↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神滅の魔剣士は英雄になれない  作者: 意思疎通
第二章 ローデル動乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/26

第十六話 信頼

「色々、本当に助かった。ありがとう」


 荷物をまとめ、屋敷を出る準備を始める。

 結局、一週間も滞在してしまった。

 アリステラが中々目覚めず、予定よりも長く居座ることになり、黎明の神子の連中も中々ローデルには向かっていなかったらしく、ようやく今朝動きがあったとカリスタから報告があった。


「いえ、ヘクトル様には命を助けてもらったので。感謝を伝えるのは僕の方ですよ。本当に、ありがとうございました」


 命を助けてもらった、か。

 死にかけた原因は俺だと言うのに……。

 ルシアンは俺に対して、盲目的に信仰しすぎる悪い癖がある。


「感謝される程の事はしてない。それに、ルシアンが助かったのはアリステラのおかげだ。俺じゃなく、彼女に伝えたほうがいい」

「そうじゃなくて……いや、なんでもありません。そうですね、アリステラ様にもしっかりと感謝を伝えます」


 あれだけ重症だったにも関わらず、ルシアンはアリステラよりも先に目を覚まし、いつも通り仕事をしているらしい。

 少しの間だけでも休むべきだと伝えたが、俺を支えるためだと聞かなかった。


「準備、終わりましたよ。アリステラ様もカイトも既に荷物をまとめ、下で待っているそうです」

「あぁ、ありがとう」


 剣を手に取り、腰に備えた。


「……その剣、やっぱり持ち歩いているんですね。しかも、左側に」


 右腕では握れないのに。そう続けようとしたのが分かった。

 だが、その言葉は続かなかった。


「あぁ……いつもの場所に無いと安心できないんだ。それに、またすぐ握れるようになる」

「それは、どういう……」


 そう、また握れるようになるはずだ。

 俺が覚悟さえ決めれば、『ケジメ』さえ付けることが出来れば。

 この右腕で、また剣が握れるようになる。


「俺はこの世界で最強と呼ばれる男だ。また、必ず英雄と呼ばれて見せる。だから、ルシアン」


 恐怖と向き合え。

 もう、逃げるな。


「俺を信じてくれ」

「……」


 この表情を、俺は知っている。

 初めてルシアンと出会った時の、光を見たような目。


「勿論ですよ。僕は、貴方が『英雄』に最も相応しいと信じている。もう英雄にならなくても良いなんて、そんなこと言いません。僕はずっと、貴方だけが輝いて見えているんです。貴方だけが、僕にとっての『英雄』なんです」


◇◇◇


 カリスタにも感謝を伝え、屋敷を後にした。


「さて。次に向かう場所についてだが、まだ何も言ってなかったよな」

「そうだよ、荷物まとめて出る準備しろとか言われてさぁー! 結局、どこ向かうんだ?」


 屋敷の中で行き先を伝えなかったのは、ルシアンが着いてくるのを防ぐためだ。

 ローデルは、俺がルシアンを拾った街。

 そこに黎明の神子が向かうとなれば、恩返しをしたいと着いてくるのではないか。

 そうカリスタと話し合った結果、屋敷から出た後に伝えると決めた。


「次に向かうのはローデルという街だ。元は公国だったが、今はグランヴェル帝国の領地となっている。貴族が多く、とても栄えた街だ」

「ほぉーん。難しいことはよくわかんねえ」

「なんでローデルに向かうの?」


 なんで、か。

 お前ならもう知っているんじゃないのか?

