生身で宇宙空間へ!? 姫騎士、機動兵器を剣一本で解体する
「積み荷を置いていきなぁ! そうすりゃ男のほうの命だけは助けてやるよぉ!」
身長が俺の半分もない宇宙海賊が、ねっとりした口調で最後通牒をつきつけてきた。
何も知らない馬鹿ならチビとか馬鹿にするかもしれないが、人間の平均を上回る活力と頑丈さを持つ奴らを舐める船乗りはいない。
実際に顔を合わせているなら戦いようもあるが、相手がいるのは接近中の海賊船だからな。
「小人族が悪党をしているだと!?」
リゼが衝撃を受けた顔で、銀河社会では完全にアウトな言葉を口にした。
宇宙海賊が、直前まで自分が脅していたことも忘れて、唇が青くなるほど血が引いた顔でリゼを見た。
「倫理がない……」
「賊に言われても心に響かんぞ」
「姫さん、今のはまずいぜ。宇宙海賊が裁判中に証言したら、本来縛り首なのに軽い罰金刑になりかねない」
「うむ……。郷に入りては郷に従うとはいえ、慣れんな。すまんな、そこの賊」
今のリゼは、最初に会ったときと比べても上から目線だ。
宇宙海賊相手に怯えないのは良いことだが、宇宙海賊を必要以上に刺激するのは勘弁して欲しい。
「俺たちは由緒正しい自警団、パッフル団だ! 賊あつかいとはなぁ! 命だけは助けてやるつもりだったが、ヤバイところへ売り払ってやるよ!」
「おい待て!」
俺が呼びかけたのに、通信が賊(自称自警団)側から切断された。
何も映さなくなった画面を見て、俺は舌打ちする。
「畜生、時間を稼げば宇宙港から警察が来たかもしれないのに!」
「彼我の速度差と加速力の差を考えれば、間に合わぬだろう」
リゼは平然としている。
「それよりあの『れーざー砲』で攻撃はしないのか」
俺は、リゼの発音のおかしさに眉を寄せた。
そして気付く。
「姫さん、あんた銀河標準語を話せないのか」
この艦を購入したときにとりつけた自動翻訳機が、何年ぶりか分からない動作ランプを点灯させていた。
「私が話しているのは東大陸共通語だぞ。艦長こそ……なるほど、そういうことか」
リゼは話しながら片耳を手で塞いで、こくりと頷いた。
自動翻訳機で消しきれなかった『別の言語』を聞き取ったのだろう。
この『姫騎士』、ダンジョンとか魔法とかファンタジーじみたことを言うくせに理解力がありすぎる。
いい奴そうではあるんだが、非常に怪しい。
「マジックアイテムの発展は著しいな!」
リゼは心底感心したようだ。
それを所有している俺にも好感をいだいているようだが、今はそれはどうでもいい。
「はいはい。マジックアイテムでいいからその辺の席に座ってろ。クソっ、この距離で撃ってきやがった」
推進器を覆う装甲が熱を持っている。
さすが対艦レーザー砲だ。
結構距離があるのに排熱が追いつかない。
「艦同士の戦いは長距離攻撃の撃ち合いなのか?」
「そりゃ正規軍の戦い方だ。民間や賊の戦いは、移動手段にダメージを与えてから逃げるか乗り込んで艦内戦闘だ」
「小人族……んんっ、あの体格の人間がか?」
「生身の戦いなら姫さんの言う通りなんだがな」
『フリーキャッスル』の加速が鈍化する。
宇宙海賊は十分に接近してから向きと速度を一致させ、そしてレーザーによる攻撃を停止させた。
この距離ならこっちの対デブリレーザーが効くようになるが、装甲の厚みで熱を吸収されてしまい、すぐには効果が出ない。
「来るぞ」
俺が言う前にリゼが断言する。
海賊船から『ずんぐり』した人型が飛び出す。
ドローンじゃない、パイロット乗り込み型の機動兵器だ。
極小の推進器を器用に使い、俺の艦の平たい部分に強引に着地した。
「おい姫さん!」
残像が見えそうな速度で姫さんが駆け出した。
艦内の案内もしていないのにどこに行くつもりだ?
「ちぃっ、ボロい輸送艦なのに固い!」
自称自警団がわめく。
機動兵器が、ヒートソードを使って装甲を焼き切ろうとしている。
甘いぜ。
ボード型輸送艦は頑丈なんだ。
頑丈だから強引な加速も自由自在!
今は金欠で推進剤けちっていて急加速は無理だがな!
