第一発見 過疎化が進む山村にトカゲ犬を見た! ④
一夜明けた発見隊のキャンプ地では、騒ぎが発生していました。
夜の内に現れたのは、近くの村に住む女の子が一人……だけでは無かったのです。
肝心のUMAは現れる事は無かったと誰しもが思っていた中、設置したカメラを確認していたところ、起動していた事が確認出来ました。
勿論、そこに動く物が無ければ、カメラが起動する事は無かったはずです。
果たして、そこに映し出された物とは。
「隊長である私も含めて、皆が驚いています。カメラの様子もそうですが、それ以上に自分の目を疑ってしまいます。昨夜、私達はUMAを見つける事が出来なかったはずなのに、カメラには確かにそれが映っているんですから」
そう告げて来る日本UMA発見隊の隊長【野木原・鉄人】は、同時にその映像を見せてくれました。
丁度、夜に村の女の子が現れて、少し後の時刻。山の中にある境内へと続く階段を映す画角で、階段を降りていく白い物がそこにありました。
四足で動いている様に見えるそれは、明らかに人間のそれでは無いというのに、肌の質感が、どうにも人間のそれに見えてしまう、不気味なものです。
その肌を見て、トカゲを彷彿させたのでしょうか? 顔にあたる部分は鋭くなり、形容はし難いのですが、犬や狼と言われれば、そう思えてしまうのかもしれません。
最初の発見者は恐らくこれを見て、トカゲ犬と表現したのでしょう。
字面だけで想像していたものとは大きく違いますが、そうとしか表現出来なかったのかも。
「カメラはそう性能が低いものでは無いはずですが、何故かノイズが混じっているせいで、はっきりと見えません。なのでこの映っているUMA……発見者への敬意として、一旦トカゲ犬と呼ぶ事にしますが、このUMA、これまでに無いものに見えますね。少なくとも、私の知識の中において、この様な見た目のUMAというのは報告されていません。ですが一方で、こうなのでは無いかという仮説が生まれました。恐らく、他の隊員達もそうでしょう」
カメラが撮った動画に映っているUMAを指で示し、時にその指で丸に囲みながらも、鉄人の様子は至って冷静です。
他の隊員達も、騒ぎの原因がカメラに映った物への驚きから、互いに相談し合うものへと変わっていました。
初めて見るUMAであったとしても、UMAの痕跡を発見し、それを考察するという作業は、彼らにとって慣れ親しんでいるものなのかもしれません。
ですが、それ以上に驚きなのが、UMAの正体について、さっそく有力な仮説を立てている鉄人の存在です。
「慎重過ぎると思われるかもしれませんが、もう少し、周辺の環境から材料を集めてみたいと思います。撮影許可が下りていないので、ここで一旦カットする事になりますが、山の中の神社へ入ってみる事にします。UMAはそこから降りて来た様にも思えますので。スタッフの方々はここで待機するか、ついて来ていただくか選んでください」
勿論、スタッフ一同、隊長と共に山の中の神社へと足を踏み入れる事に決めました。
映像としては残す事が出来ませんので、言葉での報告になりますが、そこでUMAを発見する事はありませんでした。
御神体であるトカゲ犬のミイラについても同様に、部外者が見てはならない。祟りがある。という事で、カメラの有る無しに関わらず、見る事も映す事も叶いません。
ですが、鉄人は大きな発見をした様です。
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「UMAを見つけようとする際に、もっとも高いハードルは、UMAが隠れ潜んでいる事では無く、現地の住民との協力関係をどう築くかでしょう」
自身もUMAの発見活動をした経験のある通称、日本UMA専門家【大盛・千草】氏によると、発見隊がどれだけ装備を整えて現地に赴いたとしても、現地の住民の方が遥かに多く、UMAに関する知識を持っているとのことです。
「このような状況に対する問題としては、基本的に現地の住民は情報や知識を秘匿するということです。それをUMAだと思わず、むしろUMAがいる事が日常だと考えてみてください。そこに発見隊を名乗って、日常の粗を探すような人間達がやってくる。私だってUMAの専門家で無ければ、さっさと帰ってくれと思ってしまうはずです」