 俺はまだ、神子アリステラであると疑っている。

 一度良い行いをしたからと言って、そう簡単に疑いが張れるはずがない。


「黎明の神子が向かっているという情報を手に入れたからだ」

「黎明の神子が……」


 口に手を添え、驚いたような表情で目を見開く女。


「なんでそこに向かってんだ? っていうか、今から行って追いつく?」

「理由は分からない。だが、向かっているのは確かだ。奴らは常に神に関わる情報を集めるためだけに行動している。きっと何かが隠されているんだろ」


 追いつくか、という問に対しては何も答えなかった。

 言葉にしなくとも、今から分かる。

 奴らが向かい始めたのは今朝だと聞いた。

 なら、簡単に追いつける。


 数分歩き続け、森についた。


「ローデルってこんな森の奥にあんの? っていうか、馬車とか使ったほうが良いんじゃね? 歩いていける距離なの?」

「いや、方角が全然違うはずよ。ヘクトル、何か間違えてるんじゃない?」


 森の中を進み続け、気付けば周囲にあるのは木々と獣の気配だけになっていた。


「ここなら大丈夫だろ。少し待て」


 腕を真っ直ぐと前に伸ばし、闇魔法を放つ。

 瞼を閉じ、ローデルの座標を頭に浮かべながら魔力を放出した。

 魔力が黒いモヤとしてその場に現れ、人が通れるほどの大きさへと変わっていく。


「えっとー。ヘクトルさん? 禍々しい見た目のこれは、一体何を作っておられるんですかねぇ???」

「転移魔法の応用だ。三人まとめて連れて行くより、通路を作ってしまう方が魔力消費が少なくて済む」


 ここ一週間で少しずつ感覚を取り戻し、転移扉を作るくらいは簡単にできるようになった。


「これなら簡単に追いつける」

「初めて見る魔法だわ。どうしてこんな森の中でその魔法を使ったの?」

「この魔法を使えるのはこの世界で俺だけだ。大事な手札を全ての人間に曝け出す程、俺は世界を舐め腐ってはいない。いざという時のために、存在を知っている人間は少ないほうが良いんだよ」


 そこまで話した所、左右から煩い声が聞こえてきた。


「俺達を信用してくれたってことか?!」

「そんなすごい魔法、どうやって使えるようになったの?!」


 面倒くさいな。


「あ、ヘクトル!!!」

 

 俺は二人をその場に放置し、黒いモヤへと飛び込んだ。


 目の前に現れたのは、綺麗に整えられた街、ローデル。

 貴族が多く住むこの街は民から巻き上げた金を贅沢に使い、外観を気にした建物ばかりが並んでいる。


「置いてくなよ! はぐれたらどうするんだ!」

「ヘクトルが私達を置いてどこかへ行くなんて思ってないけど、少し不安になっちゃったわ」

「すぐに通らないのが悪いだろ」


 黒いモヤを掌に集め、転移扉を閉じる。

 幸い近くに人は居なかったが、久しぶりに使ったせいで座標が少しズレてしまった。

 こんな街の目の前に着いてしまうとは。もう少し、鍛錬が必要だな。


「まずは情報を集めるために、この街一番の冒険者ギルドへ向かう」

「えぇー?? 腹減ったぁー!」

「そうね、私もお腹空いちゃったから、先にご飯が食べたいわ」


 ……。


「はぁ」


◇◇◇


「美味そー!! 流石、貴族が多い街なだけある!」


 机には豪華な肉料理が隙間無く並べられ、どれも空腹を刺激する芳醇な香りを放っていた。


「なぁ、はやく食おうぜ! いただきます!」

「いただきます」


 ここ数日、一人でも食事ができるよう左手だけを使って練習をした。

 少し不便ではあるが、人に頼らなくても良いのは気持ちが楽だ。


「そういえば、ヘクトルは飯食う時『いただきます』って言うよな。他の人はあんま言ってるとこ見ないのに。あ、でもカリスタは言ってたような気もする」

「癖で言っているだけで特に意味はない。カリスタは昔から食事を共にすることが多かったからか、俺に合わせて言うようになったな」


 この国には、食事の挨拶は存在しない。

 食べ物に感謝をしなさいと教育はされるものの、全員が席に付けば自然と食事が始まる。

 そこに合図など必要が無い。

 それでも俺は、前世の癖でその言葉を口にしてしまう。


「それに、カイトもいつも言ってるだろ」

「うん。俺の故郷も同じ文化だったからさ、なんか親近感湧くわ!」


 カイトは幸せそうに料理を口に運びながら、真っ直ぐと笑顔を向けてくる。


「初めて聞く文化だわ。カイトは異世界だと思うけど、ヘクトルはどこ出身なの?」

「俺の出身地は分からない。育ての親が居たらしいから、その人の文化なんだろうな」


 半分本当で、半分嘘だ。


「あ……その、ごめんなさい」

「気にするな。別に、俺は故郷が分からないことについてなんとも思ってない。今はグランヴェル帝国に仕えている。ただそれだけで充分だ」


 そう、俺の故郷はこの国だと言っても良い。

 出身地なんて、些細なことだ。


「ねぇ、キミ達。お姉さんも混ぜてくれないかしら?」


 空いていた席に腰掛け、頬杖を付く女。

 うぐいす色の髪をハーフアップに括り、胸の谷間を強調させるような服装。

 胸元には、水色に光る魔法石。


 ——柔らかい笑みを浮かべているその細い目は、親の敵のようにアリステラを睨んでいるように思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。