「なんだよぉ、入り口あるじゃねぇか!」
機動兵器が急に向きを変えて、艦内へ通じる扉へ向かう。
「馬鹿な。装甲と同じ色を塗ってるのになんで……あっ」
ここ数年塗り替えてなかったから宇宙線で焼けたのか。
まずい。
機動兵器なんてとっくに売り払って運転資金に変えたぞ!
「はっはぁ! 入り口は柔らけぇじゃねぇか、あぁっ!」
ヒートソードが扉を切り刻む。
空気の流出が始まり艦内に警報が鳴り響く。
「おら、突入ぅ!」
「しょせん賊は賊か」
ブーツに包まれた白い足が、見事な動きと形で機動兵器の腹に叩き込まれる。
リゼだ。
硬さも重量も文字通り桁違いに負けているはずのリゼが『どっしり』と安定していて、逆に勝っているはずの機動兵器がよろめいて外へ下がっていく。
「姫さん! 中に戻れ! 酸欠だけじゃない、強い宇宙線で遺伝子まで焼かれるぞ!」
「この声は艦長か。気にするでない。騎士は自己強化と自己防御が得意なのだ」
艦内空気の流出は続いているのに、リゼが発する言葉の音量は変わらない。
「生身で真空ぅ!?」
宇宙海賊(自称自警団)が驚愕し、ヒートソードを構えることも忘れている。
既に自動翻訳機の範囲外に出ているリゼは、困ったように眉を寄せた。
「賊よ。何を言っているか分からんぞ」
リゼの蹴りが機動兵器の腕関節を強打する。
音は聞こえないが腕関節に亀裂が生じたのが見えた。
滑り落ちてきたヒートソードの柄を、リゼが手のひらで掴み取る。
「なかなかの業物だ」
上機嫌に笑ったリゼは、生身の人間には持ち上げることも難しいはずのヒートソードを軽々と振り回す。
一度振れば機動兵器の脚関節が左右どちらも切り飛ばされ、もう一度振れば機動兵器の無事だった方の関節が今度は『切断』される。
血は流れない。
乗り込んでいるパイロットはあの小柄な宇宙海賊であり、手足がそこまで届いていないのだ。
「艦長! 聞こえないのか!」
「面倒な。自動翻訳機を艦内通信と連動させて……姫さん、艦内に戻れ。……いや、マジでどうなってんだその体は」
「ん? 騎士の嗜みだぞ」
「嗜みで物理法則を超えないでくれ。……とにかく、そいつを回収できるならそいつも中に入れてくれ。人質にする」
「分かった。むう、空腹時に魔力を使うときついぞ」
リゼは愚痴を言いながらヒートソードを片手で持ち、もう一方の手で機動兵器の片足を掴んで引きずっていく。
俺の船と並行して飛び続ける海賊船は、味方を巻き込む決断もできずに対艦レーザーを無意味に動かしていた。
☆
「覚えていろぉ!」
中身入り機動兵器は、たっぷりの推進剤と、扉を補修するための資材と引き換えに解放してやった。
「舐めやがってぇ!」
海賊船に合流してすぐに、俺との約束を無視して対艦レーザーをこちらへ向けてくる。
だが推進剤が豊富ならこっちのもんよ!
「クソっ。あたらねぇっ」
レーザー照射警報が鳴ったのは秒にも満たない。
メイン推進器で目的地(宇宙港)へ加速しながらサブ推進器で小刻みに進路を変えて、海賊船にまともな狙いをつけさせない。
「ほう」
冷え切ったヒートソードを手に困惑していたリゼが、俺の操艦を見て驚いた顔になる。
「暴れ馬を見事に御しているな。見直したぞ、艦長」
「そりゃどうも! 賞金首リストに載ってない宇宙海賊を倒しても金にはならないからな」
「猪武者でもないと。いいではないか」
リゼは腕を組んで『うんうん』と頷いている。
評価が上がったか?
生身で機動兵器を倒せる化け物の機嫌を損ねたくはないから、このまま上機嫌でいて欲しい。
唐突に、緊急を意味する着信音が鳴った。
画面に表示させると、それは今日が期限の借金の督促だった。
「……どうした?」
「いや、姫さんを引き渡すわけにもいかないから、賠償金も払わないといけないんだが……」
「ふむ。その数字(借金額)が減ればよいのだな?」
「ああ、喉から手が出るほどな」
「任せておけ。我らが覇道の第一歩、まずは軍資金調達だな!」
「は? おい待て、何をする気だ!」
白と金の美術品のように見えていたリゼの瞳が、今は獲物を見つけた肉食獣じみている。
嫌な予感しかしないまま、俺の艦は宇宙港へと滑り込んだ。




