↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神滅の魔剣士は英雄になれない  作者: 意思疎通
第二章 ローデル動乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/26

第十九話 向き合えた先にあるもの

「ヘクトル! 良かった、無事だったのね!」


 カイト達と合流しようと宿へ戻る途中、背後から声が聞こえてきた。

 振り返った先に見えたのは、白銀の髪を揺らしながら駆け寄ってくる女。


「アリステラ。一般人は無事、避難できたのか?」


 そして、その後ろから着いてくる男が一人。

 街中が騒がしいのに反し、バツの悪そうな表情で静かにこちらに近付いてくる。


「それが……」


 アリステラが言いにくそうに顔を背け、伝えることを拒んでいるようだった。

 何かあったんだろうな。

 正直な所、そこまで驚きはしない。

 この二人では明らかに戦力不足だ。

 避難誘導中に他の信徒が襲ってくれば、守りきれないことは簡単に理解できる。


「貴族が、連れ去られたんだ。あの信徒達に」


 口を開かないアリステラを庇うように、黙っていたカイトが代わりに説明する。


「貴族だけか?」

「えぇ。急に白いローブの人達が現れて、貴族の人達だけを連れ去っていったの。抵抗しようと思ったんだけど、私達じゃ手も足も出なくて……」

「ごめん」


 カイトの表情が暗い。いつもはあんなにも明るく、黙っていても煩いと感じる程なのに。

 どうせ、自分は『英雄』なのに守れなかった、何も出来なかったと申し訳無さでも感じているんだろう。


 バカバカしい。

 お前は与えられた役割を、自分のできる範囲でやりきったんだろう。

 なら、それだけで充分だ。


「やられたわね」


 ヒールの硬い足音が聞こえ、その方向へと顔を向ける。

 視界に写ったのは、うぐいす色の髪。


「あの女は、貴族を攫うための足止めか」

「そうでしょうね。本当ならもっと活躍出来ると思っていたのだけど……申し訳ないわ」

「相手は闇魔法使いだった。仕方ないと言えば甘えのように聞こえるかも知れないが、初見で対処するのは難しいだろう」


 不規則な呼吸を繰り返しながら、エルミナがゆっくりと近付いてきた。

 あの『加護』と転移魔法を扱える『闇魔法』。

 六信徒の末端とはいえ、流石の実力だと言わざる負えない。

 だが、俺が超えなければいけない壁はこれ以上に高い。圧倒的に、第一信徒の方が上だ。


 こんな所で躓いているような奴が、『英雄』になんてなれるはずがないだろ。

 

