第七話 狐魔王の簡単世界征服計画
「ば、バカな……なのじゃ」
上半身だけベッドから起こし、わなわなプルプルしているのはシャロンである。
彼女がこうなっている理由は簡単――アッシュが、彼女が気絶した経緯を語って聞かせたからである。
シャロンは当初、アッシュの言葉をまるで信じていない様子だった。
けれど、しばらくすると記憶が蘇ってきたに違いない。
「我が人間に負けるなんてそんなのダメじゃ……許されない事なのじゃ!」
それからは御覧のありさまである。
と、アッシュがこれまでの経緯を心の中で纏めていると、再びシャロンが言ってくる。
「お、おぬしは何者じゃ! まさか伝説の勇者とかではないじゃろうな!」
「伝説の勇者? いや、違うけど……っていうか、そういうお前も何者だよ。本物の魔王なのか?」
「っ!?」
と、シャロンはこれまでと明らかに違う雰囲気を漂わせる。
(まずったか? もしも本物の魔王だったら、なんらかの理由があって身分を隠しているはず。正体がバレていることを、不用意に悟らせるべきじゃなかった)
けれど、全てはもう遅い。
シャロンはアッシュへと言ってくる。
「人間……我の正体にどうして気が付いた? 他の人間から教わったのか? だとしたら、我の正体を知っている人間は何人居る?」
「っ……誰も、いないよ。俺以外にお前の正体を知っている奴はいない。気が付いた理由は」
「理由は?」
「見て、なんとなく『あ、魔王だ』ってわかった」
「…………」
シャロンは目を細め、耳をピコピコ、アッシュを睨み付けてくる。
(シャロンが言いたいことはわかってる。要するに『ふざけてないで、まともに答えろ』っていう事だろ)
しかし、アッシュとしても他に答えようがないのだ。
この世界にメニューウィンドウが認知されていない以上、それを絡めた返答は不可能。
ならば、先の様に答えるしか――。
「くっ……くははははははははははっ!」
と、突然笑い出すシャロン。
彼女は笑いが収まると同時、アッシュへと言ってくる。
「いや、これは面白いのじゃ! まさか本当に我の正体を一目で見破れるとは……素晴らしい能力なのじゃ!」
「俺が言っている事を信じる、のか?」
「我の前で嘘は意味を成さないのじゃ! 少し集中して見極めれば、我は相手が嘘をついているかどうか、瞬時に見分ける事が出来るのじゃ! まぁ、疲れるから普段はやらないがの」
「…………」
妙な嘘を吐かなくてよかった。
アッシュはこの時ほど、そう思った事はなかった。
「ただ……我の正体を知った者を、そのまま返すわけにはいかないのも事実」
と、シャロンは再び重い雰囲気で続けて言ってくる。
「しかし、本気でやればどうなるかはわからぬが、おぬしが我に一度勝ったのもまた事実。我としては、勝敗がどうなるかわからぬ相手に、そう何度も挑みたくはない」
「つまり、どういう事だ?」
「くくくっ……簡単な事なのじゃ!」
と、シャロンはベッドの上で立ち上がり、ズビシっとアッシュへ指をさしながら言ってくる。
「我の部下になるのじゃ! 我の部下になれば、我の夢が成就する瞬間を、真っ先におぬしに見せてやるのじゃ!」
「お前の、夢?」
「よくぞ聞いたのじゃ! 我の夢は世界征服! 魔界を征服した今、我の次の目標はこの人界なのじゃ!」
「あのさ……一ついいか?」
ここでアッシュは気になっていた事をつっこむのだった。
「夢はわかったんだけどさ。なんでお前、冒険者やってるの?」




