魔王の剣の授与式で惑星を両断!? 艦隊を率いて『深層直結』のダンジョン周回を始めるも、ドロップ効率が悪すぎるため専門家を募集します
銀河帝国も銀河共和国も振り回した魔王の剣が、何故か俺の手にあった。
遠目で見れば『子供向けホロムービーの仇役が持っているような剣』ではあるのだが、間近で見るとファンタジー要素皆無の俺でも『何か』を感じてしまうほど禍々しい。
「んんっ、姫さん?」
助けを求めるためにリゼを見ても、リゼは盛装で跪いている。
盛装といってもドレスではない。
体の要所を新装甲で守り、銀河帝国各地から献上された最良の素材で彩られた、帝国最高の騎士としての盛装であり正装だ。
「ポーターさん! もう儀式は始まっているのです!」
俺の耳の裏に貼られた、薄皮サイズの自動翻訳機兼スピーカーからギョーショーの呆れ声が聞こえる。
分かってはいるんだが、超光速回線越しに帝国人全員だけでなく周辺星系の住民にまで見られていると、比喩ではなく胃が痛くなる。
「俺、ポーター・ジャバウォックは、姫騎士リゼを帝国筆頭騎士として迎え入れる」
見物人の反応は気にせず、俺は新装甲製の鞘から『剣』を抜く。
刀身を直視すると危険と本能が絶叫するので、俺は、とにかく慎重に『剣』を動かす。
なお、俺は現在パワードスーツとして機能する宇宙服を着込んでいる。
こんな『剣』を生身で持てるような能力はないんだよ。
「……っと」
剣の平らな部分でリゼの肩に触れる。
万が一にも切ったりしないよう気を付けていたのに、緊張か体力の限界かは分からないが剣が揺れそうになる。
『にゅっ』と小さくリゼの背中から生えた光翼が、『剣』を支えてくれた。
「以降も帝国への忠勤を期待する。……受け取れ」
「はっ」
『剣』をリゼに渡して、この儀式もようやく終了だ。
共和国から帝国に譲渡された魔王の剣を、帝国の皇帝がリゼに『騎士の剣』として渡すことでロンダリングは完了だ。
これからは魔王の剣と呼ばれることはない……と思いたい。
「ふう。姫さん、後は頼んだ」
まだ超光速回線で見られているのは知っているが、本当にもう限界だ。
倒れたり座り込んだりするのは我慢するが、自分自身の膝に手を当てて何度も深呼吸する。
「陛下と帝国に永遠の忠誠を誓う!」
リゼが剣を掲げる。
光の翼が『ばさり』と広がり神々しく輝く。
観客の声は中継していないのに、熱狂で茹だった歓声と悲鳴が聞こえた気がした。
「気絶して人が大勢いるのです! 医療部門が大忙しなのです!」
ギョーショーはマイペースに騒がしい。
俺も、このマイペースさを見習った方がいいんだろうか。
「そして」
リゼが掴んだ『剣』の柄が『ぎちり』と鳴った。
リゼの首元を無骨に飾るネックレスが、生き物とも機械ともいえない奇妙な動きをしている。
「この地にダンジョンを拓く。帝国の民よ。ダンジョンを使い、力を、富を、自らのものにするがよい!」
リゼが『剣』を振り下ろす。
地面が、否、惑星の表面が最低でも地平線まで『すぱり』と切れる。
徐々に広がって傷口に俺が巻き込まれる前に、リゼが俺を抱き上げて上空の『フリーキャッスル』まで跳躍した。
「おい姫さん! ここまで派手にするなんて聞いてないぞ!」
上空からは遠くまで見える。
惑星全体と比較しても分かるほど大きな『切れ目』が、ゆっくりと広がり、円形の巨大な傷口ができあがる。
『枯れた』惑星とはいえそれだけ巨大な『切れ目』なら熱を持った惑星内部が見えるはずなのに、『切れ目』から見えるのは極彩色の空間だ。
超光速移動の際に見える極彩色の宇宙と酷似はしているが、何かが違う。
「この時代に『人間のみが入れるダンジョン』を拓いても意味がない。事故が怖いから出入り口を大きくしたダンジョンを拓いたぞ!」
リゼは得意げに微笑む。
背中の翼も『やってやったぜ!』という感じに得意そうだ。
「これだけでかいと、共和国だけでなく他の星間国家にも気付かれるぞ」
「ポーターさんポーターさん! この規模の現実改変を隠すのは無理です!」
「物理的な惑星改造じゃなくて魔法とかのファンタジーな改造なのか」
