第八話 初めてのクエスト
あの後、アッシュがシャロンと遅めの自己紹介をしてから数分後。
現在、二人は街近くの森へ向けて歩を進めていた。
「アッシュよ、本当に我の部下になる気はないのかの?」
と、尻尾をふりふり、耳をピコピコさせ言ってくるのはシャロンである。
彼女はアッシュの隣を歩きながら、言葉を続けてくる。
「我の部下になれば、人界の半分を治める権利を与えてやるのじゃ。我はそれくらい、おぬしが気に入っているのじゃ!」
「そういう事は、実際に人界を征服してから言おうな」
ポムポム。
「あ、頭をポムポムしちゃダメなのじゃ!」
と、くすぐったそうにアッシュの手を払い落とすシャロン。
アッシュはそんな彼女へと言う。
「っていうか、お前ってなんでそんなに俺の事を気に入ったの?」
「前言った通りじゃ! 偶然とはいえ、我を倒した実力……気に入らないわけがないのじゃ! 我は負けたの初めてなのじゃからな!」
「ふーん」
「あとあと、あともう一つあるのじゃ!」
と、これまで以上に尻尾をぶんぶん、耳をピコピコさせるシャロン。
彼女はパァっと嬉しそうな表情で言ってくる。
「我が上級冒険者になってから、おぬしは初めての教え子なのじゃ! だから、おぬしは我にとって二重の意味で特別なのじゃ!」
「…………」
女の子に特別とか言われると、激しく照れるのでやめてほしい。
そう思うアッシュであった。
(まぁそれはともかく、シャロンの教え子か……正直、こいつの性格が性格だけに、かなり心配なんだけどな)
お姉さんの説明によると、新人冒険者はしばらく上級冒険者と行動を共にする必要があるとのことだ。
理由は単純――上級冒険者に安全面の事を教わったり、手続きに関して教わったりのためだ。
(シャロンのやつ、クエスト受けるのもなんだか手間取ってたけど、本当に上級冒険者なのか?)
お姉さんから紹介されたため、シャロンは確実に上級冒険者。
わかっていても不安になるのだから、シャロンは相当ポンコツに違いない。
アッシュがそんな事を内心うんうんしていると。
「もうすぐ目的地に着くのじゃ!」
と、聞こえてくるシャロンの声。
アッシュが色々考えている間に、すでに街から出ていたに違いない――風景はすでに美しい緑のそれとなっていた。
アッシュのステータス的に考え、不測の事態が起きても問題はない。
けれど、ここからは気を引き締めていこう。
と、彼がそう考えていると、再びシャロンが言ってくる。
「クエストの内容はしっかり覚えているかの?」
「大丈夫、問題ない。スライムとゴブリンを規定数討伐だろ?」
「その通りなのじゃ! 危なくなったら言うのじゃぞ! 我がおぬしを助けてやるのじゃ! ん……んぅ~~~!」
と、何やら背伸びをし、アッシュの頭部へ手を伸ばし始めるシャロン。
よくわからないが、彼がなんとなく頭の位置を下げてあげると。
シャロンは再びパァっと表情を輝かせ。
「よしよし、我が守ってあげるから安心なのじゃ!」
さっきアッシュがやったお返しのつもりか、そんな事をしてくる。
(どう考えても俺の方が強いんだけど、まぁそれは言わない方がいいよな。シャロンもなんだか嬉しそうだし……いって、悪くない気分だし)
アッシュはそんな事を考えながら、戦いへ向け気持ちを整えるのだった。




