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俺はあと一週間の命!?

 冬独特の匂いが町中に充満し、防寒具を身に纏った人々が行き交う駅の前で俺は、白い息を吐きながら、口の大きく開いたゴミ箱に空になった缶コーヒーを投げつける。

「ふざっけんじゃねぇっての! あのクソ北、バイトの無い平和な一日を台無しにしやがって!」

 投げた空き缶はゴミ箱の淵に当たり、俺の足元に戻ってくる。

 綺麗に空き缶がゴミ箱に入りさえすれば、少しぐらいは気分が晴れたものの、虚しい音を立てながら俺の元に返って来る空き缶を見ているとまた機嫌が悪くなる。

 今日一日は結構いい日だった。テレビの占いでは三位という上々な結果。授業中返って来た小テストは予想以上の好成績。昼飯は食堂人気のメニューが食べられた。五時限目の休み時間は密かに恋心を抱いている相澤由紀あいざわゆきと話す事も出来たし。面倒臭いバイトも今日は休みだし。

 でも、掃除の時間にその日のいい事を帳消しにするような出来事が起こった。

 仲間らと箒を使って野球をしていたのだが、俺の打った三塁打は、見事に窓ガラスに直撃。新聞紙を丸めてガムテープで形を整えた簡易野球ボールに其処まで破壊力は無いって思っていたんだが、俺たちの予想以上の力を持っていたようだ。

 勿論、その直後に掃除場所担当の教師、北に職員室まで連行され、俺一人放課後一時間以上絞られ、きっちり窓ガラス修理代五千六百円を摂取されてしまった。他に野球をしていた奴らと割り勘ならまだマシだろうが、何故か修理代は窓ガラスを割った俺一人に要求された。 確かに俺はバイトをやっていて、給料日はつい先日だったわけだが、俺は窓ガラスの修理代を払うためにバイトをしているのではない。欲しいものや遊びに使うためにバイトをしているのだ。

 自給七百円のバイトで五千六百円を作り出すには八時間もあの面倒臭いバイトをやらなければならない。実際にはもう俺の財布から修理代は出してしまってるわけだから、俺の先月の二日間がこんなにも馬鹿らしいことで無駄になってしまった訳だ。

 ガラスを割った注意そのものは十数分で終わったのだが、その後の一時間近くは成績や授業態度のことで散々と嫌味を言われた。もう少しで三年生になるのだから自覚を持って行動しろとか。そんなの誰一人、高校二年生や三年生の自覚を持って日々生活している奴なんて居やしねぇっつうのに。

 怒られ終わって教室に戻ってみれば、一緒に野球をしていた奴らはもう帰った後。代表して修理代をは払われされた俺としては、他の奴らに一言文句を言えれば、この事はチャラにしても良かったのだが、奴らは連行されていた俺を待っていたという事は無く、終業のチャイムと共に外に駆け出したんだろう。

 沸々と怒りを胸に電車に乗り込んで自分の街まで戻ってくるまでに電車の中で四回も足を踏まれる。帰宅時間に電車の中が込み合い、足を踏まれるという事は慣れっこなのだが、今日だけは笑って許せそうに無かった。

 心を落ち着けるため、自動販売機でカフェオレを購入したらブラックコーヒーが出てくる始末。

 こういった時、必ず思ってしまうのが、もし、今後の人生が全て書かれている預言書があればどんなに楽かと言う事。

 そんな便利なものがあったら、俺は今日掃除時間に野球なんてしなかったし、カフェオレじゃなくって、ブレンドコーヒーを買っていた。まー今更そんな事思い浮かべたってしょうがないよな。怪我した時だってそんな事思うわけだし、これが『後悔』って事なんだろうな。

 夏の時期とは日落ちの時間が違い、それに伴い急激に寒くなる日本の冬。こんな所で呑気に黄昏てる暇があったら、さっさと家に帰って好きな音楽聴いて、嫌な事を綺麗サッパリ忘れてしまおう。それがいい。

 制服のポケットから携帯を取り出し、適当にインターネットの海を彷徨いながら曲がり角を曲がる。曲がった先の視界のすぐ隅に人影が映り、ヤバイと思った次の瞬間には衝撃を身体に残し、俺は無様に尻餅をついていた。

