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Episode 5: Amy & Brady

このエピソードの登場人物


田所トシキ

健一と佳代の息子。東大生で元競泳選手。

ただ平和にカフェデートをしたかっただけ。


シンディ・ゴールドバーグ(Cindy Goldberg)

俊樹の恋人。L.A.出身の留学生。

俊樹がこれから何に巻き込まれるか、最初から全部わかっていた。


エイミー・ヴァーデン(Amy Varden)

シンディの高校時代の友人。

朝5時起き、趣味で10kmランニング、砂糖を戦争犯罪者みたいに扱う超ストイック健康オタク。


ブレイディ・ヴァーデン(Brady Varden)

エイミーの兄。売れない俳優志望。

今年すでに50回オーディションに落ちているが、ジャンクフードと根拠のない自信、そして危険量のレッドブルだけで生き延びている。


田所健一

俊樹の父。ホテルで安全に休養中。

余ったハリウッド人脈を軽いノリで使い、奇跡を起こす。


翌日の午後。

俊樹とシンディはサンタモニカのカフェのテラス席に座っていた。

少し先ではサードストリート・プロムナードの活気が広がり、海からのやや冷たい風が流れている。

トシキ

「エイミーってもうすぐ来るの?」

トシキはスケジュールを確認した。

シンディ

「うん。さっき連絡が来た。あと五分くらいだって。」

シンディは意味深に微笑んだ。

トシキ

「どんな人なんだ?」

シンディ

「すごく規律正しいの。健康オタク。」

トシキ

「健康オタク?」

トシキは眉を上げた。

シンディ

「フィットネス、スポーツ科学、食事管理……最適化パッケージを全部搭載してる感じ。」

トシキ

「へえ。ちょっと面白そうだな。」

元競泳選手だったトシキは、多少は話が合うかもしれないと思った。

その瞬間――

「シンディ!」

鋭くよく通る声がテラスを横切った。

振り向くと、金髪の女性がこちらへ向かって走ってきていた。

全身をスポーツウェアで固め、額には汗が光っている。

シンディ

「エイミー!」

シンディが立ち上がる。

二人は勢いよく抱き合った。

エイミー

「久しぶり!」

シンディ

「本当に!元気だった?」

エイミー

「絶好調!ここに来る前に軽く10キロ走ってきたところ!」

エイミーは額の汗を拭った。

シンディ

「コーヒー飲む前に10キロ?」

シンディは確認するように瞬きをした。

エイミー

「当然でしょ。朝のルーティンの一部よ。」

トシキはわずかに体を後ろへ引いた。

(10キロがウォーミングアップ扱いなのか……?)

エイミーの鋭い緑色の瞳が俊樹を捉える。

エイミー

「あなたがトシキね!」

トシキ

「初めまして。」

トシキは礼儀正しく微笑みながら手を差し出した。

握手した瞬間――

ギュッ。

トシキ

「っ……!」

握力が異常だった。

エイミー

「シンディから聞いてるわ!元競泳選手なんでしょう?」

トシキ

「うん。日本ではジュニアオリンピックレベルまではやってた。」

エイミー

「すごい!練習量はどれくらい?どんなトレーニング?」

トシキ

「そうだな……毎朝五時に起きて朝練してたけど。」

エイミー

「五時!?完璧じゃない!」

パンッ!

