01 アパーレの野望1
かつてフーリッシュ王国に、ゴーツアンという魔導装置大臣がいた。
彼はユニバスの発明品をすべて自分の手柄とし、大臣にまで登りつめた男だった。
それまでさんざん利用してきたユニバスを用済みとして追放したが、それが精霊たちの怒りに触れてしまった。
精霊たちによって屋敷を全焼させられ、ゴーツアンは大臣を辞任した。
その後任には、当時主任であったアパーレが就任したのだが……。
彼は、焦っていた。
城内にある執務室で、頭を抱えていた。
――ケッパレ……タナボタで大臣になったのはいいものの、なんの実績もあげられていない……!
このままでは、降格に……! なんとかしないと……!
そして、ついにアレを思い出す。
――そうだ、ユニバスの発明品……!
昔、ゴーツアンが酒の席で言っていた、ユニバスの発明品を隠した倉庫があると……!
「探そう、我が夢と希望の『ユニバス倉庫』を!」
アパーレは立ち上がる。
それから数日の時を費やし、彼はついに見つけた。
……ゴゴゴゴゴ……!
重い石扉が開き、部屋に光が差し込む。
天井からパラパラと砂が落ち、光の中でホコリが踊る。
石造りの室内には、物流倉庫のごとく整然と並べられた魔導装置の数々があった。
アパーレは財宝を見つけたお宝ハンターのごとく目を見張った。
――ケッパレ、こんな所に隠してあったとは……!
しかし、ついに見つけたぞ……!
起死回生の『お宝』を……!
室内の明かりを灯し、アパーレは物色をはじめる。
すると『危険』という紙が貼られた木箱を見つけた。
バールのようなものを使っておそるおそる中を開けてみるとそこには、首輪のような鉄の環がたくさん、そしてボタンとダイヤルの付いたリモコンのような魔導装置の端末が1台、そして報告書らしき紙が1枚。
アパーレは紙を黙読する。
――発明品報告書、報告者はユニバス。装置名は……『精神安定の環』。
これは『脳洗花』の花に宿る精霊の力を利用した、精神治療を補助する魔導装置です。
使い方はまず、被術者の頭もしくは首にこの環を着けさせます。施術者は付属の端末を操作することにより、被術者の精神に影響を与えることができます。
被術者の辛い思い出を忘れさせ、幸せな別の記憶を与えることができ、心因性のストレス障害の治療に役立てることができます。
しかし試験運用をしたところ、悪用の危険性があることがわかりました。
使いようによっては被術者の大切な思い出を消したり、施術者によって思想を植え付けられたり、洗脳に近いことが可能となることがわかりました。
よって、この発明の報告にあわせて廃棄の申請をいたします。
報告書を読み終えたアパーレはひとりごちる。
「ケッパレ? 廃棄申請されたものが、なぜここに……? そうか、ゴーツアンはユニバスの廃棄申請を無視し、ここに隠していたのか……」
『精神安定の環』の使い途を考えるうちに、アパーレはまさにお宝発見といった欲望に満ちた表情になっていった。
「アッパレ、ナイス判断である、ゴーツアン君! キミが遺してくれたお宝は、このアパーレが有効活用することが決まった! 『精神支配の環』として……!」
用意周到なアパーレは、ポケットからシールのようなものを取り出す。
そこには『アパーレ製』の文字があった。
――僕は知っている……!
ゴーツアンは、装置に付いている『ユニバス製』のプレートを剥がし、『ゴーツアン製』に付け替えていたことを……!
それが仇となって、装置にいる精霊たちの怒りを買ったんだ……!
アパーレは鉄環の外側に彫られていた『ユニバス製』の文字の上に、シールをペタリと貼った。
――ユニバスの名は残しつつ、上書きする……!
こうすれば、装置にいる精霊どもは気づかない……!
なにも知らない精霊どもは、製作者のユニバスのためだと思い、せっせと働くことだろう……!
せいぜいケッパレ、バカな精霊ども……! この僕に、富と名誉をもたらしてくれよ……!
「これはすなわち、搾取……! 支配する者だけが口にすることができる、あま~い果実……! ……アッパレ!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
アパーレはすぐさまフーリッシュ国王にアポを取る。
真っ暗がデフォルトの国王の執務室で、国王に『精神支配の環』をプレゼンしていた。
「このアパーレ特製の『精神支配の環』を兵士たちに装備させれば、絶対服従となります! 戦って死ねと命じれば、みな満面の笑顔で敵国に特攻するでしょう!」
国王は「ほほぉ」と興味をそそられたような声をあげる。
「ならばすぐに試験配備をせよ。その環を我が国の兵士たちに……」
「お待ちください、国王。いまは環の数が100個ほどしかありませんので、さらなる有効活用をご提案させていただきます」
「申してみよ」
「まずチョーカーに加工して、贈り物にするのです。その贈る相手は、リングラッド王国のナナホシ王女」
アパーレの脳裏に、まだ幼いナナホシ王女の顔が浮かんだ。
「ほう……。実をいうと今朝、報せが入ったのだ。オソレヤマでリングラッド王の暗殺に成功したと。しかし、いっしょにいた娘のナナホシの安否は不明だという。ナナホシがもし生きておったら、世継ぎとして即位するであろう。そうなったら筆頭大臣のワルメシアンを通じて、ナナホシを操る手筈となっているが……。この環の力があれば、まさしく『傀儡の王』にできるな」
「ではまず、ナナホシ王女に『快気祝い』として環を贈るというのはいかがでしょう? それに成功した後で、トコナッツ王国のポーキュパイン王女にもチョーカーを贈ります」
続いてアパーレの脳裏に、ポーキュパイン王女の顔が浮かぶ。
「まずは低知能である小学生王女で試し、次に浅知恵の働く女子高生王女で試す……そうやって、人体実験のレベルを上げていくのです」
「なるほど、リングラッドでの侵略が進めば、そのうち隣国トコナッツからの横槍もあるであろう。いまのうちに、世継ぎのポーキュパインに首輪を付けておくというわけだな」
「はい、ナナホシ王女もポーキュパイン王女もまだ未成熟。毛も生えておらぬ青いケツの小娘です。このアパーレのセンスで、ナウなヤングにバカウケのデザインのチョーカーにすれば、ホイホイ身に付けるに違いありません。そうなればふたりとも、メスの子犬のように飼い慣らせることでしょう」
「それはよいな。して、残りの98個の環はどう活用する?」
「それぞれ兵装として、トコナッツとリングラッドに贈るのです。兵士まで飼い犬にすることができれば、もはや両国は我が国に落ちたも同然です……!」
「おおっ、素晴らしい……! アパーレ、貴様もワルよのぉ……!」
「いえいえ、国王様ほどでは……!」
国王とアパーレは額が突き合うほどに顔を近づけて、クックックックック……! と嫌らしく笑いあっていた。
お待たせいたしました、第3章の開始です!
