「痛た……」

 中学生か高校生か良くわからない学校の制服を着た女の子が、俺と同じように尻餅をついていた。

「あ、スマン、大丈夫か?」

「曲がり角ぐらい、注意して歩いてくださいよ……」

 女の子は尻というより太ももを擦りながら唇を尖らせて俺に講義してくる。携帯を弄りながら歩いていたのは確かに俺の落ち度だが、ぶつかった女の子の注意力も散漫していたんじゃないんだろうか。俺が女の子に気が付かなくても、女の子が俺に気が付いていればこの事態は避けられたはずだ。

 道には女の子の私物と思われる手提げ鞄と、古めかしい感じのする本が一冊。

 手提げ鞄はしっかりと口が閉じられている上に、蓋に付いている二本のベルトはしっかりと止められてあり、中身が散乱すると言う事はありえなそうだ。もしかしなくても、これは女の子もわき見して歩いていたんじゃないだろうか?

 電車の中で漫画を読んでいる奴が、何の漫画を読んでいるのか気になるように、その子が読んでいた本の内容が気になった俺は、拾い上げてやるついでに、ちらりとその中身を盗み見る。

 誰かの自伝であろうか、日付と、何時に何をしたと言う事が事細かく書いてあった。

 ×年、二月五日。駅前の書店で漫画の新刊を発見、購入。

 人の趣味をとやかく言う気は無いが、こんなものを読んで何が楽しいか俺にはちっとも理解できない。

 ……読んでいて、俺はある不信な点に気が付いた。今は×年。この本に書いている年と一緒であるが、日付は二月四日。つまり、自伝でこの日付が出てくるのは少しおかしい。気になって他の項目も目を通してみると、明日放送予定の番組を見る事や、ニュースで新しく上映される聞いた事の無いタイトルの映画の情報などが書かれていた。

「ちょっと、それ返してください!」

 読みふけっていた俺から本を取り返そうと、女の子が一生懸命手を伸ばし俺に縋り付いてくる。

 次のページをめくると、二月六日の事が書かれてある。本の左上には木野村清二と書かれてある。数十ページめくると人の名前が変わった。書かれている内容は全てその日に何をして、どんな結果になったか。

 女の子の声を無視して俺は黙々とページを捲り、ついに自分の名前を見つけた。

「……あぁ、すまない。返すよ」

「人のものを覗き見するなんてとてもいい趣味とは言えませんよ?」

「以後注意するッ!」

 俺はそのまま回れ右。全力で本を持って走り出す。

 これは多分預言書だ。いろんな人間のその先が書いてある! さっき読んだとき、木野村って奴の何十年ものことが書いてあった! そして俺の名前も、今日あった事もぱっと見あっていた! これさえあれば、俺はこの先の人生、いい事だらけだ!

 当然だが、女の子の体力と俺の体力には差があり、数分も走れば完全に女の子を撒く事が出来た。俺は本を片手にコンビニに入り、俺のこの先の人生が書かれてあるだろうページを頭から終わりまで全てコピーした。モノクロコピーで合計七十円。つまり七枚分。なんか少ないような気もするが、他の奴も大抵そんな感じだったような気もする。

 コピーし終わった紙を鞄に突っ込んで、用済みになった本を抱えて俺は来た道を戻る。

 三分ほど歩いた頃、人を探すように先ほどの女の子がきょろきょろしながら道を歩いている。この本を俺が持っていても良いんだが、なんか気味の悪い本をずっと持っているのも気が引けるので、女の子の頭をその本で叩く。

「おい、余所見しているとまた人にぶつかるぞ」

 百五十センチいくか行かないかの身長の女の子の頭を叩いて本を目の前にちらつかせる。

「ど、泥棒ッ!」

 女の子は親の敵を見るような目で俺を睨み、自分の頭上より数十センチ上の本を取り返そうと懸命にその場で飛び跳ねる。

「誰が泥棒じゃ。たまたま知り合いを見つけて借りてたもん返したんだよ。もし俺が泥棒ならこの本は返さねーぞ?」

「そ、それは困ります! そんな事したら私が怒られちゃいます!」

 日本人形を思わせるようなおかっぱの頭の女の子は涙目になりながらも、本を取り返そうと頑張る。ついつい虐めたくなるような女の子に本を手渡してやって足早にその場から去ろうとする。