エイミーは勢いよく手を叩いた。

エイミー

「私も毎朝五時きっかりに起きるの!代謝を最適化する最高の時間帯だから!」

トシキ

「……そうなんだ。」

トシキは小さく呟いた。

すでに疲れ始めている。

だがエイミーは止まらなかった。

摂取カロリー。

栄養バランス。

トレーニング哲学。

質問が機関銃のように飛んでくる。

そしてトシキが、

「当時の食事管理は母がやってた」

と口にした瞬間だった。

エイミーの目が輝いた。

エイミー

「そのお母さん絶対天才よ!今すぐ会いたい!」

トシキ

「はあ……」

トシキは弱々しくうなずくしかなかった。

会話の圧力が強すぎる。

エイミーはバッグから大型の保温ボトルを取り出し、中の緑色の液体を豪快に飲み始めた。

トシキ

「それ何?」

トシキは飲み物を眺める。

かなり粘度が高そうだった。

エイミー

「毎日飲んでるグリーンスムージー。ケール、ほうれん草、それからグラスフェッドのホエイプロテイン。」

トシキ

「へえ。」

エイミー

「細胞レベルの燃料よ。」

トシキは自分のアイスラテを見下ろした。

フレーバーシロップが二回分入っている。

エイミーの視線が鋭く細くなった。

エイミー

「精製糖?」

沈黙。

重い沈黙だった。

エイミー

「それは代謝に対する毒物よ、トシキ。今すぐステビアに切り替えるべき。」

トシキ

「……その件は費用対効果を検討してみる。」

トシキは完全に敗北した表情で答えた。

隣ではシンディが笑いを堪えるのに必死だった。

その時だった。

「エイミー!待ってくれ!速すぎだろ、少しはこっちを気にしろ!」

どこか騒々しい男の声がテラスに響いた。

しわだらけのジャケットを着た男がこちらへ歩いてくる。

手にはファミリーサイズのポテトチップス。

ポケットからはレッドブルの缶が覗いていた。

エイミー

「ああもう……」

エイミーは顔を覆った。

苛立ちが一気に上昇している。

エイミー

「ブレイディ!来るなって言ったでしょ!」

ブレイディ

「何だよ。友好的な交流活動をしたいだけだろ?」

ブレイディは満面の笑みを浮かべながらポテチの袋を差し出した。

ブレイディ

「どうも皆さん。俺はブレイディ。エイミーの数段イケてる兄貴だ。食べる?サワークリーム&オニオン。味覚工学の頂点だぜ。」

俊樹が返事をする前に――

バシッ!

エイミーが袋を奪い取った。

エイミー

「トランス脂肪酸を配るのをやめて!これはアスリートに対する生物兵器よ!」

ブレイディ

「おいエイミー!それ俺の炭水化物なんだぞ!」

ブレイディは不満そうに言いながらレッドブルを開けた。

そして即座に兄妹喧嘩が始まる。

トシキとシンディは無言でそれを眺めていた。

(本当に同じ家で育ったのか……?)

どうやら本当に兄妹らしい。

ようやく席に座ったブレイディは、トシキへ顔を向けた。

ブレイディ

「で、お前はどういう人間なんだ?」

トシキ

「東京の大学生。」

ブレイディ

「なるほど。で、聞いたんだけど、お前の親父ってハリウッド映画の主演だったんだって?」

トシキ

「うん……『デジタル・ゴースト』っていう映画。」

ブレイディがレッドブルを飲もうとしていた手を止めた。

ブレイディ

「デジタル・ゴースト!?」

エイミー

「シュピーガー監督の!?」

トシキ

「え、うん。」

ブレイディ

「お前の親父が主演だったのか!?」

ブレイディは身を乗り出し、トシキの肩をがっしり掴んだ。

理性フィルターは完全に消滅している。

ブレイディ

「なあ!昨日シュピーガーと飯食ったって噂は本当か!?」

トシキ

「まあ、一応。」

ブレイディ

「紹介してくれ!!頼む!!二分でいい!!本当に二分だけでいいから!!」

エイミーが即座に兄の指をトシキのジャケットから引き剥がした。

エイミー

「ブレイディ!お客様にシステム障害を起こさないで!」

ブレイディ

「障害じゃない!これは情熱的な業界交流だ!」

あまりの勢いに圧倒されながらも、トシキはなんとか答えた。

トシキ

「……父さんに聞いてみるよ。」

ブレイディ

「マジで!?」

ブレイディの目が輝く。

ブレイディ

「お前、今日から俺の中で伝説の救世主だぞ!」


カフェでの出来事の後。

俊樹は父へメッセージを送った。


トシキ

「父さん。シンディの友達のお兄さんが俳優志望なんだけど、シュピーガーに会いたがってる。可能性ある?」

数分も経たないうちに返信が来た。

父さん

「スティーブンに連絡してみる。あまり期待するな。」


翌朝。

俊樹のスマートフォンに予想外のメッセージが届いた。


スティーブン

「別にいいぞ。木曜日にスタジオへ連れて来い。カメラテストの見学くらいなら許可できる。オーディションを保証するものではない。」


俊樹はその内容をブレイディへ転送した。

すると一秒も経たないうちに返信が飛んできた。

ブレイディ

「うおおおおおお!!!ありがとう!!!ハリウッドが俺を呼んでるぜぇぇぇぇ!!!」


トシキは光るスマートフォンの画面を見つめながら、大きなため息をついた。

(この判断を後悔する確率は100%だな……)

そんな予感しかしなかった。

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