第15話 侯爵家、畑を変えてみます
第15話 侯爵家、畑を変えてみます
王都を出発して二日目の午後、ローゼンベルク侯爵家の馬車は緩やかな丘陵地帯を抜け、ようやく領地の中心部へ入った。
窓の外には、王都周辺とはまるで違う景色が広がっている。
街道の両側には秋の収穫を終えつつある畑が続き、その向こうには低い丘が重なっていた。遠くには色づき始めた森が見え、ところどころに石造りや木造の農家が集まった小さな村がある。
荷馬車とすれ違えば、御者がローゼンベルク家の紋章に気づいて帽子を取る。
ヴァレンティナは馬車の窓へ顔を寄せるようにして、流れていく景色を眺めていた。
「……普通ね」
向かいに座っていたアルベルトが顔を上げた。
「何がだ」
「領地」
「普通とは?」
「もっとこう、荒れてるのかと思ってた」
「なぜだ」
「赤字だから」
アルベルトはしばらくヴァレンティナを見たあと、呆れたように息を吐いた。
「赤字だからといって、畑が突然荒野になるわけではない」
「分かってるわよ。でも、屋敷があれだったでしょう?」
「あれとは何だ」
「雨漏り」
「直した」
「壁」
「これから直す」
「使用人不足」
「増やした」
「食料庫」
「君が直した」
「だから、領地にも何か分かりやすいものがあるのかと思ったのよ」
「残念だったな」
「残念ではないわよ!」
むしろ安心した。
畑には作物があり、道には荷馬車が走り、村からは煙が上がっている。少なくとも、領民が逃げ出し、農地が放棄されているような状態ではない。
だからこそ、別の疑問が生まれる。
これだけ普通に土地が動いているのに、なぜ収入だけが落ち続けているのか。
ヴァレンティナは膝の上に置いていた『領地』と書かれたノートを開き、窓の外を見ながら新しい一行を書き加えた。
土地そのものが駄目なわけではない。
「何を書いた?」
「秘密」
「俺の領地について書いているのに?」
「じゃあ見せない」
「子供か」
「うるさい」
馬車はそのまま、領地の中心にある館へ向かった。
◇
領地の館は、王都の侯爵邸ほど大きくはなかった。
それでも二階建ての石造りで、正面にはローゼンベルク家の紋章が掲げられ、周囲には厩舎や倉庫、使用人棟が並んでいる。古さは感じるものの、王都の屋敷ほど深刻な傷みはなく、少なくとも玄関へ入った瞬間に天井を見上げて雨漏りを心配する必要はなさそうだった。
「ここは雨漏りしない?」
ヴァレンティナが小声で尋ねる。
「しない」
「本当に?」
「たぶん」
「今『たぶん』って言った?」
「聞き間違いだ」
「絶対言ったでしょう!」
玄関で待っていた男が、二人のやり取りをどう受け取ればいいのか分からない顔をしていた。
「お待ちしておりました、旦那様、奥様」
男は五十代半ばほどで、日に焼けた肌と、白髪の混じり始めた短い茶色の髪をしていた。王都の貴族家に仕える者ほど服装は華美ではなく、濃い褐色の上着も丈夫さを優先したものに見えるが、襟元まできちんと整えられている。
「領地管理を任されております、ヘンリー・ウォルシュでございます」
「ヴァレンティナよ。よろしくね」
「奥様のお噂は、こちらまで届いております」
「どんな?」
ヘンリーが一瞬だけ言葉に詰まった。
「……非常に行動力のある方だと」
「今、言葉選んだでしょう」
「奥様」
後ろに控えていたミレイユから静かな声が飛んできた。
「何よ」
「到着直後でございます」
「分かってるわよ」
ヘンリーの口元がわずかに緩んだ。
ヴァレンティナは見逃さなかったが、今は追及しないことにした。
「荷物を置いたら、畑を見たいわ」
「本日ですか?」
「まだ明るいでしょう?」
ヘンリーが窓の外を見た。
「二時間ほどで日が落ちますが」
「近いところだけでいいわ」
「奥様」
今度はミレイユである。
「何?」
