうの魔導放水馬車を引きつれ、ものものしい雰囲気をまといながら。
ポーキュパインは白い魔導馬に乗ったまま双眼鏡を覗き込み、熱気で歪む炎の山を見ていた。
「炎の精霊たちの国、ヒートアイランド……! 何度見ても、すさまじい熱気ね……!」
肌を焦がすような風を浴び、額に汗の玉を浮かべながら、さらにつぶやく。
「長き歴史において、あの国に立ち入ったことがある人間は、勇者パーティのみ……。それ以外の人間は、たとえ隣国の王であろうとも拒んできた……。近寄ろうものなら身体に火が付いて、離れなければ全身が火だるまになるという……!」
ポーキュパインの脳裏に、ユニバスの顔が浮かぶ。
「でもあの『精霊たらし』なら……!」
ポーキュパインは双眼鏡を外し、無線機のマイクのような形状をした魔導拡声装置を手に取る。振り返り、海原のように広がる兵士たちに向かって告げた。
『これよりヒートアイランドに向かい、炎の精霊女王にユニバスの引き渡しを要求する! もし、拒否された場合は……!』
ジリジリとした熱気が闘気となって、兵士たちの身体から陽炎を立ち上らせている。否が応でも高まっていく緊張感。
『我が国への宣戦布告とみなし、ただちに攻撃を開始する!』
ポーキュパインはドラクロワの絵画『民衆を導く自由の女神』のジャンヌ・ダルクのごとく拳を掲げながら叫んだ。
『我らの未来の王を、なんとしても取り戻すのだっ! すすめーっ!!』
「おおーっ!!!!」
怒号と砂塵をあげ、全軍全力前進。すると、まるでサウナで熱波師の風を浴びているような熱風が押し寄せてくる。
こうこうと輝く炎の壁に、じりじりと迫っていく。開戦まであと100メートルといったところで、壁の向こうに人影が現れた。
壁の向こうから出てきた人物に、ポーキュパインは我が目を疑う。
そこにいたのはなんと、炎の精霊女王……!
しかもそのいでたちはなぜかギャルファッションで、『ポーキュパイン魔導女学院』の制服姿……!
トコナッツの魔導女学院はポーキュパインが学長に復帰し、制服も白をベースにしたポーキュパイン準拠のデザインに変わっていた。
しかし変わったのはごく最近のこと。最新式の制服を、なぜ一国の女王が……?
それどころではなく、お付きの女たちもみな同じ、制服ギャルファッションだった。
美魔女のような女王がギャルファッションという、反応に困るものが出てしまったので、「え……?」と固まるポーキュパインたち。
女王は、女王とは思えないような砕けた口調で言った。
「うちらヒートアイランドは、ポーキュパインを歓迎するしぃー。とりまパーリーしねぇ? てかパーリーつったらカラオケっしょ」
気づくと炎の精霊たちによってカラオケブースができあがっており、女王はすでにマイクを手にしている。
「カラオケってユニバスが発明したんだってー」
『マジ、ヤバくなーい?』と、スピーカーごしの女王の声があたり一帯に響き渡った。
















