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神滅の魔剣士は英雄になれない  作者: 意思疎通
第一章 旅の再開

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第五話 神子じゃない

「神子アリステラ。最後の言葉を吐け」


 油断をしてはいけない。どこからどう見ても、この女はあの『神子アリステラ』だ。

 コイツをここで仕留めることが出来れば、黎明の神子を壊滅させるのが容易くなる。

 もしそうじゃなかったとしても、『赤目』の時点で重罪人のはずだ。


「待ってくれ。待て、ヘクトル!!」

「何を待つ必要がある? あぁ、お前はこの女を助け出したいんだったか。安心しろ、この世から助け出すために介錯してやるだけだ」


 諸悪の根源を目の前にし、冷静に対話を試みるなど、今の俺には出来るわけがなかった。

 草属性魔法で木材を生成し、風魔法によって木材の繊維そのものを一本ずつ整列させ、刃先を極限まで細くする。

 即席だが切れ味はそこら辺の剣よりも何倍も良い木剣。

 刃先を悪魔に向け、直ぐにでもその首を跳ねられるよう神経を集中させる。


「やめて、殺さないで……違うの、私は黎明の神子とは関係ない、ただのアリステラなの」


 ウソだな。

 黎明の神子の筆頭にしては魔力量が少なく感じるが、『赤目』であるならばそんなことは関係ない。


「やっぱり、そうだったのか! こんなに優しいアリステラが黎明の神子なわけ無いと思ってたんだよ! ほら、ヘクトル! 剣を下ろせよ!」


 神子アリステラと全く同じ名前で、同じ見た目で、どう信じろというのか。

 こんな物を信じるなんて、やはりコイツはバカだ。

 

 ……だが、これ以上は流石に騒ぎになりすぎる。

 先程から宿主が物陰から隠れて、怯えながらこちらの様子を伺っていた。

 せっかく泊めてくれた場所で迷惑をかけるわけには行かない。


 今のところこの女からは殺意を感じない。何か行動を起こそうとする様子もないため、仕方なく対話をしてみることにした。


◇◇◇


「要するに、キミは有名な神子アリステラと同じ名前、同じ特徴なせいで風評被害を受けているのだと。そういうことか?」


 えぇ、と頷きながら瞳に涙を浮かばせる女。

 本当か演技かは分からないが、もし本当である場合、確かに可哀想だとは思う。

 悪名高い女の名を付けるなど、名付け親のアタマがトチ狂っているのだとしか思えない。


「実は俺さ、神子アリステラと君が同一人物だと思ってたんだ。だから、黎明の神子から君を救い出そうって……でも、そうだよな。そんなわけなかったんだ」

「なんで……? 黎明の神子なんて、関わらないほうが良いってみんな知っているのよ? 私のために、一日しかお話してなかった相手に対して、そこまでの危険を冒す理由が分からないわ」


 コイツ、一日しか話したこと無い相手にここまで執着してたのか。

 転移してくる前はアイドルのストーカーとかしてたんじゃないだろうな……。

 もしかしたら、俺が思っている以上にキリュウ・カイトはヤバいやつなのかもしれない。

 

「君は、俺を助けてくれたから」

「え?」

「この世界に転移してきて、何もわからなかった俺を君は助けてくれた。不安でたまらなかった俺に、安心をくれたのは君だ」


 ……


「私は何もしてないわ。ただ、当たり前のことをしただけよ」

「その当たり前を俺にしてくれたのは君だけだった」

 

 二人で幸せになるなんてハッピーエンドを歩ませるわけには行かない。

 カイトの目的を手伝う代わりに、日本への帰り方を一緒に調べる約束だった。

 このままカイトの目的が無くなってしまえば、一人で調べなくてはいけなくなる。

 確かに、足手まといが居なくなると考えるなら良いかもしれない。

 だが、この『英雄気取り野郎』と共に旅をし、俺の凄さを、『英雄』に相応しいのは俺だと思い知らせなくてはいけない。


「そういえば、貴方のお名前を聞いてなかったわね。私の名前は……アリステラ。ファミリーネームは無いの」


 思考を巡らせていると、いつの間にか二人の感動的な再会の話は終わっていたらしく、話題がこちらに向けられた。

 アリステラ。その名を口にすることすら嫌悪感を抱く。


「俺の名前は、ヘクトル・エルカディオン。一応、この服装を見ればわかると思うが騎士団に所属している。アリステラさん、先程は失礼な態度を取ってしまった。改めて、よろしく」