「王都から二日間移動なさった直後です」
「馬車に座ってただけよ」
「二日間座っておられたからこそ、お疲れなのでは」
「疲れてないわよ」
「昨夜、宿で腰が痛いと仰っておられました」
「なんで覚えてるの!?」
「仕事ですので」
ヴァレンティナはアルベルトへ助けを求めるように視線を向けた。
「俺はミレイユに賛成だ」
「裏切り者!」
「明日から一週間ある。今日は館の中を確認して休め」
「でも」
「畑は明日も逃げない」
「……分かったわよ」
領地へ到着して最初にヴァレンティナが学んだことは、メイド長補佐を同行させると自分の行動まで管理されるということだった。
◇
翌朝はよく晴れた。
朝食を終えると、ヴァレンティナは動きやすい濃紺のドレスへ着替え、裾をいつもより少し短く整えてもらった。靴も王都で履く華奢なものではなく、底の厚い革靴を選んでいる。
鏡の前で帽子をかぶっていると、ミレイユが外套を持ってきた。
「こちらもお持ちください」
「いらないでしょう。晴れてるわよ」
「午後から風が強くなるとのことです」
「暑いもの」
「馬車へ積んでおきます」
「聞いてる?」
「聞いております」
「採用したとき、もっと無口な人だと思ってた」
「必要なことは申し上げます」
「エレノアと同じこと言うようになってきたわね」
「光栄です」
「だから褒めてないのよ!」
館の前では、すでにアルベルトとヘンリーが待っていた。
最初に向かうのは、館から比較的近い農地である。
ローゼンベルク領の中心部には平坦な土地が広がり、主に小麦をはじめとする穀物が作られている。さらに西へ行けば畑が増え、東側には古くから使われている倉庫群があり、丘陵地帯には果樹園や羊の放牧地が点在しているという。
馬車でしばらく進むと、視界いっぱいに畑が広がった。
「広い……」
ヴァレンティナは思わず呟いた。
帳簿の中では「西部第二農区」「小麦収穫量」と数行で終わっていた場所が、実際には見渡す限りの土地として広がっている。
収穫を終えた区画では刈り取られた茎が低く残り、別の区画では農民たちが次の作業を進めていた。
畑の間には水路が走り、荷車が通れる幅の農道が延びている。
ここで何十もの家族が働いている。
帳簿の一行の向こう側に、これだけの人間と土地があるのだ。
「去年、雨の影響が大きかったのはこの辺り?」
「さらに西側でございます」
ヘンリーが答えた。
「こちらも収量は落ちましたが、西の低地ほどではございませんでした」
「今年は?」
「例年並みまで戻っております」
「それなのに収入は戻ってない」
「価格が下がっておりますので」
「やっぱりそこなのね」
ヴァレンティナはノートを開いた。
「小麦そのものが採れなくなったわけじゃないのね?」
「昨年を除けば、大きな変化はございません」
「品質は?」
「悪くありません。この土地は昔から小麦には向いております」
ヘンリーは少し誇らしそうだった。
その表情を見て、ヴァレンティナは畑へ目を戻した。
土地が悪いわけではない。
農民が怠けているわけでもない。
作物の品質が急に落ちたわけでもない。
ただ、同じものを作っていても、以前と同じ値段では売れなくなった。
「厄介ね」
「何がだ?」
アルベルトが尋ねる。
「誰かが悪いなら、その人に直してもらえばいいでしょう。でも、誰も悪くないもの」
「市場価格に文句を言っても仕方ないからな」
「そういうこと」
◇
畑を回っている途中で、一行は農作業をしていた年配の男と話すことになった。
名前はジョージといい、この土地で三十年以上小麦を作っているらしい。日に焼けた顔には深い皺が刻まれ、土のついた大きな手は、いかにも長年農作業をしてきた人間のものだった。
「今年の小麦はどう?」
ヴァレンティナが尋ねる。
「出来は悪くありません、奥様」
