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冬晴るる日②

 逃げると答えたクレアに少しばかり安堵する。しかし、クレアが逃げるという選択をした以上伝えなければ行けないことがある。クレアもなにか私に言いたいことがあるのか、気まずそうにこちらを見ている。おそらく、お互い言おうとしている話は同じ人についてだ。


「クレア、君の母親は……」


「分かってる。わかってるよ」


 意を決して言った言葉は、早々にクレアに遮られた。疑問が確信に変わったのだろう。もしかしたらと思っていたことが、そうではなかったのだと絶望している表情だ。


「この家にいたら、自然と耳に入ってくるもん。私の、私のお母さんは、もういないんでしょう」


「……黙ってて、悪かった……」


 ううん、と首を緩やかに振る彼女を見ていられなくて、自分の足先を見つめる。あの幼なじみが来た時には知らなかっただろう。もしくは聞いた話を信じていなかった。しかし、ここで一年も過ごしていれば自然と実感せざるを得ない。母親の話で混乱させてしまったら、と思っていたが呆気なく終わった罪の告白に物足りなさを感じる。母親の死を知っていながら黙っていたことを責められるのだと思っていた。


「……後ろばっか向いてたってしょうがない! でしょ! 後ろには引き返せない。前に進むしかない、前を向くしかない」


 あの時ここに残るって決めた時から、覚悟は出来てる、そう言う彼女。


「そうだね、……わかった。逃亡の決行は、四日後だ。種末に近ずけば近ずくほど、警戒されるから」


 現時点で良くなったことなどひとつもないが、クレアが自分から死にに行く選択をしなかっただけでも嬉しいことだ。逃げるのは四日後。フェデリーカやフェリーチャ、フェリーナの力を総動員しても厳しい制限時間だ。


 フェデリーカを呼びつけ、その旨を伝えると既に予想していたようで驚いた様子はなかった。フェデリーカから残りのふたりにも伝わるはずだ。そして部屋にある地図を広げる。この屋敷周辺の地図だ。


「クレオ姉さんが通ったであろう道は、もう既に馬車が通れないように封鎖されている。道はジェラムの正面を突っ切るか、カサール国に繋がっている川を船で逃げるか」


「カミラお嬢様、正面から抜け出すのはリスクがあまりにも高すぎます。民も我々の顔を把握している。監視の目が多い」


フェデリーカの言う通り。民たちも私たちクレリデイラの者の顔は知っている。逃亡の最中にバレてしまえば抜け出すことは叶わない。


「かと言って、川を船で下る訳にも行かない。そもそもどこからそれを用意するのか。四日しか時間がない」


「……山を登っていくのはダメなの?」


「山? ジェニラーム山のことを言っているのか?」


 確かに、誰もこの道を進もうとは思わないだろう。その選択はあまりに死と隣り合わせだ。山を登り切り、向こう側に降りれたとしてそこに軍によって待機されている可能性もある。


「……古い記録なので確証はありませんが、四十年ほど前はこの山に集落があったのを記録で見ました」


「ジェニラーム山に集落? あの吹雪が止まない山に?」


「? 山に人が住んでるのはおかしいの?」


「ジェニラーム山は特殊だからね」

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