この様に、現地の住民の協力は是非とも欲しい状況でありながら、なかなかそれが得られないというのが、日本UMA発見隊の常です。
このジレンマの解消は、それなりに困難を極めると予想されます。
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「私達が外部からやってきた余所者であるというのは、どれほど言葉を尽くしたところで変わることはありません。まずはそこを認めることから始める必要があります」
神社の境内へ入ったものの、管理者との交渉も空振りで終わり、UMAのミイラを見る事が叶わなかった鉄人ですが、その目の強さは変わりません。
日本における新しいUMAを発見するという意欲は失われていないどころか、次にやるべき事を見つけた様でした。
「三時間ほど、昨夜カメラに映ったUMAについて神社の管理者と話し合う中で、ミイラは見せられないが、神社の方で記録していた、御神体の伝承について教えていただく事が出来ました。感謝するしかありませんね。内心では迷惑と感じながらも、私達の熱意が、少しは伝わったのだと思います」
鉄人はその手応えと共に、隊員達へUMAの新情報を伝えて行きます。
神社にあるUMAのミイラは、千年も前に大陸から持って来られたものと伝わっているそうです。
当時、中国では北宋が全盛期の時代という事もあって、比較的安定していた時代の事。当時の日本の主要通貨にすらなった宋銭などに代表される輸入品が、多く本邦にもたらされていました。
UMAのミイラもその一つです。
「UMAに限らず、ミイラというものは、ある種の妙薬として重宝されて来た歴史があります。そのミイラとなる動物が珍奇なものであればあるほど、薬効は強力なものになるとも考えられていたそうです。現代人の私達が見ると、非常に勿体の無い話だと思われますが、現代の価値観で語るというのも愚かな考え方でしょう。今はただ、そんな珍しい物が現代においても残っている事に、UMAを追う者の一人として感謝するべきでしょうね」
ですが、その貴重な薬とも見られていたミイラが何故、この村と、そうして山にある神社において、御神体として祀られる事になったのでしょうか。
鉄人が手応えを感じているのはそこでした。
「伝えられている薬効としては、ある種の呪物と言いますか、その薬を飲んだ者は、どんな病も治る代わりに、一生をミイラ……トカゲ犬の事ですね。トカゲ犬とそれを崇める人々の言う事を聞き続ける事になるのだそうです。そうして、積極的に仲間を増やそうとする行動に出てしまうのだとか。これ、意味が分かりますかね?」
素直に聞く限りにおいては、古くから続く奇妙な風習や伝承に聞こえます。例えばトカゲ犬の最初の発見者の同行もまた、積極的にトカゲ犬の話を広めて、その影響を広げる助けとなっているという話題にも繋げられそうです。
一方、鉄人の目は鋭く、まったく別の判断材料として、この伝承を考察するに至った様です。
「ミイラであるトカゲ犬がの言う事を聞き続けるという話。まるでミイラがまだ生きている様な内容です。さらに積極的に仲間を増やす。それがミイラの薬効というのは眉唾な部分ですが、この仲間を増やすという部分が気になります。本当に、大陸から輸入されたのは、単なるミイラだったのか。もしかしたら……」
意味深に語るのはここまでとばかりに、鉄人は一旦、会話を止めて、次に村の方へと足を運ぶ事に決めた様です。
どうやら自分の考えを裏付けるために、神社の管理者へと熱意を伝えたのと同様に、村人達とも交流を持ち、伝承とUMAの関係性について語り合うつもりの様です。
「実を言えば、少し楽しくなって来ています。何時間だって話をしてみたい気持ちです。それがトカゲ犬というUMAを見つける事へ繋がると思えば、ここにあるものは苦労などと言えませんね。一種の娯楽です」
鉄人の言葉は単なる強がりとは思えません。実際に軽い足取りで、村へと進む鉄人が再びキャンプ地へと戻って来たのは、日が暮れ始める時間帯でした。