「でも値段は?」
「……以前よりは、だいぶ」
「困ってる?」
ジョージはすぐには答えなかった。
アルベルトが隣にいることを気にしているようにも見える。
ヴァレンティナは少し考えた。
「怒らないから、本当のこと言って」
「奥様」
「何よ、アルベルト」
「俺が怒る前提で話すな」
「だって領主の前で『困ってます』って言いにくいでしょう?」
「それはそうだが」
ジョージが困ったように笑った。
「去年は収穫が少なく、今年は値が安いので、楽ではありません」
「種を買うお金は?」
「今のところは何とか」
「農具は?」
「壊れたものを直しながら使っております」
ヴァレンティナは少し黙った。
13話で帳簿を見たとき、地代を上げれば収入そのものは増やせると一瞬考えた。
だが、やはり上げなくて正解だった。
今ここからさらに金を取れば、農具を直す金や翌年の種を買う金まで削ることになる。
それでは今年の帳簿だけ少し良くなって、来年の収穫を悪くするだけだ。
「別のものを作ったことはある?」
「別のもの、でございますか?」
「小麦以外」
「家の脇で豆や野菜を作ることはございますが、こちらの畑は昔から小麦でございます」
出た。
ヴァレンティナは思わずアルベルトを見た。
「何だ」
「何でもない」
「言いたいことがある顔だな」
「『昔から』って聞くと、最近ちょっと身構えるのよ」
ヘンリーが咳払いをした。
「奥様、この土地で小麦が作られてきたことには理由がございます」
「分かってるわ。別に『昔からだから全部やめましょう』なんて言わないわよ」
ヴァレンティナはしゃがみ込み、畑の土を指先で少し触った。
乾きすぎてもいない。
だからといって、土を見ただけで何を植えればいいか分かるほど、彼女は農業に詳しくない。
「この土地で、小麦以外なら何が育つの?」
ヴァレンティナはヘンリーに尋ねた。
「豆類や根菜であれば問題なく育ちます。場所によっては菜種も可能でしょう。ただし、何を作るにしても市場がなければ意味がございません」
「そうよね」
「また、畑を変えるのであれば農民にも経験が必要になります。作物によって種まきや収穫の時期も異なりますので」
「それもそうね」
ヴァレンティナは立ち上がり、服についた土を払った。
「じゃあ、いきなり全部変えるのはなし」
ヘンリーが少し驚いたように彼女を見た。
「全面的な転作をお考えではなかったのですか?」
「怖すぎるでしょう」
「奥様がそのようなことを仰るとは」
「どういう意味よ!」
「いえ」
「今、絶対失礼なこと考えたでしょう!」
「そのようなことは」
ヘンリーが視線を逸らした。
アルベルトの口元がわずかに緩んでいる。
「あなたも笑ってるでしょう」
「笑っていない」
「口元!」
◇
昼食は、畑から少し離れた村の集会所で取ることになった。
領主夫妻が来ると聞いていたため、村側はかなり立派な食事を用意しようとしていたらしいが、事前にアルベルトから普段の食事に近いもので構わないと伝えてあった。
出てきたのは焼いたパンに野菜と豆の煮込み、塩漬け肉、それに地元で作られたチーズだった。
「美味しい」
ヴァレンティナが豆の煮込みを口にすると、同席していた村長がほっとしたように笑った。
「この辺りでは昔からよく食べます」
「この豆もここで作ってるの?」
「自家用がほとんどでございますが、作っております」
「売ってないの?」
「余れば近くの市場へ出す程度です」
「値段は?」
隣に座っていたアルベルトがパンをちぎりながら言った。
「食事中まで商談をするのか」
「気になるでしょう」
「君はな」
「あなたは気にならないの?」
「気にはなるが、まず食べる」
ヴァレンティナは少し不満そうな顔をしたものの、言われてみれば朝から歩き回っていたせいで腹が減っている。
素直にパンへ手を伸ばした。