「アリステラでいいわ。私も、ヘクトルって呼ぶから」


 話せば話すほど歪な女だ。

 脳内に入ってくるこの女の情報は、全てがただの少女だという。

 だが、それがとても気味悪く感じた。

 この女の声を聞くたび、赤い瞳と視線が交わるたび、右腕に痛みが走る。

 体が、警鐘を鳴らしていた。


「それで、キミは何故ここに?」

「旅をしているの」

「何のためだ?」

「とある、探し物のため」 

「何を探している?」

「それは……ごめんなさい。言えないわ」


 この魔力量の女が一人で旅をするというだけでも怪しいというのに、何を探しているのか言えない。

 黎明の神子は、神に繋がる情報を探しているという。

 こんなにも怪しい人間を疑うなと言われ、素直に「はいそうですか」なんて言えるわけがない。


「おい、ヘクトル! あんまり詮索するもんじゃないだろ!」


 質問攻めを静かに聞いていたカイトだったが、アリステラの表情が曇っていくのを見ていられなかったらしい。

 怪しい人間に対して尋問をするのは当然のことだ。

 それなのに、途中でそれを止められるなど不快でしか無い。


「……そうだな、悪かった」

「いいえ、全然大丈夫よ! 怪しいって思うのも、仕方ないもの……」


 そういえば、この宿はそこまで古いようには見えないが、『カビ臭い』な。


「それで、そのー。もしよかったらなんだけど、迷惑じゃなければ私も旅に同行させてくれない?」

「ホントか!? 実は今、丁度旅の仲間を探しにここへ来てたんだよ」

「いや、ダメに決まってるだろ。まず第一、俺達は戦力になる仲間を探しに来た。悪いが、俺の目から見てキミが戦力になるとは到底思えない」


 か弱そうな細い体の女。

 剣を持っていないのを見るに、魔法使いなのだろう。

 だが、体内の魔力量は少なく、戦力になるとは思えない。

 足手まといが二人に増え、面倒事が倍になる予感しか無い。


「そう、よね。ごめんなさい、我儘言っちゃって」


 まるで子犬の真似でもしているかのように、しょんぼりとした顔で俯く女。

 あまりにも、わざとらしすぎる。


「ヘクトルぅ……」

「チッ」


 子犬の真似をするバカがここにも居た。

 成人男性一人と子犬の真似をするバカが二人。

 これ以上気味の悪い光景を作り出されても困るので、二人に聞こえるように舌打ちをしたあと、とりあえずは承諾することにした。


◇◇◇


 話し合いが終わり、食事も済ませる。

 騒ぎを起こした詫びとして少し多めに代金を支払い、宿を後にした。


 今からどこへ向かうのか。

 当初の目的だった仲間はもう手に入ってしまったし、既にこの村でやりたいことは無くなってしまっていた。


「とりあえず、広場にでも行ってみようぜ! なんかやってるかもだし!」


 暇になってしまったが、すぐに他の街へと旅立つにはもう少し休みが欲しい。

 それならと、カイトの提案に乗ることにした。


 広場に向け、足を進める。

 やはり、昨日同様村人は外に出ていない。

 窓から、扉の隙間から、視線だけがこちらに集中している。


 何故なのか、というのは今の俺には充分理解できた。


「気のせいじゃないかしら?」


 まだ何も言っていないはずだが、彼女の顔をみた理由がバレてしまったらしい。


 神子アリステラと同じ見た目の女が村にやってきたとなれば、警戒するのは当たり前だ。

 むしろ、ちゃんと警戒しているここの村人たちはとても優秀だと言える。


 それに比べて、このアホ英雄。

 こんなにも怪しいのに警戒を一切しないどころか、心を許している。

 カイトが疑わないのであれば、その分俺が疑いの目で見るしか無い。


 怪しい動きをしたら、その時は……


 ——赤が飛び散り、音を立てながら何かが崩れ落ちた。


「アリステラ!」


 カイトの叫び声とともに視界に映ったのは、光の槍で貫かれたアリステラの姿だった。


 少し油断していたのかもしれない。

 この女のことばかり警戒し、他のものにまで気を回していられなかった。

 村人達の視線がノイズとなり、殺意のこもった視線にまで気付けなかった。

 そんな言い訳ばかり連ねているが、本当に思っていることは一つだけ。


 ……狙われたのが俺じゃなくて良かった。

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