【第12話】王室からの勝手な親書と、絶対に渡さないという宣戦布告
「……ほう。それで?」
数日後。公爵邸の執務室の空気は、物理的に凍りつくほどの殺気に満ちていた。
ルーファス様の背後からは、文字通り黒いオーラが立ち上っているように見える。
事の発端は、王都から必死の形相で馬を飛ばしてきた王室の使者が持ち込んだ、一通の親書だった。
「は、はいぃっ! 現在、王都では深刻な魔力不足による結界の崩壊が問題となっておりまして……! 調査の結果、アリア様が国家の存亡に関わるほどの『特級浄化能力者』であることが判明いたしました! そこで国王陛下は、アリア様の実家を厳罰に処し、アリア様を直ちに王都へ帰還させるよう命じられました!」
「……それで?」
「き、帰還後は、第一王子殿下の正式な婚約者として王家にお迎えし、次期王妃としてその力を国のために存分に振るっていただく、と……っ!」
使者が言葉を言い終えるより早く、バキィッ!!という轟音が響いた。
ルーファス様が座っていた重厚なマホガニーのデスクが、彼の拳一つで真っ二つにへし折られた音だった。
「ひぃぃっ!?」
「ル、ルーファス様!?」
私が慌てて止めに入ろうとするが、彼は静かに立ち上がり、氷点下の声で使者を見下ろした。
「……ふざけるな。どの口が、俺の妻を王都に連れ戻すなどとほざいた?」
「つ、妻……!? しかし、アリア様はまだ正式な婚姻を……」
「俺の中ではすでに夫婦だ。それに、国のために力を振るえだと? 実家でボロボロになるまで搾取され、無一文で追放された彼女を助けようともしなかった王室が、今更どの面下げてそんな命令を出せる」
ルーファス様はギリッと歯を鳴らし、腰の剣の柄に手をかけた。
「いいか、よく聞け。アリアは俺の命であり、この辺境の女神だ。第一王子の妃だと? 笑わせるな。あんな軟弱な男に、彼女の髪の毛一本触れさせるものか。彼女を奪おうというのなら……俺は辺境軍全軍を率いて、王都を灰燼に帰すことも辞さないと、そう国王に伝えろ!!」
「か、閣下! それは明らかなる国家への反逆宣言ですぞ!?」
「反逆で結構。俺のすべてはアリアの守護のためにある」
騎士団長が青ざめて止めるのも聞かず、ルーファス様は私を強く、息ができなくなるほどきつく抱きしめた。
「ルーファス、様……」
「アリア、心配するな。俺が必ず君を守り抜く。誰一人として、君をあの忌まわしい王都に連れ戻させはしない。……だから、絶対に俺から離れないでくれ」
その重すぎる愛の言葉と、国すら敵に回そうとする狂気的なまでの独占欲。
常識で考えればパニックになる状況だ。でも、彼の震える腕の強さに、私は「はい」と、ただ彼の背中に腕を回して強く抱きしめ返すことしかできなかった。
今さら戻ってこいと言われても、もう遅い。
私はこの辺境で、この過保護で甘すぎる旦那様と一緒に、絶対に幸せになってみせるのだから。