その間にも、村長やヘンリーから話を聞く。
豆は小麦ほど広い面積では作られていないが、この土地でも問題なく育つ。
菜種も一部の農家が自家用に作ったことがある。
根菜は王都まで運んでも比較的傷みにくいが、単価はそれほど高くない。
どれも「植えれば儲かる」というほど都合のいい作物ではなかった。
当然である。
そんなものがあるなら、とっくに誰かが作っている。
「やっぱり市場を調べないと駄目ね」
ヴァレンティナが呟くと、アルベルトが頷いた。
「作れるものと売れるものは別だ」
「そうなのよね」
昨日のお茶会でも、それを感じた。
小麦が悪い商品になったわけではない。
ただ供給が増えた。
羊毛も使えなくなったわけではない。
もっと安い商品が入ってきた。
作れるから作るのではなく、誰が買うのかまで考えなければならない。
「王都に戻ったら、お父様のところでも価格を聞いてみようかしら」
「ベルモンド商会に買わせるのか?」
「それは駄目」
ヴァレンティナは即座に否定した。
「どうしてだ?」
「お父様の商会が買わなくなった瞬間、また困るでしょう。売るなら、他の商人にも売れるものじゃないと意味がないわ」
アルベルトが少しだけ目を細めた。
「意外だな」
「何が?」
「君なら父親の商会を使えるだけ使うと思っていた」
「情報は使うわよ」
「そこは使うのか」
「使えるものは使う。でも、そこだけに頼るのは駄目」
ヴァレンティナはパンをちぎりながら続けた。
「商売で一番怖いのは、一つしかないことなのよ。売る相手が一人しかいないとか、商品が一つしかないとか、全部のお金を一つに入れるとか」
「なるほど」
「だから畑も同じ」
ヴァレンティナはヘンリーを見た。
「試してみましょう」
「何をでしょう?」
「小麦以外の作物」
村長とヘンリーが顔を見合わせた。
「ただし、ほんの一部だけ」
ヴァレンティナは指を五本広げた。
「五パーセント」
「五パーセントでございますか?」
「それくらいなら、失敗しても領地全体が困るほどじゃないでしょう?」
ヘンリーは少し考えた。
「場所を選べば可能かと存じます」
「小麦はちゃんと残す。新しい作物も一種類に決めないで、二つか三つ試して、収穫量だけじゃなくて売値と手間も比べる」
「かなり慎重だな」
アルベルトが言った。
「当たり前でしょう」
「君の口から慎重という言葉を聞く日が来るとは」
「私を何だと思ってるのよ!」
「六リルのドレスで王宮へ行く女」
「ちゃんと直したでしょうが!」
村長が笑いを堪えて俯いた。
◇
午後はさらに西側の畑を見て回った。
昨年の長雨で特に被害を受けた地域には、今も水路の補修跡が残っている。
ここでもヴァレンティナは、帳簿だけでは分からなかったことをいくつも知った。
同じ「小麦畑」でも、水はけのいい土地と悪い土地がある。
同じ村でも、家によって持っている農具が違う。
同じ収穫量でも、市場へ近い農家と遠い農家では運送費が違う。
数字の列だけを見ていれば一括りにしてしまいそうなものが、現地では一つずつ違っていた。
「……危なかった」
帰りの馬車で、ヴァレンティナは窓の外を眺めながら呟いた。
「何がだ?」
「帳簿だけ見て決めなくてよかった」
アルベルトが向かいから彼女を見る。
「最初は、小麦の畑を減らせばいいと思ってたの」
「今は?」
「減らすとしても、少しずつね。そもそも何を増やすかも決まってないし」
「賢明だな」
「だから五パーセント」
「なぜ五なんだ?」
「十だと怖いし、一だと分からなそうだから」
「ずいぶん感覚的だな」
「最初なんだから、それくらいでいいのよ。結果を見て増やせばいいでしょう」
ヴァレンティナはノートを開いた。
試験用農地。
豆。
菜種。
その他、市場調査後に決定。
収穫量。
必要な労働。
売値。
