↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神滅の魔剣士は英雄になれない  作者: 意思疎通
第一章 旅の再開

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/25

第十四話 逃げるか、向き合うか

「おい、何があったんだよ!! ルシアン? 大丈夫か?!」


 使用人に連れられ、アリステラと共に庭へとたどり着いた。

 何も話さず、ただ慌てた様子の使用人。

 嫌な予感はしていたものの、いざ目の当たりにしてしまうと、身体が強張ってしまった。


 どこを見ても、血溜まり。

 警備兵達の頭は全て切り落とされ、死んでいるのだとすぐに理解した。


 唯一原型を留めているルシアンを見つけ、急いで駆け寄る。

 身体には無数の穴が開いており、血の海で静かに眠っていた。


「まだ、生きてるわ」


 ルシアンに触れるのを躊躇っていると、アリステラが手を伸ばした。

 わずかに脈を確認できたらしく、安堵から胸を撫で下ろす。

 良かった、生きている。

 だが、あまりに重症を負っているその身体は、今にも全ての機能が停止してしまいそうだった。


「私の光魔法でどうにかしてみるわ。応急手当くらいしか出来ないけど……」

「充分だ! 頼む!」


 アリステラは頷き、さっそく治療を始めてくれた。

 俺は他にも生きている人間を探そうと、辺りをもう一度見渡す。


「……ヘクトル?」


 少し離れた所に一人、石のように固まり、立ち尽くす男がいた。


「ヘクトル! 大丈夫か? 何があったんだよ!」


 駆け足で近寄り、声をかけながら右肩を掴んだ。

 その瞬間、ヘクトルの身体は跳ね上がり、まるで怯える子供のように震え始めた。

 汗が止まらず、顔色が悪い。

 また腕が傷んだのかと思ったが、それとは少し様子が違うように感じた。


「……第一信徒が来た」

「第一信徒?」


 信徒ということは、黎明の神子が来たのか。

 だが、第一信徒とは一体何を示しているんだ?


「……俺は、何もしなかった」

「え?」

「ただ、見ているだけだった」


 それだけ口にすると、ヘクトルはもう何も言わなかった。

 ただまっすぐと、何かを見つめて恐怖していた。

 その瞳に何が写っているのか。

 それを知るには、俺達の関係はあまりにも浅すぎるものだった。

 

