枯死向寒⑥
ところ変わってアジェルダ戦地の東部。北部は戦闘が続き荒れ果てていたのに対し、東部は比較的落ち着いていた。その束の間の安寧に突如としてヒビが入った。
「私のカリーナに手を出した、ですって? ええ、そう。……よくも、私の人形に手を出すなんて蛮行ができたわね」
カリーナが突如現れた刺客によって殺害された。その報告を受けたセレーナは戦場の高揚感により良くなっていた機嫌を急転させた。笑みを浮かべていた表情は苦虫を噛み潰したような顔に。八つ当たりなのか捕らえていた敵国の兵士を切り捨てた。
セレーナを殺した者は誰か、北部の戦況は、様々な考えが頭の中に浮かんでは消えていく。思考を巡らせながら指示を飛ばすセレーナ。本来二人での仕事を一人でこなす必要が出てきたのだ。現状把握に急ごうとするのは当然。
「うん、なるほど。先程の方よりは期待が持てそうだ」
「……ッ!」
ガキンッ────。
どこから現れたのか。誰もいなかったはずのセレーナの背後に突如として現れた男。それはカリーナを殺害した男と同一人物だった。
「何者かしら? 突然斬りかかってくるなんて品がないのね。その服装は身の丈に合ってないのではないかしら」
後ろに飛び距離を保つ。剣の間合いに入られれば対応できないからだ。突然何も無いところから現れたのは、魔法による転移魔法によるものだろう、とセレーナは当たりをつける。近くに魔法使いがいることを念頭に置きながらの戦闘は気を張る。男の相手をする前に魔法使いを始末してしまいたいのだ。
「意外と冷静だね! もう少し感情を発露してもいいと思うけれど……ああ、怖がっているのかい? 自分の姉が殺された相手なのだからね!」
「おまえッ、」
冷静さをかいたセレーナは目の前の男に切りかかった。
暗転────。
再生し終えた映像。意識が浮上し、現実に引き戻される感覚を覚えた。この感覚は初めてでは無い。記録装置を初めて使った時はその臨場感に君の悪さを覚えたものだ。
隣に座っているクレアは初めて記録装置を使ったのだろう、目を回している。落ち着かせるために背中をさする。しばらく続けると乱れていた呼吸も落ち着いた。
「……セレーナお姉ちゃんと、カリーナお姉ちゃん、は」
「死んだ。気にすることない、よくある事だ」
「よく、あること」
慰め方は多分間違っている。最近は対応の仕方も「普通」を基準にできたと思ったのに、またこういう所で間違えた。後悔のような感覚を覚えながらも慰める手を動かし続ける。
そんな私たちを置いて、何やら手を顎に当て考え込んでいた父上はようやく口を開いた。
「あれはどこの刺客だ」
「あの男の発音の仕方、ジェニーロスト国の貴族特有のアクセントだ。喉の奥から出るRの音、それに母音が小さかった。喋り方の特徴的なリズム。間違いないね、あの男はジェニーロスト国からの刺客だよ」
昔一度共通言語であの喋り方をする女性似合ったことがあるんだ、とシエラン兄さんは言った。ロミオトラップでもした時か、貴族の発音だと言っていたから舞踏会か何かであったのかもしれない。そう思っていると、対抗するようにクレオ姉さんも口を開いた。
「あの男の目、赤と青が半分ずつの特徴的な色彩。二色の色が同時に目に存在するのはジェニーロスト国のニーロン家が有名だ。あそこの家門は確か武芸にも優れていた」
クレオ姉さんとシエラン兄さんは相変わらず張合いを続けている。相手が情報を出したのなら、それを上回る勝ちの情報を出す。それの繰り返しだ。父上が止めるまで続くだろう。
「ジェニーロスト国、か。態々介入してきたということは、この戦争にも参戦するつもりなのだろう」
「しかしお父様、ジェニーロスト国は大国。物資も人材も豊富なあの土地は、いついかなる時も戦争に触れることなどありませんでした。このタイミングで、この戦争に介入する程の大きな意義があるのですか?」
商人であるクリスティーナ姉さんは他国の内情をよく把握している。ジェニーロスト国は物資が枯渇している訳でもない。損害分の利益をこの戦争で得られるとは思えないのだろう。
「カサール国を援助することで得られる利益。……奴らも魔石鉱脈を狙っている」
「しかし、カサール国で新たに発見された魔石鉱脈は開発が進んでおらず、その規模も詳細も判明しておりません」
「奴らにはこの程度の損害など大したものではない」
カサール国は世界で数少ない魔石鉱脈を有する国だ。しかし、クリスティーナ姉さんの言う通り未開発で戦争での損害分を回収できる確証は無い。それでもチャンスを逃すわけにはいかず、投資する分もジェニーロスト国程の大国にとっては痛くも痒くもない。そういうことなのだろう。




