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第一発見 過疎化が進む山村にトカゲ犬を見た! ⑥

 夜の山道。脇側から生える木々は根でアスファルトに罅や凹凸を与えるだけで無く、遂には進路を伸びた枝や葉で塞ぐ様になって来たその道の先に、日本UMA発見隊の隊長【野木原・鉄人】は、動くものを見ました。

 スタッフが構えるカメラにも映るその姿は、ゆっくりと、しかし確実に私達へと近づいて来ます。


「一旦、立ち止まってください。これ以上、我々側が動くと逃げられるかもしれない。もしくは、もっと危険な場合もあります」


 それは夜の暗闇の中、薄っすらと懐中電灯に照らされて、どうしてか白く見えます。

 近づいてくる程に、その白の輪郭が鮮明になっていく光景を思えば、UMAがいきなり逃げ出す事を警戒する必要は無いでしょう。

 一方、鉄人が言う様な、もっと危険な事態となって来ました。

 UMAが鳴きます。

 猫を思わせますが、もっと低く、もっと空気に響く様な声です。

 それは折り曲げた後ろ足で地面を擦りながら、不器用そうな前足で全身を引きずる動きをしています。

 四本の足で動く姿は、例えるならば、確かに犬に見えなくもありません。顔もまた、扁平ながら縦に長く、そこも辛うじて犬と表現出来そうです。

 一方、皮膚の質感は毛の生えた犬とは思えませんでした。まさに皮膚がむき出しになっているからです。

 そのむき出しの皮膚が、トカゲという印象を強め、一方で夜の黒さに反する様に、白の印象を与えてくるのでしょう。

 ですが、こうして近づかれながら見つめていると、トカゲ犬という表現は相応しく無い様にも思えます。

 それはまるで、人間が歪み、捩じれ、雑に犬の形に近くした姿と表現するべきかもしれません。

 どう見たところで、尋常ならざる存在であるそれをスタッフと同じく見つめている鉄人は、今、何を考えているのでしょうか。

 鉄人は口を開きました。


「あのUMAを見てください。ゴルゴノプスです。間違いありません」




■




「ゴルゴノプスとは、哺乳類の遠い祖先と言える、獣弓類に属している動物の一種です」


 超自然生物の研究家、【笹岡・藤右衛門】氏の説明に寄ると、遥か太古。恐竜が大陸中を我が物顔で闊歩していた時代よりさらに遡った、二億五千万年以上前のペルム紀後期に隆盛していた動物。その時代の頂点捕食者こそ、ゴルゴノプスなのだそうです。


「化石の復元図を見ると、そのどれもが大きなトカゲを思わせるものとなっています。例えばコモドオオトカゲなどが、現代における大きなトカゲの代表例として想像出来るでしょう? 単純な外見としては、あれと恐らく、似た印象を持つはずです。だからこそなのですが、違う部分というのも目立って来ますね。そう、長い犬歯です」


 ゴルゴノプスの顔立ちは哺乳類の先祖だけあって、犬歯が目立つ顔立ちをしており、現代の犬を思わせて来ます。いわば哺乳類的な顔とも言えるかもしれません。

 一方で体毛は生えそろってはいません。足はトカゲと比較すれば長いですが、それでも現代の犬や狼程には器用にも素早くも動かせなかったそうで、普段はガニ股で歩いていたと考えられています。

 そしてこれは、UMAを追う立場としてもっとの重要な情報です。ゴルゴノプスは二億五千万年前のペルム紀末に発生した大災害と、それに伴う環境変化に寄り、絶滅したと考えられて来ました。

 あくまで今日までは。


「もし現代で、ゴルゴノプスが生き残っていたとしたら? それは途轍もない大発見でしょう。知れば恐竜や海竜、未発見の類人猿が発見されたというニュース以上に、私を驚かせてくれるはずです」


