一日目 不幸だけど幸せ?
「ちび助の言いたい事はよく解った」
俺が自分の人生の終焉が近いと解って一夜明けた。寝る前まで色々と説明などを受けたのだが、くだらない説明が多かった。
昨日現れた中学生の女の子、チーナクル・メイリ・ビスケは人間とは違う生命体のようで、宙に浮いたり、姿を消したり出来るらしい。チーナクル……長いので省略し俺はちび助と愛嬌をたっぷり込めて呼んでやっているが、ちび助はその名前には不満があるようだ。
「ちび助ゆーなです! 私の名前は……」
「長いから省略。全く、そんな長い名前だと二十数回指を動かさなくなる可愛そうな人がいや神が居るから、そいつのためにもちび助で納得しておけっつーの」
「だーかーらー、私がその神に近い存在なんですってー!」
自称『ネ申』であるらしいちび助の仕事は、預言書の予定から遅れ始めた運命を元の時間に戻す事だそうだ。例えば、急に懸賞に葉書を出さなければという衝動に駆られたりするのはこいつらがそういう事をさせるように仕向けているとの事。基本こいつ等は人の運命とやらには干渉はあまりしないらしいが、著しく運命を変えてしまうような事をしそうになった時に初めて手を下すらしい。胡散臭ぇー。
「でだ、ちび助。なんでお前が俺と行動を一緒にする? 別に俺が死ぬ十二日が近くなったら、姿を現せばいいものを。もしかしてお前らって相当暇してるのか?」
『暇って言うわけじゃありませんよ! 他にも色々仕事がありましてね……というか、誰かが監視をしていないと貴方はどんな行動を起こすか解らないじゃないじゃないですか!』
人通りの無い通学路を歩いているのだが、ちび助はステルスモードとかいう俺にしか姿が見えない様になっているらしいが、もしそうなっているのであれば、俺は独り言を白昼堂々行なう危ない奴ではないだろうか? こんな俺の姿を幼稚園児が見れば指を指し、親が『見ちゃいけません!』と言うのだろうか。残り少ない人生に汚点を増やさせるなよ?
「大丈夫だって、誰も逃げやしないって」
『そういう意味でも監視をする必要はありますが、残り一週間の命だ、やりたい放題やっちまえ! といきなり刃物持ち出して街中で暴れられても困りますから……』
誰がんなことするかっつーの。
俺はポケットから預言書のコピーを出して、今日一日の出来事に目を通してみる。
二月五日。
八時二十三分、校舎の階段でこけかける。ちび助に笑われる。更に周囲から笑われる。
八時二十五分、廊下で注目を集める。
十二時十九分、相澤由紀とご飯を食べる。
十八時、いつものようにアルバイトにいそしむ。
二十二時十五分、バイト先でゆっくりし過ぎて雨に打たれながら帰る。
二十二時五十分、ニュースを見る。
とまぁ、些細な事ばかりで、あまり人生最後の一週間の一日とは思えない。まぁ、こんなもんだろうな。
「というか、ちび助。お前は学校に付いてくる気だろうが、俺は授業中とかはお前の相手をしている暇なんて無いぞ、もう少しで期末試験だから、此処でいい点を取っておかなければ留年の可能性すら出てくるからな」
「今更何を……」
ちび助の言いたい事は解るけれど、どうせ死ぬからって、全て手を抜いてしまったら俺の十七年の人生には、悔いばかりが残りそうだ。有終の美と言う言葉があるが、まさにそれ。最後に自分は超頑張ったって思えたら、それだけで十分かもしれない。死ぬ事に何も思わないわけじゃない。寧ろ死にたくないし、もっと生きたい。でも、死ぬって決まってしまったからには開き直って一生懸命生きるしかない。死ぬまで。
「遅刻しそうだ、ちょっと走るぞ、置いていっても文句を言うなよ?」
そう言い残すと俺は学校までの距離を一気に走りぬける。
校門を通り抜けて時計台の時計で時刻を確認すると八時二十分ぐらい。遅刻しそうだと思ったが、走ったおかげか、全然余裕で学校に到着する。
自分の下足ロッカーから学校指定のスリッパを取り出し、それに履き替えてぺたぺたと階段を上る。
『そういえば、相澤由紀って人だけかなり鮮明に書かれてあるけど、もしかしてストーカーですか?』
「ぶほッ!?」
ちび助の余計な一言で俺は階段から足を滑らせ、思わずこけかける。何とか踏みとどまったが、俺以外の人間では階段の下まで転がり落ちていただろう。
『思いっきり動揺してますねー』
ケラケラと笑いながらちび助は俺を指差して笑う。急いで周囲を見渡すと、一年生の女の子だろうか、俺の無様な掛け声がそんなにおかしかったのか、顔を背けて肩を震わせている。
『あ、預言書に書いてあったとおりですね、如月さん』
