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第一発見 過疎化が進む山村にトカゲ犬を見た! ⑦

 UMAを探し求めて遭遇したトカゲ犬。現代に生き残ったその古代生物であるゴルゴノプスは、日本UMA発見隊の隊長【野木原・鉄人】と、彼と共に山道を進んでいたスタッフへと襲い掛かろうとしています。

 鉄人は、なおもゴルゴノプスの動きに対して好奇心を強めている様子ですが、他のスタッフに限っては、恐怖が勝り始めた様です。

 恐怖の原因は、もしかしたらゴルゴノプスの目にあるのかもしれません。

 化石や復元された標本では分かるはずも無いゴルゴノプスのその姿は、まるで人間を悪趣味に歪めた様な輪郭や肌の質感をしていましたが、一方、眼窩に収まる目は、当たり前に人間離れしているものだったのです。

 それは黒目が大半を占めていました。しかも輝きが無く、真っ黒です。

 夜闇の中にありながら、他の暗闇よりもさらに暗く黒い印象があるその目は、不思議と目立ち、鉄人とスタッフ達を睨んでいる事がはっきりと分かります。

 突き刺し、重さを与えて来る様な視線に、スタッフがその場でカメラを置き、まるで自分の身体を差し出す様な仕草を始めたその瞬間、声が聞こえました。


「ぼぉおおおおうぉっうぉっうぉっ!」


 その声は、鳴き声でした。酷く静かな山の夜に、鈍く響く、そんな鳴き声が聞こえて来ます。

 鉄人からです。

 

「ぼぉおおおおお……うぉっうぉっうぉぉぉおおお!」


 丸くした手を唇に添え、声帯を震わし、全身を左右にゆっさゆっさと振る事で鳴らしているのであろうその鳴き声は、大凡、人が出せる声とは思えないものです。

 ですが、人間の身体の中でもっとも器用と言える手と声帯を合わせて使えば、その様な音が出せるのだと、鉄人自身が証明しています。

 ですが、その音を発している意味はなんでしょうか?

 答えはすぐに判明しました。

 UMAの動きに変化が現れたのです。ゴルゴノプスは……近づいて来る足を止めていました。




■




 四国南部の某県にて発見されたUMAとその生態について、【土師・秀俊】氏は考察を語ってくれました。


「聞く限りにおいて、それは確かにゴルゴノプスだったのでしょうね。姿形はペルム紀の頃のままだったのか、それとも現代に至るまでに大きく変わっているのか。タイムマシンを持たない我々には比較検討すら許されていません。ですが一方で分かる事もあります。そのゴルゴノプスは、確かに当時の本能を残しているという事です」


 当時と変わらず捕食者としての動きをしており、鉄人やスタッフを襲おうとしていた状況について、土師氏はゴルゴノプスらしいものであったと考えている様です。

 億年という単位は、当時は本当にただのトカゲであった生き物が、二本の足で立ち、大地を駆け、恐竜と呼ばれる地球の支配者を誕生させた後、またその多くを滅ぼすまでの時間を当て嵌めて、まだまだ余りある時間です。

 その時間の中において、それでもゴルゴノプスらしさを残しているUMAというのは、驚嘆するべき事なのだと土師氏は繰り返し伝えて来ます。


「特に驚く部分は、鉄人が真似をした鳴き声に反応した事でしょう。実を言えば、この犬とトカゲを合わせて一回り大きくした様な動物は、当時において、正真正銘の頂点捕食者だったとは言い切れないのです。何せ、もっと大きな肉食動物が、同時代を生きていた可能性があるのですから。その動物の名前を、アンテオサウルスと言います」


 アンテオサウルスとは、ゴルゴノプスと同じ獣弓類に属する古生物であり、同じペルム紀に生きていた動物の事です。

 ゴルゴノプスよりさらに早い時期に大地に現れたその生き物は、よりトカゲに近く、一方でカバにも近い見た目だったかもしれません。

 見つかっている化石に寄れば、ゴルゴノプスより一回り大きく、ゴルゴノプスと同じ様に肉食性の動物だった事が分かっています。

 太く大きく、ずんぐりむっくりとした大きさのアンテオサウルスは、より細く、より小さく、比較的俊敏な動きをするゴルゴノプスと生態系を争わせ、敗北していったのではないかと現代においては予想されています。

 しかしそれはゴルゴノプスより弱いというわけでは無いのだと土師氏は続けます。特に個体同士が遭遇した時は。


「ゴルゴノプスが犬や狼なのだとしたら、ゴルゴノプスはクマやカバでしょうね。つまり、対面した時に、逃げるのはゴルゴノプスの方だったと考えられます。逃げて、生き残る事で、生物としては勝利した。そこが肝心です。もし今、目の前にゴルゴノプスが現れた時、いったいどうすれば良いか。死んだふりをするよりもっと懸命な方法として、アンテオサウルスを真似てみるというものがあるかもしれません」




■




 鉄人とスタッフ達の前に現れたゴルゴノプスですが、鉄人が発したアンテオサウルを真似た鳴き声とその身体の動きを見聞きした瞬間、戸惑ったり警戒する様な動きを見せ始めました。

 固唾を飲んで距離を測っていたのは、スタッフ達だけで無く、ゴルゴノプス側もそうだったのでしょう。

 そんな中、鉄人が一歩、むしろ踏み出した瞬間、ゴルゴノプスをそれまでに無い機敏な動きで身を翻し、私達に背中を見せて、山の木々の間へと去って行ったのです。

 その間、何度も鉄人の方を眺める仕草を見れば、鉄人をアンテオサウルスと誤認したであろう事は間違いありません。


「少し賭けでしたが、上手く行った様です。あの様に人に対して接近を選ぶUMAであった事を予想しておくべきでした」


 鉄人にとっても、ゴルゴノプスとの遭遇と接近は危険な状態だった様です。

 UMAにしても他の獣相手にしても、最低限、身を守る方法は持っておくべきなのでしょう。幸運な事に、鉄人はそれを持っていたのです。


「幸運。そう、これは幸運な事です。私達はまだ生きています。UMAもです。そうして、遭遇したという事実がここにあります。ちゃんと撮れていますか? それもまた幸運な事ですね」


 そう言いながら、鉄人はさらにUMAを追うのでは無く、キャンプ地へ戻る事を選びました。遭遇した時間はそう長くはありませんでしたが、体力を予想以上に消耗していたのでしょう。

 スタッフ達の間でも、原因不明の虚脱感に襲われている者が居ました。

 ゴルゴノプスに遭遇した事による、極度の緊張状態に寄るものだろうという鉄人の予想の後、立つのも難しいスタッフは、鉄人に背負われての帰還となりました。

 あのままゴルゴノプスに襲われなかった事は、鉄人の言う通り、幸運以外の何物でもありません。

 一方、日本UMA発見隊の幸運は、そこで尽きる事になりました。

 以降、ゴルゴノプスを発見する事が出来なくなったのです。




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