 とにかく、なにかできることをやらなければ。

 俺は今、『英雄』だ。

 なにかしなければ。俺にしかできないことはなんだ。


 ヘクトルに背を向け、倒れている警備兵へと近付く。

 酷いやられ方だ。とても、痛いんだろうな。

 手が震えている。深呼吸をし、今から自分が感じるであろう苦痛を耐えるための覚悟を決めた。

 いや、覚悟なんて決まってない。

 それでも、そう思い込むしか無かった。


 彼らはとても優秀な人間だと聞いた。ここでその戦力を失うのは、カリスタにとって痛手になるはず。

 俺は、『英雄』としてこの屋敷を任された。

 なら、迷う必要なんて無い。


 ——俺は覚悟を決めたんだから。


「止まりなさい!! カイト!!」


 伸ばした手が反射的に止まり、声の方向へと振り返る。

 そこには、風魔法を纏いながら走ってくるカリスタの姿があった。

 距離はまだあったものの、はっきりと聞こえたのは風魔法で声を届けてきたからなのだろう。


「……帰ってたのか」

「今、何をしようとしていたんですか」


 やはり風魔法は便利だな。

 遠くに見えていたはずの姿が、もう目の前にまで迫ってきていた。


「助けようとしたんだ。優秀な人達だって、前カリスタが言ってただろ? 貴重な戦力を失いたくないだろうなと思ってさ」


 真剣な眼差しでこちらを見つめていたカリスタは俺の言葉を聞いた途端、怒り、悲しみ、悔しさを織り交ぜたような表情に変わった。


「確かに、彼らはとても優秀ですよ。ワタクシが大金を支払ってまで雇っていたのは、それほどの価値があると見込んでいたから」

「なら、なんで……!」


 止める必要なんか無いだろ。

 そう続けようとしたが、カリスタに話を遮られた。


「ワタクシは、貴方に言いましたよね? 『その力を使うな』と」

「……」


 前々から、カリスタには同じ事を何度も言われていた。

 力を使う度、半日説教をされた。

 それでも、俺は力を使い続けた。


 俺は『英雄』だ。

 誰かを救える手段を一つしか持っていない俺が、この国の人から慕われ、信じられている。

 なら、それに応えるのが俺の役目だろう?

 俺にはこれしかない。

 この力を使うことが出来ないのなら、ただの能無しだ。


「彼らは職務を全うしました。いつ、どんな状況で死んでも良いと、覚悟を決めていた人間達です。それを貴方の都合で蘇らせるなんて、侮辱しているのと同じですよ」

「なら、俺は役立たずだ! 何もせず、ただ見殺しにするなんて俺には出来ない!!」


 何かしないと。

 俺は『英雄』なんだから。

 皆の期待に、応えないと。

 今までそうしていたように、また救えば良い。

 そうすれば、皆泣きながら喜んでくれるのだから。


「なら、役立たずでも良いじゃないですか」

「は?」


 良いわけないだろ。

 俺は、俺だけは誰より人を助けないといけないのに。

 役立たずでも良いなんて、そんなの、おかしい。

 ……おかしいはずだろ。


「人にはそれぞれ、役割というものがあります。今はたまたまカイトの出番では無いだけ。これまでの出来事を振り返ってみてください。貴方は誰よりも『人を救ってきた』はずでしょう?」


 俺は、ずっと苦しかった。

 苦しんで、藻掻いて、ただこの国の人を救うことだけを考えてた。

 だって俺は、『英雄』だから。

 でも、そうか。

 そうかもしれない。


「ワタクシが何も出来ないときだって沢山ありました。カイト、今は休んでください。また貴方の出番が来たら、すぐに助けを求めますから」


 この一年間、俺は何度もカリスタの言葉に救われてきた。


「ありがとう、ごめんな」

「謝らないでください」


 救う、か。

 カリスタが救ってくれた回数を考えると、もしかしたら俺よりも英雄に向いているのかも知れない。

 

 ——今の俺にとっては、彼女が一番の『英雄』に見えた。


◇◇◇


「それで、ワタクシのいない間に何が起きたのかを、そろそろ教えて頂いても?」


 庭に散乱していた肉片は使用人たちに片付けられ、少しの赤が残りながらも元の姿に近付いていた。

 俺はその様子を、ただ眺めていた。

 手伝うでもなく、何か声をかけることもなく。

 ただずっと、その場から動けないままだった。


「カイトは自室に戻り、身体を休めています。アリステラ様はルシアンの治療に相当な魔力を消費したため、数日目が覚めないでしょう」

「……」

「光魔法で治療されたとは言え、ルシアンはまだ重症で目が覚めていません。意識があり、その現場を目撃していたのは貴方しかいないんです。こうして置物のフリをしていても、何も解決しませんよ」

「……」

「やはり、カイトの方がよっぽど『英雄』に向いていますね」


 ——『英雄』


「第一信徒が来た、というのは聞いています。貴方の因縁の相手であり、ケジメを付けなくては勝てない相手。ですが、その様子を見たところ、もう諦めてしまったということでしょう? 『英雄』に拘っていた貴方が、こうも呆気なく諦めるとは思っていませんでした」


 痛い。

 痛い、痛い、痛い、痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 右腕の痛みが引かない。

 変わらなくてはあの場所には戻れない。

 そんなこと、俺が一番分かっている。


 それでも、あの顔を、声を聞いた時に気付いた。

 俺には無理だと。


 もう、苦しみたくないと思ってしまった。


 ——『英雄』に戻ることを、諦めてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。