ふざけるな、これはお前が居なかったら起こらなかった事態だろうが、この野郎。
能天気に俺の横をスキップするちび助が妙に憎らしく思えてきて、ちび助の尻を思いっきり叩く。乾いた音が周囲に鳴り響く。
「きゃうんッ!?」
前を歩く生徒が一斉にこちらを振り向く。俺は何が何だかわからず、周囲をきょろきょろと見渡してみるが、前の集団が振り向くような事など一向に起こっていない。しばらくして、前の集団が頭を掻きながら、何か話しながらまた歩き出す。
「一体何があったんだ?」
ちび助を見ると、周囲を見渡し、窓ガラスを見てため息をついた。
『あ、危なかったです、思わずステルスモードが声だけ外れてしまいました……あ、これも預言書どおり! 如月頼斗、注目を集める』
なんだ、その安っぽいステルスシステムは、というツッコミよりも、またしてもこいつの所為で起こらなくては良いはずの事が起ってしまった。上機嫌で跳ねるちび助が妙にムカついたが、此処でまた何かすればいらん事件を起こしそうで自重しよう。
気を取り直し、俺は教室の扉を潜りクラスメイトと朝の挨拶をする。あと六回しか出来ないと思うと胸が締め付けられる。そんな俺のセンチな気持ちを汲んでくれたのか、クラスメイトが俺の首に腕を回し、いつもの様に騒ぐ。
「で、結局あの後ガラスどうなったん?」
「あぁ? 結局俺一人で修理代払ったし! つかお前らも共犯だろーが!?」
「わりーわりー、今度ジュース奢るわ」
そんないつもの会話が妙に俺を元気付けてくれる。こいつらとつるんでいると、俺はもうすぐ死ぬって事すら忘れてしまいそうだ。
三時限目の授業が始まる。教科は社会科目。担当教師は黒板の前がテリトリーのようで、うろうろ移動しない事でわりかし有名だ。この授業はありがたい。他の教科の宿題とかも出来るからな。
「…と、ここで……」
ヤバイ、眠い。そういえばこの社会教師の言霊には催眠音波が含まれているんだった。いかんな、此処で眠ってしまっては……。
そういえばちび助は何をしているんだろうか?
気になって教室内を見渡すと、掲示物を一生懸命読んでいる姿が見える。何がそんなに面白いんだか。
俺は教師の目を盗んで、要らないプリントを丸めてちび助に投げつける。
「あた」
少し騒がしかった教室に妙な声が響き、クラスメイトが誰の声? などと話す。ちび助……お前のステルスモードは油断している時に何かあると、その効果を失うのか……。
クラスメイトにばれないように手招きして、ちび助を呼びつける。
『どうしたんですか、如月さん?』
ノートにペンで今自分が暇である旨を書き記す。
『テスト近くて真面目に勉強するって言う誓いは何処いったんですか?』
まぁ、あれだ。授業中真面目に勉強するのは俺らしく無いからな、やっぱ最後の最後まで自分らしく生きてゆくべきだろう。
そういうこともあって、残りの授業時間は○×や五目並べなどをちび助に教えて遊び倒したのであった。
つーか、ちび助超弱ぇ。
色々あったが、やっと今日のお勤めも折り返し。たまには一人で飯を食いたい気分だってある。俺は購買部でパンなどを買って、屋上で一人寂しく食べる事に。
こんな寒い時期に屋上で飯を食う奴なんて居るわけもなく、他人に気にする事無く飯が食べられる。四方をフェンスで囲まれたありきたりな屋上。学校は他の建物より高く、眺めがいいので、密かに気にってるスポットの一つだ。だが、こんなクソ寒い時期に屋上を選んだ理由がある。
『こんな所でご飯食べるって行儀悪いですよ?』
答えは至極簡単。こいつが居るから。そういえば訂正をしなければ。なんか変なのが傍に居るから一人じゃないな。
パンを食べようとすると、ちび助がチラチラとこっちを見ている。
視線の先にはパンがあり、俺がパンを動かすと、視線を動く。なんつーわかりやすい奴だ。
「お前も食うか?」
一つパンを放り投げると、表情を輝かせてパンをキャッチ。この様子ならフリスビーを投げると喜び勇んで走ってゆく犬と変んねー。
ちび助はパンの包みを開けるとお預けをくらっていた犬のように、待ってましたと言わんばかりにかぶりつく。
ちまちまと減っていくパン。俺はこいつの姿が見えるから別にいいとして、こいつが見えない人はこの光景を見たら何て思うだろう?空間に消えてゆくパン。あきらかにトラウマものの映像だな。
「おい、ちび助、ばれないうちに食い終われよ……」
『ふぁーい』
ふと、屋上の入り口に目をやると、手に小さな弁当箱を持って、可愛らしい目を大きく開け、二度瞬きをする相澤由紀。
やべぇ、見られた!?
