配送中の石像が、なぜか伝説の姫騎士(美少女)になっていた件
少し昔の、結構近い銀河での話だ。
当時の俺は輸送艦でオーナー船長をしていた。
アホみたいな額の借金返済に追われて、ヤバイものの輸送もしていた。
だが、一番ヤバイのは星間国家で違法とされてるクラッキングツールでもサイボーグパーツでもなかった。
当時は石像にしか見えなかった、姫騎士だ。
俺がヤバイ薬でもやってると思うか?
でも全部事実なんだ。
姫騎士が生身で超光速で飛ぶのも、剣で宇宙の脅威をぶった切るのも、石化状態から蘇るのも、全部な。
俺と姫騎士は妙に気が合って、勢いのまま突っ走って気付いたら俺は銀河帝国皇帝、姫騎士は筆頭騎士になっちまった。
建国があっという間だった割に、防衛戦争やダンジョン戦争や銀河間交易に、当時はクソ忙しくて贅沢を楽しむ余裕はなかったがな。
詳しく知りたいならこの文章データを確認してくれ。
あんたらの言語で言う『おとぎ話』を楽しめるだろうぜ。
☆
目覚めたら、配送中の荷物が喋っていた。
「騎士として名誉ある扱いを要求する!」
「いや、うちはただの配送業者だから」
綺麗にラッピングされた『姫騎士』と、オンボロ輸送艦の艦長である俺の会話だ。
人身売買をしてるんだろうって?
仮眠を取る前は生きている人間じゃなくて精巧な石像だったんだよ!
「そもそもここは何なのだ? ダンジョンにしては明るすぎる。汚さは、いい勝負だが」
「掃除してなくて悪かったな!」
しかし腹が立つくらいに美形だな。
『姫騎士』として三次元でデザインされた石像がそのまま人間になっている感じだ。
石像とすり替わったのか?
ホロムービーで主演をやれそうなこの『姫騎士』と?
仮に生身じゃなくてサイボーグだとしても、短時間雇うだけでもとんでもない金がかかるぞ!
「なんだこの薄い皮は」
『姫騎士』が体を動かそうとする。
生命力に満ちた白い肌と、ふわふわしたピンクの髪が透明な包装で覆われている。
空気を通すタイプなので酸欠にはならない。
「んっ」
特殊性癖の持ち主に突き刺さりそうだな。
俺も少し『癖』を植え付けられてしまった気がする。
肌から目をそらすと、体の線を隠せていない『鎧』が目に入った。
「エロい方のホロムービーかな」
薄いものを引き裂く音が聞こえた。
『じっとり』した視線が俺に向けられた直後、包装の残骸が天井に向かって投げ捨てられる。
ピンクの髪がふわりと舞う。
アスリートにも軍人にも見えないのに圧倒的に速く、それ以上に美しい。
「止まれ!」
レーザーガンを抜き打ちで構える。
相手が美少女でも『姫騎士』でも、所属不明の人間を自由にされるなんてありえない。
俺はこの艦の艦長なんだ。
「マジックアイテムか?」
「あっ」
引き金に指が触れる前に戦いは終わっていた。
『ひょい』と取り上げられてしまったのだ。
手品、なのか?
「魔力は感じないが先程感じた戦意は本物だ」
銃口(レーザー発振用レンズ)を覗き込まないということは、やはりこいつは『姫騎士』の格好をしているだけのスパイかもしれない。
「ふむ。最低でも十年以上は使い込まれているのに素晴らしい工作精度だ。十年前にこれほどのものを作れるとしたらドワーフの名工か?」
「おい! あんた正気で言ってんのか。ドワーフなんて口にしただけで懲役刑の差別発言だぞ!」
「む?」
『姫騎士』がまたたきする。
瞳孔が輝くような金であり、眼球が健康的な白であることに今気付いた。
「奴ら自身がドワーフと自称しているだろう。人間にも亜人にも武器防具を売って大儲けしている奴らが、だぞ」
「亜人!?」
俺の声はもう悲鳴と変わらない。
亜人なんて単語を口にするのは、差別主義を掲げる集団の中でも特別過激な集団だけだ。
この『姫騎士』は、あのテロリストどもの一員なのか?
