第六話の三
狐娘シャロンの正体は魔王。
(本物か? だとしたら、どうしてこんなところに……)
あのゲームにおいての魔王は、当時まだ実装されていなかった。故にどこで何をしているかは不明であった。
しかし、これだけは断言できる。
(ゲームにしろ、リアルにしろ……こんなほいほいエンカウントするのは、確実におかしいだろ)
アッシュは狐娘シャロンの正体について、そんな事を考えていると。
「いつまでぼ~っとしているのじゃ!」
と、聞こえてくるシャロンの声。
けれど、アッシュがそれを認識した時には全てが遅かった。
なぜならば。
「死ね、生意気な人間め!」
続くそんなシャロンの声は、アッシュの背後から聞こえて来たのだから。
(早い! 目で捉えられないほどの速度……いや、転移したのか!?)
やばい。
やられる。
「っ!?」
アッシュだって内心、シャロンに殺意がない事はわかっていた。
彼女の「死ね」はいわゆる掛け声的なあれであり、これはあくまで試験。
故に本当に命が脅かされることはないと理解していた。
「…………」
だからこれは事故だ。
アッシュが咄嗟にステータスにスキル《変換》を使用――攻撃力と素早さをマックスに上げ、スキル《限界突破》とスキル《因果逆転》を付与。
スキル《限界突破》により、本来でるはずのない威力の攻撃を。
スキル《因果逆転》により、相手より先んじて攻撃を。
すなわち。
凄まじい威力のチョップを、シャロンの頭に叩き込んでしまったのは事故。
体が咄嗟に反応してまったが故の悲しい事故なのだ。
「きゅ~……」
そう、地面にめり込むように倒れ気絶しているシャロン。
彼女のこれは悲しい事故なのだ。
●●●
『え~っと……合格です、けど……シャロンちゃんの面倒見てくださいね。わ、私は知りませんから……無関係です』
と、受付のお姉さんが言われてから十数分後。
現在、アッシュはお姉さんに用意された、ギルド二階の小部屋――そのベッド脇の椅子へと腰掛けていた。
アッシュがここでこうしている理由は簡単である。
「むぅ~~~~……」
と、ベッドに横たわり、気絶したままのシャロンを看病しているからである。
もっとも、実際に彼女へ何かしているわけではない。
(あのお姉さん……近くに俺を置いておくことで、面倒事の避雷針的な役割にしようとしているよな)
まぁ実際にシャロンをこうしたのはアッシュなので、文句言えないのが痛いのだが。
それにしても、彼女には悪い事をしてしまった。
と、アッシュがそんな事を考えたその時。
「っ……むぅ、ここはどこ、なのじゃ? うぅ……頭が痛いのじゃ……」
ゆっくりと、シャロンが目を覚ましたのだった。