「……名前。貴方の名前は?」

 呼び止められた俺は心臓が胸から飛び出しそうになったが、冷静に振舞いつつ、髪を掻きあげる。

「如月。如月頼斗きさらぎらいと

「そんな無意味に長い前髪を掻きあげてカッコつけてもあんまり意味が無いと思うですけど」

「なんだとぅ!? 俺のこの前髪は意味が無いわけじゃない! 世の中の汚いものを見ないようにしているフィルターなんだ!」

 人のこだわりに口を出すとは碌な女じゃないな、こいつ。

 俺の名前を聞く事が目的だったのか、女の子はそのまま俺から背を向けて、小さかったその姿を更に小さくして、俺の視界から姿を消した。

 色々と解らん事の多い女の子だったが、とりあえず此処で時間を潰している訳にはいかないな。早く家へと帰って、コピーした俺の人生を眺めなければ。


 家に帰り着く頃には日がすっかりと落ち、周囲を暗闇が支配していた。家に帰るなり、ブレザーを脱ぎ、階段の壁に取り付けられた制服掛けにぶら下げ、制服は待機状態に。ズボンはしわにならないように折り曲げ、使ってない椅子の背に掛ける。

 Yシャツと、ジャージ姿という奇怪、奇妙としかいえない姿で鞄の中から折り曲げられた紙を取り出し、その内容を読む。


 ×年二月四日。

 朝、占いの結果三位。まずまずの結果、占いの結果は当たらない。

 七時五十四分、携帯にメルマガが届く。マナーモードにし忘れていた事に気が付く。

 九時二十九分、国語教師に朗読をさせられる。読み間違えることなく読める。

 十時、移動教室。座っていた机に前の授業者の忘れ物と思わしき消しゴムを発見。そのまま放置。

 昼、学生食堂で人気のメニュー、チキンカツ丼を注文する事に成功。

 十四時三十七分、片思いの相手、相澤由紀と会話。会話が弾む。

 十五時四十二分、掃除場所の窓ガラスを割る。掃除担当教師北にそのまま一時間怒られ、修理代五千六百円払わされる。

 十七時三十三分、街角で中学生ぐらいの女の子とぶつかる。不思議な本を見つける。

  

 今日俺の行動と結果が丸ごと書かれているが、内容が事細かく書いてあり、気にも留めなかったことまで書いてある。しょうも無い事まで書かれてあるのが多すぎて、少々読みづらい。

 だが、確かにこれは預言書のようなものだと言う事が理解できた。

 時間を忘れ、次々にとこの先の出来事を読み進めていく俺の家の窓を叩く音に俺は顔をあげる。

 窓の外には驚くべき光景が広がっていた。

 セーラー服姿で窓の外に今日ぶつかった不思議な本を持つ女の子が居た。

「うぉぉぉぉっ!?」

 驚いて俺は手に持っていた紙を枕の下に隠す。

「早く此処をあけてくださーいッ!」

 よく女の子を見ればカタカタと震えているように見えなくも無い。そんな度肝を抜く登場よりももう少し自分を大切にするべきだと思うのだが。

 窓ガラスの鍵を開けてやると、窓から女の子は部屋の中に上がってくる。

「お邪魔しますぐらい言え、お邪魔野郎。というか此処二階だぞ、どうやって上ってきた?」

「うぅ、それは後々話すとして、如月頼斗。あなた、預言書をコンビニでコピーしましたね!」

 ぐぉ、なんでその事を! こいつエスパーか!? いや、俺の行動は預言書とやらに書いてあるんだな。

「あぁ、コピーしたさ! だが、そんな便利なものを持っているお前が悪い!」

「どんな責任転嫁ですかー!? 普通規約なら強制的に貴方からそのコピーしたものを奪うのですが、生憎貴方はあと一週間後に死ぬから、それまで見届けようと思います」

 なんと話のわかるちびっ子だ。ちょっとまて、今何かとても不穏な事を言わなかったか?

「死ぬ? 俺が?」

「はい」

 即答。そんなはずは無い、預言書には俺の数十年後先まで書いているはずだ!

 枕の下から預言書のコピーを取り出して、最後の項目を見てみると……。

 如月頼斗……×年二月十二日、駅前の交差点にて信号無視していた乗用車に轢かれ、即死。

 あれ、俺死んじゃってる? 交差点で事故にあっちゃって死んじゃってる?

「マジ?」

「…本気」

「うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 


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