第八話の二
戦いへ向け気持ちを整える。
とはいえ、相手は所詮スライムである。
アッシュがスキル《変換》による、ステータス操作に気が付いてなかった時ならばまだしも、今となってはスライムなど敵ではない。
「えい」
スキル《変換》でステータスを引き上げ、手刀を一振り。
アッシュがただそうするだけで、スライムは見事に消し飛ぶ。
(最初に苦労したのが嘘みたいだな)
と、アッシュがそんな事を考えたその時。
「すごいのじゃ! アッシュはすごいのじゃ!」
それまで遠巻きにアッシュの様子を窺っていたシャロン。
彼女は彼へと駆け寄ってくると、言葉を続けてくる。
「今の攻撃、スライムを触れずに両断していたのじゃ! いったどういった方法を使ったのじゃ!?」
「え、いや……遠隔攻撃系のスキルを付与して、それを使っただけだけど」
「遠隔攻撃系のスキル? 魔法みたいなものかの? いずれにしろすごいのじゃ! 魔力も感じさせず、闘気すらも感じさせず、素手で遠くにある物を両断する技術……我が部下に相応しのじゃ!」
シャロンはきゃっきゃっと跳ねまわりながら、さらに言ってくる。
「他は? 他は何が出来るのじゃ!? アッシュは他にも、もっとすごい事が出来るのかの!?」
「じ、じゃあ……」
アッシュは何だかんだで、シャロンに褒められるのが嬉しかった。
故に頑張った――否、調子にのってスキル《変換》を使いまくり、スライムを倒しまくった。
…………。
………………。
……………………。
そして、それから数分後――アッシュがおよそ三十体目のスライムを倒したころ。
「ば、バカな……あれほどの魔法を同時に、しかもあれほど素早く……魔力はいったいどうなっているのじゃ? それにこれだけ魔法や技を使ったのに、まるで疲れている様子もない……ぶつぶつ」
と、シャロンは露骨に考え込んでしまっている。
そう、アッシュはやり過ぎてしまったのだ。
(あ~っと、何かつっこまれる前にフォローした方がいいよなこれ……)
「い、いや~! やっぱり上級冒険者であるシャロンに教えてもらってると、技のキレが違うっていうか――」
「アッシュよ」
と、ピシャリと聞こえてくるシャロンの声。
アッシュとしては、何を言われるか内心ドキドキしていたのだが。
「素晴らしいのじゃ!」
と、シャロンは「あ、こら!」というアッシュの静止を無視し、彼へと飛びついて来る。そして、そのまま言ってくる。
「やはり我はおぬしが気に入った! 我はおぬしが欲しい! 我をも上回る可能性を秘めたその力……我はそれに惚れた!」
「ほ、惚れた!?」
「そう、惚れたのじゃ! 故に、我のものになれ! いや、おぬしがなんて言おうと、これは我の――魔王としての決定なのじゃ! おぬしは我のものじゃ!」
「待てって! 急にそんな事言われても――」
「待たないのじゃ! 我の胸が早鐘をうっている……こんなのは初めてなのじゃ! こんなの初めて……我の直感が告げているのじゃ!」
シャロンは両手両足を使い、アッシュをさらにきゅっとホールド。そのまま言ってくる。
「おぬしを放っておいたら取られてしまう、それはダメだと……我はおぬしの傍から絶対に離れないのじゃ!」
「え、いや……えぇええ……」
シャロンが言っているのは、あくまでアッシュの能力に関してだ。
アッシュにだって、さすがにそんな事はわかっている。
けれど。
(女の子に抱き着かれながらこんな事言われたら、童貞力こじらせた俺的には、かなり緊張するというか……全力で勘違いしそうになるんですがそれは)
と、アッシュがそんな事を考えたまさにその時だった。
「スラァアアアアアアアアアアアアアアっ!」
そんな野太く響く声が聞こえてきたのは。