「ドワーフは奴らの言葉で『素晴らしき技術を持つ高貴な人』という意味だぞ。奴らにとっての人間は『技術を持たない哀れな劣等種族』だ。ドワーフと呼ぶ程度で文句を言われてもな」
『姫騎士』は心底不服そうな表情になる。
そして、レーザーガンの引き金に触れないまま、俺にレーザーガンを渡してきた。
セキュリティが発動して気絶レベルの電撃が流れたはずなのに『姫騎士』は何の反応もない。
「言いたいことは山のようにあるが、おぬしは私に殺意を向けなかった。ドワ……異種族に飼われている人間にしては健康だし気合いもある」
「俺は褒められているのか?」
「騎士でも戦士でもない相手には最上級の評価のつもりだぞ」
『姫騎士』は胸を張る。
さらりと揺れたピンク髪が頬に触れかけ、『姫騎士』は自然な動作で髪を払う。
微かに漂うかおりが、長期航行中で女を見る機会すらなかった俺を動揺させた。
「ではな」
だから、『姫騎士』が颯爽と歩き去るのをぼうっと見送ってしまった。
「やべっ」
そっちは『外』への出口だ!
そろそろ宇宙港だからセキュリティレベルを下げていて、適当にキーを叩くだけで運が悪ければ『外』へ通じる扉が開いちまうぞ!
「にゃーっ!?」
悲鳴が聞こえた。
俺は火事場の馬鹿力じみた勢いで走り出し、途中の壁に引っ掛けていた酸素ボンベとマスクを二人分手に取り『姫騎士』を追う。
「な、ななな、なんだあれはっ!」
幸いなことに『扉』は開かれていなかった。
光を透過するように設定された特殊装甲兼外壁ごしに、俺の艦が見えている。
「ボード型輸送艦『フリーキャッスル』。俺の艦だ」
居住区画と推進装置が一体化した板状の本体に、各種のコンテナや対デブリ兵器を取り付けた俺の『城』だ。
「地面が空に浮かんでいるぞ!」
『姫騎士』が空の一点を指差す。
「この距離で惑星が見えるのか?」
「それにこの建物……輸送艦だと?」
「おう。俺の艦だぜ」
俺の声に自負が滲む。
多額の借金を背負っているとはいえ、俺が所有している、俺の艦だ!
扉の横のコンソールを使ってセキュリティレベルを元へ戻してから、遠隔操作で視界内の兵器を動かす。
対デブリにしか使えないレーザー砲塔がレーザーを放って、周辺にうっすら広がる『もや』を青色に光らせた。
「俺はポーター・ジャバウォック。ポーターでいい」
決まった。
ホロムービーのワンシーンのようだと内心上機嫌の俺の目の前で、『エネルギー切れまで後少し』という無慈悲な警告が表示される。
「騎士のリゼだ。おぬしのことはどう呼べば良い。城主どのが妥当だと思うが」
「艦長でいい。短い間だと思うが仲良くしようぜ、姫さん」
「では艦長。あれは友軍か?」
リゼが先ほどとは別方向を指さしている。
俺は、艦のセンサーをその方向に集中させる。
画面に映ったのは、俺の『フリーキャッスル』より小型だが、対艦レーザー砲と略奪品を曳航するためのトラクタービームを装備した、『宇宙海賊』の船だ。
「敵だな? 承知した」
「おい待て、あれは逃げるしか……」
次の瞬間、リゼの姿が消えた。
『扉』が強引に開かれる警報音。
艦の外を映す画面に映った姫騎士。
そして――閃光。
宇宙海賊の船が、真っ二つになっていた。
「……は?」
センサーが、意味不明な数値を吐き出している。
人間サイズの物体が、対艦レーザー級の数十倍の破壊力を叩き出した、としか読めない。
俺は、ゆっくりと現実を理解する。
これって絶対に関わっちゃいけないタイプのやつだ。
そして同時に、俺の人生が劇的に変わってしまったことも、理解してしまった。




