四十三、休日の二人
「やはり……。出ていってしまうのだな」
バサッ……と、布についた葉っぱを振り払った。
え? いつまでもお世話になるのは駄目だし、お店をもっと広くして、僕のこの加護の力をみんなの役にたてたい。
そのためには頑張らないといけない。
「雨が降りそうだ。帰ろう」
「そうですね。……雨雲が近づいてきてます」
さっきまで晴れていたのに、雨雲が近づいていた。せっかくのお出かけだけど、雨に降られる前へ帰った方が良さそうだ。
風も強くなってきて気温も下がってきた。
「ちょっと予定変更がありましたけれど、楽しかったです。アラン様」
一緒にお出かけできたし。
「そうか。それなら良かった」
馬車に乗り、お屋敷に向かった。少し肌寒くて腕をさすっていた。
「ルカ、寒いのか?」
そう言って真向いに座っていたアラン様が、立ち上がって僕の隣に座った。
馬車の中に置いてあったひざ掛けを、僕の肩にかけてくれた。そして後ろに腕をまわして、アラン様の方に抱き寄せた。
アラン様がとても近い。嬉しい。
「暖かいです。とても」
僕はアラン様に寄りかかって目をつぶった。
「眠るといい」
うとうと、と眠気が。
「でも、起きられないかも……」
まぶたが重い……。
「起きなかったなら、運んでやるから大丈夫だ」
安心感……。こんな甘えられる人はいない。僕は返事が出来ないまま、まどろむ。
あれ……? アラン様の作ったお菓子を、僕のお店に置くという話。できなかったな……。早く言いたいな。
でも断られたら、どうしよう?
メイドのアリーさんからも、アラン様のお菓子を必要としている人がいるという事を、話してもらうのもいいな。
できたらきっと楽しいだろうな。怖がられているアラン様のイメージが変わるかもしれないし。……変えたいな。
僕はアラン様の香りに包まれながら眠ってしまった。
ふ……、とまぶたを開けると周りが真っ黒だった。
僕はぐっすりと眠ってしまったらしくて、夜になっていた。知らぬ間にベッドで寝ていた。運んでもらってしまったらしい。
「今日は、アラン様のお休みなのに……」
急いでベッドから起きて部屋を飛び出した。
パタパタと行儀が悪いけれど、走ってアラン様が居るだろう応接間に行く。
「アラン様! すみません!」
バタンと扉を開けて部屋の中を見ると、アラン様がソファに座ってくつろいでいた。
「ルカ。ゆっくり休めたか?」
こちらを向いて優しく話しかけてくれた。
「ぐっすり寝てしまって……。せっかくのお休みなのに、ごめんなさい」
扉の所でアラン様に謝った。ぐっすり寝ちゃうなんて。
「いや、休めたならそれでいい。こちらに」
手招きしてポンポンとアラン様の隣を示した。僕はアラン様に呼ばれるまま、隣に座った。
ふわっとおでこにアラン様の手のひらが。
「熱は無いようだな」
「はい……」
不意打ちで……! ドキドキしてしまう。
「温かい飲み物を飲むと良い」
メイドさんが、温かいホットミルクを持ってきてくれた。
「ありがとう御座います」
マグカップに入ったホットミルクは、温かくて少し甘くて美味しかった。
「前髪が跳ねてる」
寝ていたから前髪にくせがついてしまったらしい。アラン様が手で直してくれた。
「あ、ありがとう御座います」
なんだか照れてしまう。
隣にアラン様がいて、ホットミルクを飲んで安心している自分がいる。
居心地が良いな……。
「体調が良かったら、明日はキャンプをしないか?」
え? キャンプ?
「キャンプといっても、しっかりとした作りのコテージで宿泊のキャンプだが……」
「体調は大丈夫ですけど、遠いのでしょうか?」
またそっと、ひざ掛けを肩にかけてくれた。
「遠くはない。バレンシア家の領地にある、湖畔のコテージだ」
「コテージですか?」
アラン様は頷いた。
「食料を持ち込んで俺が調理する。外で作って食べられるぞ」
外でご飯が食べられる? 楽しそうだ。
「楽しそうですね! やったことがないので、行ってやってみたいです」
「決まりだな。明日は早く出発しよう」
早朝、僕とアラン様はバレンシア家の領地にある湖畔のコテージに出かけた。
「……実は明日から、隣国へ行くことになった」
「隣国へ?」
馬車の中。僕はまだ眠気が覚めてないのに、アラン様はいつもの早朝鍛錬を終えて、元気にキャンプの荷物を積んでいた。
「昨日。ルカが休んでいるときに知らせがきて、急に決まってしまった」
今日は少し冷えるので、アラン様と僕はコートを着ていた。似合っていてかっこいい。
「だから今日。ルカと、楽しみたいと思って」
「……はい。楽しみましょう」
明日から隣国へ行ってしまうのは寂しいけれど、アラン様とキャンプを楽しみたい。
しばらく馬車を走らせて、湖畔の側に建つコテージが見えてきた。
「素敵ですね」
「子供の頃から、たまに来ている場所なんだ」
アラン様が子供の頃から来ている場所に、連れてきてもらって嬉しい。
僕も自然の多い所が好きだけど、アラン様も好きなのかな?
丸太で作られたコテージ。思ってたよりも広い。
「さあ、入ろう」
両手にいっぱい荷物を持っているアラン様。僕も手伝って荷物をコテージの中に運んだ。
暖炉があったり、湖を眺められる大きな窓が素敵だ。
「窓を開けていいですか?」
「どうぞ」
僕の足元から頭上まである窓を開けると、テラスになっていた。
「湖を一望できますね、アラン様」
「そうだな、ルカ」
テラスに出て、手すりに手をかけて湖を見ていた。アラン様が僕を包むように、手すりに両手を僕の左右に置いた。
「寒くないか?」
「大丈夫、です」
顔のすぐ側で、アラン様の声が聞こえた。




