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冬晴るる日⑤

 裏切り者がいるかもしれないが、そんなことに構ってはいられない。


「カミラお嬢様、敵は仕留めました」


「! そうか、今すぐここを離れなければ」


「ええ、あの騎士はジェニーロスト国の者でした。大勢で攻め込まれる前に、ここから脱出しましょう。……フェリーチャは、置いていくほかありません」


 フェリーチャの死体を抱えて動くことはできない。故に、彼女を一人ここに残していくことになる。


「……分かってる」


 クレアも動くことが難しい。魔力不足は自然回復するのを待つしか手はないのだ。その魔力不足が深刻化すれば命の危機にも繋がる。彼女を抱えながら山に登るのはかなりの負担だ。


 刻一刻と時間が過ぎていく。こうしている間にも屋敷の敷地内で爆発が起こり続けている。早く行動に移さなければ逃げ道を塞がれることになるのはわかっていた。どうしたものかと考え込む。すると、アシェルが私の肩にトントンと触れた。今までこの様な行動をしたことが無いアシェルに驚きながらも、目線を向ける。


 アシェルは魔法で空中に言葉を綴り始めた。空中に書き記されていく文字を見る。


《魔法使いは生まれながらに理解している》


《己の体は魔力によって構成されていること》


《己は子孫繁栄のために尽くすことが義務であること》


《故に、死の間際、体を魔石に変える》


 アシェルの言いたいことがわかり、そんなことが可能なのかと疑念の目を向けた。彼は静かにこちらを眺め、頷くと再び同じように言葉を綴る。


《魔石をクレアに摂取させれば、魔力不足は解消される。この騒ぎの中で大人数で逃げるのは難しいだろう。私は魔力量が多いが故に、ほかの魔法使いに感知されやすい。逃げるのには足手まといだ》


「……他に方法はない、か。逃げることを最優先に考える」


《では、そのように》


 アシェルが魔石となり、その場に残ったのは赤く輝く石だけだった。それをひとつも取りこぼさぬよう慎重にとる。全ての魔石を包んだ袋はかなりの重さになっていた。


 アシェルの言っていたことが正しいなら、これをクレアに摂取させることで魔力不足が回復するはず。欠片の中で輝きが一際優れ、かつ口に含めそうな大きさのものを選ぶ。震える手を動かし、魔力不足で弱っているクレアの口元に差し出す。


「クレア、飲み込んで。これがあれば魔力不足が回復するから」


「な、に?」


「口を開けるんだ、いいから」


「ん……」


 虚ろとしているクレアの口の中に魔石の欠片を放り込んだ。口の中の異物を飲み込もうと喉が動いたのを確認する。どれ程の量を摂取させればいいのか分からなかったが、手元にあるもので飲み込めそうな大きさのものは全て取り込ませた。すると、最初よりも彼女は顔色が良くなっていた。


 この状態なら、走るのは難しくても歩くのは可能なはずだ。少ない数ではあるが、敵の気配は私たちの目指す屋敷の裏、山の方面に固まっている。通り抜けるしかない。

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