 そんな感想を述べる未確定新種動物研究家【後藤・大二郎】氏は、ゴルゴノプスが現代に生き残っていた場合の仮定について、話を聞かせてくれました。


「生物というのは常に進化をします。退化も含めれば、変化し続けるのが生き物と表現するべきでしょうか? 生きた化石という言葉もありますが、その実、化石という程には、当時とすべてが同じというわけでも無いはずです。ゴルゴノプスが生き残っていたとしても、それは当時を生きていた頃とは大きく姿が違っている事でしょうね。勿論、当時の姿だと我々が思っている姿も、あくまで復元図でしか無いわけですが」


 だとするならば、ゴルゴノプスを現代において発見した場合、その姿は、私達の想像を超えるものであるのかもしれません。

 一見すれば不気味に思えたり、脅威に感じたりする事もあるでしょう。

 ですがそれでも、言える事はあります。

 ゴルゴノプスは三メートルから四メートル程の大きなトカゲの様な生態をしていたであろうという点です。

 現代においてもそれが共通であれば……遭遇するのはとても危険という事です。




■




「目を外さない様に。特に背中を見せてはいけません。背中を見せた相手を追って来るという本能は、きっと何億年前にもあった本能でしょうから」


 そう言って鉄人は、現れたUMAのトカゲ犬、いえ、ゴルゴノプスと対面し、一定の距離を取りながらも警戒を続けています。

 それは山の中でクマに遭遇した時の対処方法に似ているかもしれません。

 一方のゴルゴノプスの姿は、クマからは大きく外れ、スタッフの目には、まともな生物に見えない、歪な姿のままです。

 冷静に対処しようとしている鉄人の様には、なかなかいきません。

 そうしてその鉄人にしても、遂に遭遇したUMAへの興奮は隠しきれない様です。


「皆さん、あの様な動物を見た事がありますか? 私はありません。恐らく、他の多くの人間にとってそうなのです。この近くに住む人間達は、こんなUMA、ゴルゴノプスと共存し続けた。その事に感動します。心の中に、何か、恐怖とも畏怖とも……あの動物にひれ伏してみたいとすら思う感情が渦巻いて居ますが、それを総じて説明するなら、これは好奇心と言えるでしょう」


 頼もしくすらある鉄人の言葉は、少しずつ、しかし着実に近づいて来るゴルゴノプスに比例する様に、多弁になって行きます。

 ゴルゴノプスが何故この様な日本にいるのか。ペルム紀末には海の底であったはずの四国の南部某県で生き残り続けた理由とは何か。

 鉄人の仮説においてはこうです。

 ゴルゴノプスは遥か昔、南アフリカに生息していたであろう古生物という事で、地質年代的にはごくごく最近まで、その南アフリカにおいて命脈を保って来たのでは無いでしょうか?

 そうして、村に伝承が残る千年も昔、遥々南アフリカから本邦に至る大陸の流通路を、人間により運ばれたのでしょう。


「近くの神社に納められているであろう存在も、またゴルゴノプスのミイラか化石なのではないかと私は考えています。東アジアの、さらに端に位置する本邦では、数多くの商品が運ばれるに至りました。見てください、あのゴルゴノプスを、到底、売り物になりそうな外見をしていません。売れ残ったミイラやそのミイラになる前の生物は本邦へと至り、近くの村で、漸く売られるに至ったのだと考えられます」


 この奇妙な外見の生物は、それだけ人気が無かったのかもしれません。人気が無かったから記録としては残されず、しかし奇妙だからこそ、何かしらの神なのではと崇められ、そうして崇められたからだこそ大切に、生物としての個体数を保った。そう考えられます。


「どの様な生態であれ、ゴルゴノプスが千年もの長い寿命の生物であるとは思えません。恐らく、この山の中には、少なくとも千年間は種を維持出来る個体数が存在しているのだと考えます。あのゴルゴノプスをトカゲ犬と呼んだ発見者の報告にもありましたね。あのトカゲ犬に一度見つかると、至るところにその視線を感じたと。恐らく……それだけの数が居るはずです。注意してください」



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