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枯死向寒⑤

 食べ物を売ってる屋台に行っても、芸を見せている場所に行っても、華やかな踊りを見ても、クレアの顔は曇ったままだった。励まし方など分からない。そんなことはやった事がない。この間の落ち込んでいたクレアとのやり取りでさえ、探り探りの挑戦で少し不安だったのだ。どうするのが最適解なのか分からず困り果てる。後ろに控える四人を見ても首をすくめるだけで答えは出てこない。


「クレア、その、どうかしたのか?」


「……なんでもないよ、ただちょっと……」


 彼女に楽しんで欲しくて連れてきた祭りだが、正反対の結果になってしまった。どうしたものかと考え込んでいるとクレアの方から今度は話しかけてきた。


「ねえ、どうしてあの子はあんなに飢えてたの?」


「……それが戦争だからだ。父上はカサール国に戦争を仕掛け、カサール国で産出される魔石を手に入れたいんだ」


 魔石は、燃料や武器、単なる宝石としても高値で売れる。用途は様々だが、役に立つ代物だ。魔石は人の生命力から作り出す以外にも鉱山から発掘できる。ただしその魔石の鉱脈を有している国はこの世界でたった数国。このシリディ国にはその魔石の鉱脈がない。

 

 故に人の命と引替えに作り出す研究を父上は進めていた。しかし、その研究の成果が思わしくないため手っ取り早い戦争に手をかけた。魔石鉱脈には戦争を仕掛けてでも手に入れる価値がある。


 魔石は魔法使いの魔力切れを解消することもできる。取り込めば魔力として変換できるのだ。それを利用し、魔法使いを兵器として運用可能にする。それがおそらく父上の考え。その実験として最適なのがクレアだ。


 戦争というものに直面して、衝撃を受けているクレアを見る。答えを得ても、彼女の顔が腫れる様子はなかった。そのまま祭りを見て回る気にもなれず、屋敷へと帰る。


 今日は定期報告会なのだ。戦場に行った彼らも帰ってくる。屋敷に着いた時はまだ昼過ぎの三時ほどだった。適当に時間を過ごし、クレアを連れて食堂へと向かった。


 予定通りに向かった食堂には数人しかいなかった。今日はアジェルダ戦地から四人が一時帰還として帰ってくるはずだ。それなのに今この場にいない。それはつまり本来この場にいるはずの人達がいない、ということ。


 今ここにいるのはカーティス兄さんとクリスティーナ姉さん、クレオ姉さん、シエラン兄さん、私、そしてクレア。六人しか居ないのだ。セレーナ姉さんとカリーナ姉さんは、アジェルダ戦地から帰ってきていない。それはつまり、そういうことだろう。


 苛立ちが頂点に達しているらしい父上はその様子を隠すこともせず、苛立ちに任せて殺した部下の頭を踏みつけている。


「…………セレーナとカリーナはどうした!」


 怒号に身体を震わせたクレアの手を握る。それに少し安心したのか、こちらを見る目は恐怖の中に安堵の感情を浮かべていた。そしてその怒号を浴びせられた部下は、少し可哀想になるほど全身を震わせていた。


「セ、セレーナ様とカリーナ様は、アジェルダ戦地にて戦死いたしました……」


「なんだと……?」


「本来ならば負けるはずのない戦いでした! ですが、カリーナ様が突如現れた敵国の刺客により殺害され、セレーナ様はそれを知った途端激怒し暴れまわっているところを敵に……」


 カリーナ姉さんとセレーナ姉さん。あの二人はお互いのことを思いやっているように見えて実際はそんなことはなかった。カリーナ姉さんはセレーナ姉さんのことを憎んでいたようだったし、セレーナ姉さんはカリーナ姉さんのこと所有物の人形のように扱っていた。


 当然と言えば当然のことだろう。カリーナ姉さんは双子の姉なのに妹に序列で負けている、それはつまり自分よりも性能の良い代替品がいるということ。セレーナ姉さんはそんな双子の姉を下に見ていた。それなのにお気に入りの玩具が盗られて我慢できなかったんだろう。


「カラム様とクランレス様も同様に……」


「チッ、役たたずの話に興味は無い! ……失せろ」


 逃げるように去っていく部下。再び訪れた静寂。


「情報はあれど、現状が分かっている訳ではない。戦地に手配しておいた記録装置(アカシック)を見てみては?」


 それを破ったのは珍しくもカーティス兄さんだった。


 普段言葉を発することが珍しいカーティス兄さんの発言に、父上は眉を釣り上げた。


「ふん、いいだろう。…… 記録装置(アカシック)を持ってこい」


 記録装置(アカシック)とは。簡単に言うと、本体であるコアに記録を貯めることができるものだ。エネルギーが込められた媒体を所持していることで、その場の出来事を映像として保管しておける。記録された映像はコアに集約されるため、コアさえ破壊されなければ幾度となく繰り返し確認が可能な優れもの。


 当然、アジェルダ戦地にもその記録装置(アカシック)の媒体は運搬されていた。しばらくして部下の一人が慌ただしく運んできた記録装置のコア。それはアジェルダ戦地の記録を再生し始めた。


 頭に直接捩じ込まれるように、新しい記憶、知りえない記録が映像として見え始めた。

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