【第17話】悪魔の虫は極上のカニしゃぶに。そして謎のチョコラーメン誕生
すっかり角が取れ(というか骨抜きにされ)、ホカホカの顔で湯上がりの休憩所にやってきたユリウスは、出された冷たいフルーツ牛乳を一気に飲み干してプハァッと息を吐いた。
「……負けた。この風呂に関しては、我が帝国の完全敗北を認めよう。だがな、アリア殿。食事に関してはそうはいかないぞ。いくら風呂が良くても、この辺境でまともな食材など育つはずが……」
「まあまあ、ちょうどお昼ですし、何かお出ししますね。ユリウス殿下は、何かお好きなものや、逆に困っている食材などありませんか?」
私が尋ねると、ユリウスは急に眉間を押さえて深刻な顔になった。
「困っている食材、か……。実は今、我が国の海岸沿いで『紅殻の死神』と呼ばれる恐ろしい魔虫が大量発生していてな。硬い殻に覆われた巨大な虫で、ハサミで人間の腕を切り落とす。毒素が強すぎて食べることもできず、焼却するしかなくて頭を抱えているのだ」
「へえ、巨大な虫で、赤い殻で、ハサミがある。それって……タラバガニじゃないですか?」
「カニ? なんだそれは」
「よし、ちょっと持ってきてみてください! お掃除(浄化)して茹でてみましょう!」
私が目を輝かせると、ルーファス様が渋々といった様子で帝国側からその『魔虫』の死骸を取り寄せさせた。
運ばれてきたのは、間違いなく前世の記憶にある立派な『タラバガニ』だった。ただし、強烈な毒の瘴気を放っている。
「アリア、危険だ! そんな悍ましい虫に触るなど……」
「大丈夫ですよ、ルーファス様。えいっ」
私がパァン!と魔力をぶつけると、カニから黒い瘴気がスゥッと抜け、見事なまでに清浄で新鮮な海産物へと早変わりした。
私はすぐにお湯を沸かし、サッと茹でてから、太い脚の殻を剥いて二人の前に差し出した。
「はい、特製のお出汁にくぐらせて、タラバガニのしゃぶしゃぶです! どうぞ!」
「……正気か? この悪魔の虫を食えと? 私は絶対に……」
言いながらも、湯上がりで空腹だったユリウスは、恐る恐るその白い身を口に運んだ。
――瞬間、彼の目からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「な、なんだこれはぁぁっ!! 口の中で甘みと旨味が爆発している! プリプリとした食感、噛むほどに溢れ出す濃厚なエキス……っ! 我が国ではこんな極上の食材を、わざわざ金と労力をかけて焼却処分していたというのか!? なんという愚行……っ、おかわり! もう三本くれ!!」
「俺にもくれ、アリア。……くそっ、悔しいが異常に美味い」
カニの魅力に取り憑かれ、無言でカニを貪り食うイケメン二人。
さらに私は、ユリウスが「これも毒があって困っている」と出してきた『黒いヘドロ状のスライム』を浄化し、それが甘いカカオのような成分であることを発見。
辺境特産のちぢれ麺と組み合わせ、濃厚なカカオの香りが食欲をそそる『特製チョコラーメン』を完成させた。
「甘さと塩気の無限ループ……! この黒いスープが麺に絡みつき、私の理性を破壊してくるぞ!」
もはや皇太子の威厳はゼロ。
辺境のグルメ革命は、隣国の王族の胃袋すらも完全に制圧してしまったのだ。