「そういえば、あの女は『明日の朝を楽しみにしておけ』と言っていた。なにか行動を起こすとすれば、その時だろうな」

「なるほどね。なら、今日はもう何もないだろうし、さっさと宿で休まない? アタシ、走ってきたから汗かいちゃったわ」


 まだ太陽は高く登っており、時刻は十二時を回ったばかり。

 だが、その意見には賛成だった。

 アイツと、自分の過去と向き合う心の準備をしなくてはいけないのだから。


◇◇◇


 自室に戻り、真っ直ぐとベッドに向けて飛び込んだ。

 まだ、右腕の痛みが残っている。

 最近ずっと感じていたはずの痛み。それよりも、それとは全く比べ物にならない程の痛みだった。

 あの時の光景が、脳に焼き付いて離れない。


 奴の長い爪に突き刺さり、白目さえも真っ赤に染まっていた瞳。

 あの男の楽しそうな笑い声。


 ……ヴェルナスの表情。 


 全て思い出したくもない記憶。 

 体内から何かが溢れ出しそうな不快感。

 右腕を抑えることしか出来ず、ただその場で蹲るだけだった。


 それでも、今日は違った。

 いつもなら『死の恐怖』を感じた途端に動かなくなる身体が、右腕の痛みを感じながらも魔法を放った。

 思考が恐怖で埋め尽くされるのではなく、次に取る行動を選択していた。


 ——俺は、変われる。


 ケジメを付けることは、今は難しいかもしれない。

 それでも、今日動けたのは事実だ。

 動けないはずの弱い自分を、敵を倒すために立ち向かえる強い人間として偽った。

 演じれた。


 もう、昔の俺とは違う。


 後悔した所で過去は変わらない。そんなことは充分理解している。

 だから俺は今出来ることを探さなくてはいけない。

 今度こそ、大切な人を傷つけないように。

 もう、間違わないように。


 誰もが思う最強の『英雄』となるんだ。

 俺は、必ず前に進んで見せる。


 それがどれだけ自分を犠牲にすることになったとしても。


◇◇◇


 煩い鐘の音で目が覚めた。

 街全体に響き渡らせるためか、何度も何度も打ち付けられている。


「うるさいな」


 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 上体を起こし、この騒音被害の犯人を探すため窓の外を眺めた。

 広場には、やけに多くの人が集まっている。

 皆この音に苦情を入れるためだろうか。


「えーっと、そろそろいい? まだダメ?」


 広場に立つのは、白いローブを身に纏う三人の人間。

 昨日の女が真ん中に立ち、隣の男に何か確認をしているようだった。


「ヨシ、もういいでしょ!」


 一呼吸置いた後、女は大声で言う。


「神滅の魔剣士、ヘクトル・エルカディオン! 白銀の少女アリステラと共に、旧礼拝堂に来なさい! あ、他の人連れてきたら貴族達殺しちゃうからねーっ」


 満面の笑みを浮かべる女。

 

 その声が聞こえたと同時に、広場に強烈な魔力が溢れるのが分かった。

 急いで魔力感知を発動するが、既に多量な魔力で広場が埋め尽くされている。

 どこから発生したものかを突き止めるには、行動が遅すぎた。


 裸眼で見ても気付くほどの魔力量。

 あの信徒の魔力だろうか?

 ……いや、違うな。


 これは、『殺意』から溢れた魔力だ。それに、魔力色から水魔法の使い手である可能性が高い。

 なら、これは別の勢力がこの街に来ているということだろう。

 それも相当な手練であると分かる。

 敵か味方か分からない以上、警戒しなくてはならない。

 警戒対象が増えたのは喜ばしいことではないが、信徒への恨みがある人間だというのは間違いないだろう。

 邪魔さえしてこなければ、どうでもいい。


 思考を巡らせていると、信徒は転移魔法で何処かへと消えてしまった。

 旧礼拝堂、か。

 昔はよく『神』に祈りを捧げるために貴族たちが訪れていたと聞いたが、今はそんな面影もないほどに寂れてしまっている。


 ——何かが、おかしい。


 奴の目的がアリステラなら、何故昨日の時点で攫わなかった?

 彼女は、手も足も出なかったと言っていた。

 簡単にそれが出来たはずだ。こんな回りくどいやり方をする理由が分からない。


 何故、俺まで名指しした?

 そして、昨日言っていた『合格』とは何だ?


「不愉快だな」


 考えれば考えるほど、理解できないことばかりだ。

 なら、もう思考することはやめだ。

 

 理由がどうだったとしても関係はない。

 アリステラが狙われていようが、俺が試されていようがどうでもいい。


 これは、『英雄』の復帰戦だ。


 アイツを倒し、自信を少しだけでも取り戻すためだけの戦い。

 ただ仕留めればいい。何も考えず、自分の強さを思い出せば良い。

 俺を誰だと思っているんだ?


 俺は、『神滅の魔剣士』だ。

 大丈夫。あんな末端に殺されるほどやわな人間じゃない。

 そんなこと、俺が一番わかってるはずだろ?

 恐怖を感じる必要なんてないんだ。簡単に、倒せるはずなんだ。

 

 とにかく今は、第六信徒の一人を倒したという事実が欲しい。

 忌まわしいあの男と同じ、『六信徒』の一人を……。

 

 そうすれば、更に大きな殻を身に纏う事ができる。

 それを繰り返すしか今の俺に出来ることはない。

 そうするしかないんだ。


 ——最強の『英雄』を演じるために、俺は死ぬ気で戦い続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。