【第13話】今さら戻ってこいと言われても、もう遅いです
「……あの、ルーファス様。国を滅ぼすとか、そういう物騒なことはやめてくださいね」
私は、今にも剣を抜いて王都へ進軍しかねない旦那様の背中を、ポンッと軽く叩いた。
殺気立っていた騎士団長も、腰を抜かしている使者も、ポカンとして私を見る。
「アリア? しかし、奴らは君を……」
「だーっめ、です。王都を灰燼に帰すなんて、その後の瓦礫のお掃除がすっごく大変になるじゃないですか。辺境の復興で忙しいのに、そんな無駄なことに体力を使わないでください。……それに」
私はルーファス様の前に進み出ると、床で震えている使者を真っ直ぐに見下ろした。
「王家からのご命令、確かに承りました。ですが、私の答えは『否』です。王都には戻りませんし、第一王子殿下の妃になるつもりも、金輪際ありません」
「なっ……! 正気ですか!? 相手は腐っても一国の王子! 次期王妃の座を蹴るなど、どれほどの不敬になるか……っ」
「不敬? 笑わせないでください」
私の声が、自分でも驚くほど冷たく響いた。
「私が実家で、寝る間も惜しんで魔力を搾取され続けていた時、王家の皆さんは私を助けてくれましたか? 無一文で、魔物のうようよいる辺境に放り出された時、手を差し伸べてくれましたか? ……いいえ、あなた方は私が『無能』だと思っていたから、見て見ぬふりをした。そして今になって、私の力が国に必要だと分かった途端、手のひらを返して『戻ってこい』だなんて。あまりにも虫が良すぎませんか?」
「そ、それは……」
「私は、都合のいい道具じゃありません。人間です。私の居場所は、私がボロボロだった時に命懸けで守ってくれて、私のすべてを全肯定してくれた……この過保護で不器用な旦那様の隣だけです」
振り返り、ルーファス様を見ると、彼は信じられないものを見るように目を見開き、そして顔を真っ赤にして口元を覆っていた。(ちょっと可愛かった)。
「というわけですので、お引き取りください。……ああ、念のため、辺境に手出しをするとどうなるかだけ、お見せしておきますね」
私は小さく息を吸い込み、足元の床に向かって『トントン』とつま先を鳴らした。
――カッ!!!
その瞬間、私を中心に、目を開けていられないほどの凄まじい光の奔流が爆発した。
それは宮廷魔術師団が束になっても敵わない、純度百パーセントの『特級浄化魔力』。光の波は城を抜け、辺境の領地全土を覆い尽くし、不可視の絶対防衛結界となって天を覆った。
「ヒッ……! あ、あああああっ……!」
使者はその圧倒的すぎる神の如き力に当てられ、完全に白目を剥いて気絶してしまった。
「……やりすぎたかしら」
「いや。最高だ、俺の妻は。君が俺を選んでくれたという事実だけで、俺は今すぐ天に昇れそうだ……」
「昇らないでください! ほら、騎士団長さん、この使者の方を馬車に放り込んで、王都に送り返してあげてくださいね」
こうして、王都からの身勝手な干渉は、私の完全拒絶と圧倒的な力の誇示によって、綺麗さっぱりシャットアウトされたのだった。