リゼは俺を『フリーキャッスル』の中へ運んでから、『切れ目』と俺を交互に見た。
「艦長にはあそこに何が見えている? 私の目には『艦が通過可能な門』が見えている」
「ほぼ極彩色の宇宙だ。あれがダンジョンなのか? 貴重な物資がドロップする、ダンジョンモンスターがいる」
我ながらわけの分からないことを言っているように聞こえる。
『ミミズ』という、倒せば貴重な物資に変わるダンジョンモンスターを知っていて、リゼのことを信用も信頼もしているから、現実と認識できているだけだ。
「そうだ。擦り傷が治る程度のポーションや、極めて質の低い鉄製ナイフがドロップする階層に繋いでも意味がない。深層に直接繋いだぞ」
リゼは『何を当たり前のことを言っている』という態度だ。
「そ、そうか。まあ、例のポーションとかが手に入るなら全く問題なしだ。ダンジョン攻略……攻略でいいのか? とにかく進めていこう」
「うむ! ダンジョン攻略は私の得意分野だ! 任せておけ!」
リゼは上機嫌すぎて、俺はリゼのこれまでの圧倒的実力と実績を知っているのに、何故か不安になってしまっていた。
☆
数日後。
俺はリゼとは別行動していた。
第一星系に戻って、銀河帝国内の有力者(リゼやギョーショーと比べると格が数段どころか数十段落ちる『有力者』だが数は多い)からの陳情を聞いたりしながら、銀河帝国を維持するために指示を出すという『お仕事』だ。
「ポーターさん。そういう仕事、AIに任せちゃいません?」
「AIに任せるためにも一度自分で経験しておく必要があるんだよ。ギョーショーみたいな機械人間なら機械人間個人に責任を負わせられるだろうが、簡易AIやこっちの銀河のAIは道具だ。責任は人間のものだからな」
俺はしばらく休憩をとることを部下に伝え、超光速通信越しにギョーショーに顔を向ける。
「どっちの銀河のAIも、AIには違いがないと思うのです! 機械人間も分類としてはAIなのです!」
「性能差を考えろよ。っと、姫さんからだ」
リゼから超光速通信で報告書が届いていた。
ダンジョンの中からは超光速通信できないらしいから、ダンジョン攻略が一段落したのだろう。
「例のポーションが三つと、後は安価なインゴットだけ、か」
「寿命延長ポーションが定期的に手に入りそうなのは朗報なのです! でも、予想よりちょっと少ないです?」
「姫さんとランス級十隻を投入して平均で一日一ポーションだもんな。姫さんにもランス級にもダメージはないようだが……」
「リゼさん級の人材を貼り付けて一日一ポーションは大問題なのです!」
騒ぐギョーショーに、俺は同意するしかない。
それからすぐ、休憩時間が終わる前にリゼとの通信が繋がった。
「艦長。報告書が届いていると思うが……」
「最初のダンジョン侵入で戦死者も艦の喪失もなしだ。何より姫さんが無事だ。成功だろ成功」
「艦長、慰めてくれるのは有り難いが、成果が目標の十分の一以下なのだ」
リゼも背中の翼も『しおれて』いる。
「別分野の専門家を巻き込むのはどうだ? ダンジョンはファンタジーの存在かもしれんが、ダンジョンの地形とかモンスターの習性とかなら、別分野の専門家が良い知恵を出してくれるかもしれないぞ」
「僕もいるのです!」
「ギョーショーは能力だけでなく報酬も高いだろ。ダンジョンについては、どうにもならなくなってから頼むつもりだ」
「そんなあ」
俺とギョーショーが話していると、リゼの元気も戻ってくる。
光翼は『そういえばもう戦闘が終わってた』という少し間抜けな雰囲気で、リゼの中に引っ込んだ。
「うむ。孤立無援の、以前のダンジョン時代とは違うのだ。頼りにしてるぞ、艦長、ギョーショー」
「ああ、任しとけ」
「任して欲しいのです!」
俺は早速、銀河帝国内向けの求人を始める。
帝国や帝国艦隊を維持するためには膨大な費用が必要だ。
リゼにはああ言ったが、ダンジョン攻略で膨大な儲けを出さないと、俺の借金額が限界を超えてしまうのは確実だ。
「絶対に攻略してやるからな」
極彩色の何かに見えるダンジョン入り口を、俺は気合いを入れて睨みつけるのだった。




