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【第10話】崩壊は泥沼へ。見苦しい責任のなすりつけ合い

「結界の異常? なんのことかサッパリ分かりませんな。我が領地の防衛網は、この私と次期当主である息子が完璧に管理しております。何かの見間違いではないですかな?」


王都の実家、その応接室。

冷や汗をだらだらと流しながらも、父親は引きつった愛想笑いを浮かべて目の前の男を取り繕おうとしていた。


ふかふかのソファに深々と腰掛け、紅茶のカップを優雅に傾けているのは、王室直属の異端審問官であるクロード。銀縁の眼鏡の奥で光る氷のような双眸が、父親と、その後ろで震えているレオンハルト、そしてエリーゼを値踏みするように見据えていた。


「ほう。完璧に管理、ですか。それは素晴らしい」

クロードはカチャリとティーカップを置き、懐から一つの小さな水晶玉を取り出してテーブルに置いた。


「では、これはどういうことかご説明いただけますか? これは『真実の眼』と呼ばれる、ごく最近の過去の映像と音声を再生する魔道具です。……つい三日前、あなた方の領地の結界を司る中枢魔石が、完全に魔力を失って砕け散る瞬間が、見事に記録されておりましてね」

「なっ……!?」


水晶玉の上に浮かび上がった映像には、ひび割れ、ボロボロと崩れ落ちる黒い石の姿がはっきりと映し出されていた。


「あ、ありえん! なぜ我々の地下室の映像が……っ!?」

「審問院の密偵を甘く見ないでいただきたい。さて、結界の消失に加え、領地からの税の深刻な横領疑惑……さらには、国家の最高機密レベルに該当する『特級浄化能力者』を、正当な理由もなく不当に扱い、あまつさえ辺境の地へ追放したという大罪。……言い逃れはできませんよ」


クロードの冷酷な宣告に、父親はガクンと膝から崩れ落ちた。

だが、次の瞬間、父親は血走った目で後ろを振り返り、実の息子であるレオンハルトを指差した。


「そ、そうだ! 全部こいつのせいだ! アリアを追放しろと言い出したのはレオンハルトなんだ! こいつが『あんな地味な女は嫌だ、エリーゼと結婚したいから追い出せ』と泣きついてきおったのだ! 私は反対した! だが、次期当主の我儘を抑えきれず……っ!」

「お、お父様!? 何を言っているんですか! アリアを無能扱いして魔力を搾取するシステムを作ったのはお父様じゃないですか! 俺はただ、それに乗っかっただけで……っ、そうだ、エリーゼ! お前もグルだっただろうが!」


いきなり矛先を向けられたエリーゼは、顔を真っ赤にして甲高い悲鳴を上げた。


「ち、違うわよ! 私、お姉様の魔法のことなんて何一つ知らなかったもの! レオン様が夜な夜な私の部屋に来て『君の方が可愛いからアリアを追い出そう』って誘惑してきたんじゃない! 私は被害者よ! お父様もレオン様も最低!! 私だけは助けてよ!!」


「この恩知らずの尻軽娘が! お前が一番アリアを見下して嗤っていたくせに!」

「なんですって!? あんたこそ、アリアの魔力がなきゃ領地の一つも回せない無能のくせに!」


……もはや、貴族としての矜持など欠片もなかった。

自分だけは助かりたい一心で、醜く罵り合い、責任をなすりつけ合う家族の姿。


クロードは心底ゴミを見るような目で三人を一瞥すると、冷たく言い放った。


「見苦しい。……連行しろ。尋問室で、たっぷりと現実を教えてやるとしよう」

「いやだ! 離せ! 私は悪くない、アリアのせいだ、あのアマのせいだぁぁぁっ!!」


レオンハルトの情けない絶叫が廊下に響き渡る。

彼らが自分たちの犯した罪の重さと、取り返しのつかない現実を真に理解するのは、暗く冷たい地下牢の中でのことだった。

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