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枯死向寒⑥


────アジェルダ戦地


 そこにあったのは積み上げられた屍の山と乱雑に投げ捨てられた武器。


 屋敷にいる時の華やかなドレスを纏う姿とは打って変わって、軍人であると一目でわかる軍服に身を包んだ双子がそこにいた。


 クレリデイラ家の中でも戦場に身を投じるのはひと握り。そのほとんどが成人してから使い捨ての駒として送られるのだ。しかし、二人にとっては戦場を訪れるというのはひと味違った意味を持つ。


 鼓舞と指揮。それこそが彼女たちの価値を高める能力だ。カリーナとセレーナにとって戦場とは故郷であり、愛すべき血と硝煙が立ち込める遊び場でもある。己が前にでて敵をなぎ倒す快感も、参謀として後ろから盤面を思いのままに操やつる愉悦も、空っぽな心と体を満たす手段だった。


 アジェルダ戦地にに派遣されてからしばらくが経ったある日。カリーナとセレーナは別れて行動することになった。カリーナは南部に、セレーナは東部に赴き指揮官として指示を下すことになったのだ。


 二人が別れ、カリーナが南部に着いた時、そこはいつもの戦場と何ら変わらないはずだった。いつも通りに指示を下し、時には遊び半分に敵をあしらう。


 そう、いつも通りだったのだ。とある男が現れるまでは。


「お初にお目にかかります、麗しきクレリデイラの姫君」


 シルクハットに紳士ぶった燕尾服。手に携えるのは翠玉が施された杖。帽子を取り、華麗なお辞儀を披露した男。カリーナが瞬きをした次の瞬間、得体の知れないその男は彼女の目の前まで迫っていた。


 カリーナは鍛えられた警戒心によるものか、思考する間もなく体が反射的に後ろに飛び下がった。得体の知れないものに対する恐怖。それに近いものを感じているのだろう、顔を歪めるながらも敵を観察する。頭のてっぺんからつま先まで。どんな些細な動きも見逃さないように敵から目を離さない。


「おお! なんと素晴らしい反応速度だろう! それに私に恐怖を感じていながらも、決して目を離さない。優秀な証拠だね」


「……気持ちが悪いわね。敵を褒めるのは戦場において挑発するための侮辱行為。戦場に慣れている人間ならまずそんなことは口にしない」


 無法地帯の戦場においても敵に敬意を払う暗黙の了解が存在している。それを気にすることもなく讃美を口にする。それをするのは余程の馬鹿か、命知らず、戦場に慣れていない新兵だ。


「あなた、戦場に足を踏み入れるのは初めて? ここでのマナーを私が教えてあげるわ!」


「熱烈なダンスの誘いだ! 是非とも宜しくお願いしたいところだね」


 金属がぶつかり、鳴り響く音。両者共に手に持つ剣は相手を狙っていた。


 カリーナはセレーナと揃いの剣で斬りかかり、男は翠玉が施された杖から仕込み剣を取り出しそれに応じていた。


 戦う前から察してはいたことだが、男は戦場に似つかわしくないふざけた服装をしているにも関わらず、カリーナを凌ぐほどの実力を有していた。虚勢から出た言葉も意味をなさない。カリーナは地面を踏み抜くように重心を移動し、剣を振り下ろす。重心移動は剣技の基礎。幾度となく繰り返したその動作は寸分の狂いもなく、敵を切り裂くはずだった。


 予想外だったのは、その男の技量が少しばかりカリーナを凌駕していたこと。そして、事前にカリーナの戦いにおける癖を男が把握していたことだった。剣を振りおろそうとしているカリーナの懐に潜り込み、低い姿勢から仕込み剣で突き刺す。防御も何もない。完全な一瞬の隙を狙った攻撃だった。剣先はカリーナの心臓部を貫き、軍服は赤く染め上がっていた。


 時間差で振り下ろされたカリーナの剣は先程までの鋭さがなく、ただ目の前にいる男を退けるために振り下ろされた。


「…………かは、ッ」


 咳と共に赤い血を吐いたカリーナは力なく倒れ込んだ。痛みと出血により、視界が歪んでまともに立っていられないのだろう。血が滲むほど強く手を握りしめ、地に這いつくばりながらカリーナは表情を歪めていた。


「よくも……」


「なかなかに楽しいダンスだったよ! 次回があれば、もう少し長く踊っていたかったけれどね」


 それでは、失礼。と言い残し男は去っていった。カリーナは何とか立ち上がり、歩こうとしたがまたしても倒れ込んだ。

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