「あ、相澤さん……どうしたのかな、こんな寒い時期に屋上なんて」
「き、如月君? その……後ろ……パンが……」
恐る恐る指を指す相澤さん。やべぇ、早く何とかしろ、ちび助!!
「どうしたの一体?」
何も知らないという芝居をしながら、ちび助の方を向くと、口いっぱいパンを詰め込んだ可愛そうな姿のちび助が居た。
「ぶっ!?」
笑うなという方が無茶な顔をしたちび助に吹いてしまう。
「何にも無いけど?」
「お、おかしいなぁ、今パンが空に食べられてたんだけど……」
「そんなことあるわけ無いじゃないか、あっはっは……」
馬鹿ちび助! お前は何のためにステルスモードになってるんだよ! 早速今日だけで三回は存在ばれそうになりやがって!
いまだに疑問を浮かべる相澤さんを無理に目の錯覚だと納得させ、そのままご飯を一緒に食べる事に。何を話したのかなんて覚えてないほど俺は緊張し、残りのパンの味なんて全くわかんないものだった。
昼を過ぎてからの学校は早い。気が付けばもう放課後で、俺はバイト先へと急いで向かう。
俺のバイト先はホームセンターの裏方。商品をダンボールから出したりするだけのゆるい仕事。ゆるいといっても、結構身体には来る仕事なんだが。俺の持ち場には俺だけしかおらず、好奇心の塊のような目で俺の仕事をする姿を眺めていたちび助にも手伝ってもらった。
そのおかげか、早めに仕事が終わり、着替えて家に帰ることに。
「そういえば雨に打たれるって予言を外れちまってもいいのか?」
『んー、あまりいいとはいえないですけど、天候の予言はあまりあたらないんですよ。天気予報でも機械の計算で叩き出した降水確率でも外れたりするでしょう?』
まぁ、確かにそうだな。まぁ、俺自身濡れないで済むならそれに越したことはないし。
二十二時半ぐらいに家に帰りつく。予言では確かに雨が降るって事になっていたんだが、雨が降っていない。不審に思ってコピーを見てみると……。
二十一時五十分、仕事が早く終わる。
と書き直されていた。というか、コピーしたものまで書き直されるとは、どんだけなんだよ、この預言書の力は。
着替え終わり、自室でテレビを見る。これで今日の預言書の内容は全て終わる。俺が死ぬまで後六日になるんだ。
『本日、○県×市の交差点で車が人を轢くという事件が発生……轢かれた……は病院に運ばれましたがまもなく……』
ニュースでは今日あった事件などを放送している。
「なぁ、ちび助。こいつはさ、今日死ぬ運命だったのだろうか?」
『残念ですか、亡くなったとあればそうなんでしょう』
横で同じようにテレビを眺めていたちび助が答える。
「……こいつ、悔いなく生きていけたかな? やりたい事とか全部やりきれたかな?」
『人は何時死ぬと言う事は解らないのでそれは……』
「俺は幸せなのかもな。本当に幸せなのは寿命で死ぬ事だろうけど、少なくとも俺は自分の死ぬ日がわかってる。それまでに色々と覚悟とか、遣り残した事出来るよな……」
『如月さん……』
とりあえず二話目投稿ー。
まだまだ色々と稚拙な点とかありますが、ひたすら書いていくしかありませんね。
お付き合いただき、ありがとうございます!
次話にご期待を!