輸送費。
それらを全部比較する。
「商売で一番やっちゃいけないのは、全財産を一つの商品に賭けることよ」
「それは父親に教わったのか?」
「お父様も言ってたし、お母様も言ってたわ」
「夫婦で同じことを?」
「お父様は『一つの船に全部の商品を積むな』って言って、お母様は『一つの男に人生全部預けるな』って言ってた」
アルベルトが黙った。
「……何よ」
「今、俺はどういう反応をすればいい?」
「知らないわよ」
「義母上は随分と現実的な方らしいな」
「商人の妻だもの」
少し間を置いて、アルベルトが窓の外へ視線を向けた。
「では、君も俺一人には賭けていないわけだ」
「何の話?」
「いや」
「変なの」
ヴァレンティナは特に気にせず、再びノートへ目を落とした。
アルベルトもそれ以上は何も言わなかった。
まだ、それでいい。
◇
館へ戻るころには、空が薄い橙色へ変わり始めていた。
玄関を入ったところで、ミレイユがヴァレンティナの姿を見て眉をわずかに動かした。
「奥様」
「何?」
「裾が泥だらけです」
「畑に行ったもの」
「存じております」
「じゃあ仕方ないでしょう」
「お召し替えください。夕食までに汚れを落とせるか確認いたします」
「これくらい自分で――」
「六着お持ちして正解でしたね」
「……それ言いたかっただけでしょう」
「事実を申し上げただけです」
ミレイユはヴァレンティナから外套を受け取り、その裾についた泥まで確認した。
「明日はどちらへ?」
「東の倉庫を見て、それから果樹園」
「果樹園でございますか」
「そう。帳簿だと、収穫量は悪くないのに売上が減ってるのよ」
「承知いたしました。では明日も歩きやすいお召し物をご用意します」
「三着でも足りたんじゃない?」
「本日一着、泥になりました」
「洗えばいいでしょう」
「乾くまで着られません」
「…………」
「六着で正解でしたね」
「二回言わなくていい!」
ミレイユがヴァレンティナの外套を持って去っていく。
その背中を見送りながら、ヴァレンティナは小さく息を吐いた。
「絶対エレノアに似てきてる」
「聞こえております」
「なんで聞こえるのよ!」
廊下の向こうから「仕事ですので」とだけ返ってきた。
◇
その夜、ヴァレンティナは寝室の机で、その日に聞いたことを『領地』のノートへ整理していた。
小麦は作れる。
品質も悪くない。
農民もきちんと働いている。
それでも市場価格が下がれば、同じものを同じ量だけ作っているだけでは収入が減る。
だからといって、値段が下がったからすべて別の作物へ変えるのも危険だった。
土地には向き不向きがあり、作る人間には経験があり、収穫したものには売る相手が必要になる。
屋敷の食費を削るようにはいかない。
けれど、何も変えなければ少しずつ苦しくなる。
ヴァレンティナはノートの一番下へ、今日決めたことを書いた。
《来春、一部農地で試験栽培。全体の五パーセント以内》
その下に、さらに一行加える。
《全部変えない。結果を見てから次を決める》
書き終えてペンを置くと、窓の外には暗い農地が広がっていた。
昼間に見た畑では、何十人もの人間が働いていた。
帳簿の数字を一つ動かすということは、あの人たちの仕事を動かすということでもある。
ヴァレンティナは、それを今日初めて実感した。
だから、急がない。
ただし、止まりもしない。
まずは小さく試して、うまくいけば広げればいい。
ローゼンベルク侯爵家。
領地改革の第一歩は、畑を全部ひっくり返すことではなかった。
たった五パーセントだけ、今までとは違うものを試してみることになったのである。
そして翌日。
ヴァレンティナは、その畑よりも先に金へ変えられそうなものを見つけることになる。
それは今まで、売り物にすらならないと思われていた果物だった。




