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四十二、ルカからアラン様に思慕のキス


 

「すまんな、ルカ。まさかあそこで偶然、出会うなんて想定外だった」

 アラン様は、すまなさそうに僕に謝ってくれた。


「いえ……。親しい方なのですか?」

話し方も違っていて、親しげだった。

 でも獣人さんだったけど、いつ知り合ったのだろう。

「ああ……。以前ちょっと、な」

 僕の知らないアラン様はたくさんある。仕方がないことだけど、寂しい。


「ここではなく、違う場所に行こう」

「はい」

 ドーム状の植物園を出て二人、黙って歩いていた。僕はさっき会った獣人さんが気になっていて、アラン様は何か考えていた。


「アラン様。僕はどんな場所でも一緒に居られれば、それで嬉しいですから。その……」

 言いたいことがある。言っていいかな?

「なんだ? ルカ」

 立ち止まって、僕の言葉を待っている。


「さっき会った獣人さんに、嫉妬してしまいました」

 アラン様を見上げてジッと見る。トラの獣人さんはアラン様に会いたかったと、言っていた。親しげに握手とかしていたし、獣人さんは抱きつきたい感じだった。


「……嫉妬? 誰に? アイツへ?」

 アラン様は信じられないような顔をした。

「わからないが、嫉妬するまでもない。俺は、ルカだけだ。信じて欲しい」


 ギュッと手を握られた。温かくて大きな手だ。

「すみません! 恥ずかしい、嫉妬なんて……。アラン様を信じます」

 こんな感情は初めてだ。


「あそこ! あそこで、お昼ご飯にしましょう!」

僕は恥ずかしさを、アラン様の手を引いて忘れようとした。


  地面に厚めの布を敷いて、その上に座った。周りはたくさんの花が咲いていた。

 ネネさんが持たせてくれたピクニックバスケットを開けてみると、中に美味しそうなサンドウィッチやサラダなどが入っていた。


 お手拭きで手を拭いて、お皿等を並べた。

「あ! アラン様のネコのクッキーが入っている」

 僕は一番初めに、アラン様の作ったクッキーを手に取った。

「食べてもいいですか?」

 このクッキー大好き。


「サンドウィッチから食べようか、ルカ」

「えっ」

 クッキーの端と端を両手の指で持って、シュン……となった。


「ああ、いや。好きに食べようか。どうぞ」

アラン様が許してくれた。さっそく食べる。

「ありがとう、アラン様。いただきます!」

 パクっと一口かじる。


「美味しいです、アラン様」

「そうか。よかった。他のも食べようか」

 はい、と返事をしてクッキーを食べた。


 パクパクとクッキーを食べて、アラン様と景色を眺める。

 花がたくさん咲いていて、アラン様が僕を見ている。

「……孤児院に置いて行かれたとき、しばらくご飯が食べられなかったんです」

 僕が話すと驚いた顔をした。


「色々重なって、悲しいを通り越して何も感じられなくて」

「……」

 調査書を見て、僕の経緯(いきさつ)を知っているだろう。

「そんなときに、ある人が孤児院に差し入れをしてくれたのです」


 僕はアラン様の作った、ネコの顔の形のクッキーを掲げた。


「騎士アラン•バレンシア様からのお菓子の差し入れ」


 青空と花畑とアラン様とネコの顔のクッキー。

一見何も関係なさそうな、この僕が見ている景色を写し取ることが出来たら良いのに。


「きっと色々な孤児院に差し入れをしてくれたと思いますが、僕はそのアラン様が差し入れしてくれたネコの顔のクッキーで救われたのです」

 アラン様は驚いた顔のまま、僕の話を聞いている。


 風が気持ち良い……。

「少しですが、食事を摂れるようになれました。それに白黒だった暗い世界が、また鮮やかに見ることができました」

 僕はこの人に感謝している。感謝……という言葉では言い表せられない。


「ありがとう御座います。アラン様」

僕は幸せだ。

「ルカ」

 僕を引き寄せて、抱きしめてくれた。


 キュッと大きな腕で包んでくれる。

「僕はもう、小さな子供ではないです。アラン様と、たくさんの人に支えられて生きてきました」

 アラン様は僕の肩に顔を(うず)めている。


「だから今度は、僕がアラン様を幸せにしたいです」 

アラン様の背中に、腕をまわして僕も抱きしめた。


「ルカ、君は……」

「はい? なんでしょう、アラン様」

 肩に顔を埋めたまま、僕に話しかけた。

 

「思ってたより大人で、そしてかっこいいな」


「えっ? 僕がかっこいいなんて、言われたのは初めてかも。嬉しい」

 そっと、いつもと反対に僕がアラン様の頭を撫でた。そしてまた逆に、僕からアラン様の髪の毛にキスをした。

しばらくアラン様は僕の肩に顔を埋めていた。


 

 それからお昼ご飯を食べた。

ローストビーフとレタス、炒めた玉ねぎを挟んだパンや卵のサンドウィッチ。焼いたベーコンを細切れにして入れたポテトサラダは美味しい。

 果物はカットして、一口サイズで串に刺してあって食べやすかった。


 アラン様はコーヒーを飲んで、僕はアップルティー。みんな美味しかった。残さず美味しくいただいた。


「風が出てきたな」

食べ終わり、片付けをしていた。だんだん曇ってきて風が吹いてきた。


「雨が降らないといいですね」

ピクニックバスケットにお皿等を片づけながら話しかける。

「嵐の前だろうか」


 アラン様は地面に敷いていた布の端を持ち、フワリと宙に広げてから素早く畳んだ。凄い。

「アラン様は器用に、なんでも出来て羨ましいです」

お菓子を作るのも上手だし。


「あ!」

そうだ。あのことを話してみようかな?

「何か、あるのか?」

片付けの手をいったんとめて、話しをしてみる。 


「僕の家の修理の話ですが、思い切って大きくしようかなと思いまして……!」

 

 アラン様の動きがとまって、僕を見ていた。 



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