番外編 アラン様の願い 〜アラン視点〜
〜アラン様視点〜
■お屋敷で、ルカの髪の毛の手入れをしているアラン様視点です■
…………………………
「だんだん毛艶が良くなってきたな。ルカ」
夜、ルカがお風呂に入ったあと。
ルカの髪の毛に、いい香りのするオイルを使って髪の毛を丁寧に手入れしていた。
「ありがとう御座います」
遠慮がちにお礼を言うルカ。そんなに遠慮しなくていいのに、と思う。
まだルカは俺に対して遠慮、というか壁がある。
恋愛をしたことがないのか、知らないのか。
もっと甘えて欲しいと思うことがある。
かと言って、俺が下手に近寄ると逃げてしまいそうで……。まるで猫のようで、躊躇してしまう。
「綺麗な金髪だったのだな。前髪は短くなってしまったが、後ろの長い髪の毛はこのままなのか?」
しっぽのようにひと結びになっている、ルカの後ろの髪の毛。
「長い方が、何かと都合がいいので……。このまま伸ばします」
何かと都合がいい……? ――戦士が首を切られないため、後ろの髪の毛を伸ばして首に巻くと聞いたことがあるが、まさかルカは……。
「加護をつけるときに、自分の髪の毛を一本切って使う時があるので長い方がいいんです」
「……」
そうだよな。ルカは戦士ではないからな。
手のひらにルカの長い髪の毛を乗せると、柔らかい感触が気持ちいい。
オイルを少量つけて浸透させるように染み込ませてしていくと、香りが広がっていい匂いだ。
ルカもこの香りを気に入ってくれているようで、リラックスしているように見える。
髪を梳かしていくと艶が出る。
俺が手入れして、綺麗な髪になっていくのは嬉しい。
しばらく髪の毛の手入れをしていると、気持ちが良いのかルカの獣人の耳が出てくる。
本人は無意識みたいだけど、気を許してくれているみたいで俺はこの時間が好きだ。
……ただ。このルカの耳を触ってみたいのだが、無自覚らしいし、黙っているしかないのがツライ。
ピクピク動く耳が、可愛い。
鏡越しに見えるルカは目をつぶって、口元がにっこりと口角が上がっていて機嫌がいいところも、いい。
手を出したいが、我慢だ。本人に許可を取らなければ耳を触ってはいけない。……正直に言うとツライ。
「アラン様?」
ハッ! と気がついて、髪の毛の手入れを続ける。
「痛くないか?」
ルカに聞いてみると、こちらを振り向いて微笑んだ。
「とても気持ちがいいです」
気がつくとルカを抱きしめていた。
優しく、包むように気をつけて。
俺が本気を出して抱きしめると、ケガどころじゃないからな。優しく、そっと……。
「アラン様、好きです」
前より言葉で伝えてくれることが多くなった。
けれど、その気持ちはどんな気持ちなのだろう。
ふと不安になる。
昔、助けてくれた憧れの騎士への思いなのか。それとも、父君へ向ける親愛みたいな……? いや、それはキツイ。
ニールにも言われた。
『なぜそんなに臆病になっているのですか?』
一応、この年なのでそれなりに経験はある。色々な意味で。結婚相手は難しかったが……。
ルカ、だから。急ぎはしない。
怖がらせないし、無理はしない。
そっと、髪の毛にキスを贈る。
意味は『思慕』
次に首にキスをする。
「ん」
ルカの声が漏れる。
同じ石けんの香りのはずなのに、少し違う香り。
すりすり……とルカが頭を擦り寄せる。甘えているのか? そうだと嬉しい。
もう一度、髪の毛にキスをする。逃げるどころか体を近づけてくる。
ルカの耳が、俺の顔の近くに。ピクピクと動く耳を黙ってみていた。
――今日はここまで。
「ルカ、お休み」
片付けてルカの部屋から出ていく。あまり長居をしないようにする。
「お休みなさい……」
部屋を去るときの、ルカの寂しそうな声と表情を見ると少しは好かれているのかと、安心するのはおかしいのだろうか。
好き……というより愛しい。
彼の人柄や考え方、容姿もそうだが好ましい。
前髪が短くなって、綺麗な緑色の瞳が見えるようになった。
その方がいいのだが、皆にルカを見せたくない。
きっと求婚者が増えるだろう。
「……」
ルカに求婚してきた奴らを、無傷で対応するのは難しい。
またニールに笑いを我慢させるのは避けたい。肩が震えるほど笑われるのは屈辱だ。
戦場とまったく違う俺を見て、ホッとしたというニール。
敵に囲まれていたアイツを手助けしたら、命の恩人と言い慕ってくれたのはいいが、ルカ関係で心配し過ぎだ。
それにルカは子供の頃、悲惨な出来事があったのに立ち直って頑張ってきた。
うんと甘やかしてやりたい。
コックに頼んでバランスの良くて栄養の高い食事を摂り、やっと手首や顔周りがふっくらしてきたので良かった。
顔色も良くなって、肌艶や髪の艶も輝いてきた。
頬もほんのり赤みがさして健康的になった。
「アラン様」
声は高くなく、低くもなく聞いていて落ち着く声だ。
「アラン様、どうかなさいましたか?」
「え! あっ」
どうやらルカの部屋を出てから数歩の所で、立ち止まって考えごとをしてしまったようだ。
「いや、なんでもない」
動揺を顔に出さず、返事をする。
「お仕事、大変ですね。無理はしないで下さいね」
にっこりとルカは俺に笑顔を返した。
このまま、一緒に朝まで話をしたい……。
だが、我慢をする。
「ありがとうルカ。お休み」
――できればずっとルカと一緒にいたい。
そんなことを思いながら眠りについた。




